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14.消えた傷

目の錯覚かと思い、もう一度ベルの手をつかんでじっくり見る。

「ベル、痛い?」

「うん?うん?」

ベルも自分の手を角度を変えて何度も見る。

「ちょっと薬を取っちゃうけどいいかな?」

「うん」

ベルの返事を聞き、ティッシュで拭う。

まったく傷がない。ピーラーで柿の皮と一緒に薄皮だけど剥いてしまっていた。

剥いた薄皮が張り付いたとかそういうことではない。掠り傷さえない。

どうなっているんだ。


薬の効きがすごくいいのか?

ベルの自己治癒力がすごいのか?


わからない。


ベルも不安そうにこちらを見ている。


駄目ジャン私。


「よかった。大丈夫みたいだね。もう痛くないのかな?」

「う~ん」

手を握ったり開いたりしてみる。

「うん!痛くない」

「そう、本当に良かった」

「続きやるっ」

えっ?すごい前向きさだ。可奈はなんかへこんで疲れてしまっている。

「・・・・そうだね。やっちゃおうか」



ピーラーの使い方をもう一度確認して、ゆっくりやるように言う。

「焦らなくていいからね、ベルが剥いてくれた柿は、とっても綺麗に剥けてるね」

うんと頷きながら真剣に剥き始めた。すべての柿を剥き終え、縄でつるし終えたのは、お昼前だった。


今日のお昼は何にしようか。

ベルがピザを食べてないとは思わなかった。

クレープの野菜巻にしょうかな。

そうしよう。





その晩風呂に入って気づいた。

ベルの背中の傷が、薄くなっているのだ。

痣のようになってしまって、絶対に痕が残りそうな傷跡だったのだ。

最近では、浮き出ていた骨も見えなくなり、子供らしく健康そうな筋肉としなやかな手足になってきていることにばかり目がいっていて気が付かなかった。

薄くなっているというのは、ほぼ見えない状態まできている。後もう少ししたならば消えてしまうだろうと思えるほどだ。


そうなったらとても幸運だ。


女の子なのだ。痛かったり怖い思いをした記憶は消えないだろう。その上、そのことを思い出させる痕が背中に常にあったならば決して安心した生活は、望めないだろう。

痕を付けたヤツは、おそらくなんとも思っていないだろうに、痛めつけられたベルがそのことを一生忘れられないなんて理不尽すぎる。


まだ、たった7つだ。


そいつに会ったら、八つ裂きにしても気が済まない。その思いは、可奈の心に沁みついている。でも、傷跡がなくなってくれるのは大歓迎だ。


夜中に時々夢でうなされるベルを抱きしめながら何度も誓ってきた。


ベッドに入り可奈にくっついて寝ているベルを撫でながら、穏やかな顔で眠るベルを眺める。


もう大丈夫、私が、その痛さを覚えている。絶対忘れない。

あなたに何かするヤツは絶対許さないから、地獄の底まで追いかけていき復讐してやる。



次の日、少し寝坊した。すでに、ベルが目を覚ましていて可奈を起こした。

いつものように、すっきり目覚めたが、ベルの朝からにこやかな顔を見て、昨夜の黒い可奈は封印だと思った。


やっぱり、深夜一人で考え込むのは、駄目だね。いつもの座禅をしながら反省した。

もちろん目には目を、歯には歯をではなければだめだと思う。でも、いつも戦闘態勢だと、疲れてしまう。可奈もだが、ベルにとってもよくない。


スローライフを目指さなければ。


ふぅ・・・・



その時は、その時だ。




今日の朝は、柿ジャムにしようか。


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