13.魔法ってお腹が減るの?
とりあえず、家に戻って、一休みだ。ハクたちには持ち場についてもらう。手を洗いお茶には早いが支度をする。
「ベル何にする?」
「う~ん。葡萄のジュース」
「炭酸?」
「ううん。今日は、100%がいい」
グルメだ。グルメが育っている。可奈の子どものときは、駄目だと言われても炭酸ジュースを飲みたがっていたのに。
自分には、紅茶を入れ、ベルに要望のジュースとシュークリームを用意する。ダイニングテーブルに座って、気持ちを落ち着け慎重に話を聞き始める。
「ねぇベルは、イエローやハクたちが魔法を使えるって知っていた?」
可奈の顔を見て、何を言われるのかと、少し戸惑ったように答える。
「うん。知っていた。時々、砂漠に向かって練習していた。いけなかったの?」
心配そうな顔をして聞いてくる。
「違うよ。そんな顔しないで。ただ、びっくりしただけ」
可奈の言葉に安心したのか、とたんに嬉しそうにいう。
「そうだよ、すごいでしょ。イエローって妖怪雨ぽんの妖怪みたいにいろんな攻撃ができるんだよ。ハクが一番すごいけど、イエローもすごいんだよ。」
「そう、イエローすごいんだね」
「うん、うん」
可奈にイエローのすごさが伝わったのが嬉しかったのか満足したように、勢いよく首を振りながらうなずく。ジュースの入ったコップを取り一気に飲むと、シュークリームを食べ始める。
育ち盛りはすごいね。ほんの1時間前に朝ごはんを食べたばかりだというのにもうあんなに大きなシュークリームが食べられるなんて、えっ!もう1個食べたい?食べすぎじゃない?おなか減った?
・・・・・・・魔法使うとお腹へるのか?
「ベル、お菓子よりちゃんとしたもの食べたほうがいいね」
「え~シュークリーム後1個食べたい」
「うん、それよりもピザを焼くからそれにしよう」
「ピザ?」
「あれ?食べたことなかった?15分くらいかかるけどちょっと待ってて」
急いで冷凍ピザをオーブントースターにいれ焼き始める。すぐにいい匂いが立ち込める。
「ふぁ~いい匂い」
「でしょ、楽しみにしていて」
チンという音とともに急いで用意した板皿にとりベルに出す。
「熱いから気をつけて」
「いただきます」
ふぅふぅと息を吹きかけながら切り取ってやったピザを持ち食べる。
「おいしい」
一口食べるとチーズを引っ張りながらにっこり笑う。もっと食べられそうだったので、トースターに一枚入れる。
あっそうだ、と気づく。
「ベル、ちょっと1人で食べてて、ハクやイエローたちに餌をやってくるから」
「私も行く」
「いや・・・そうだね、それを一枚食べてからにしようか」
入れてしまったピザは、後で食べることにして、2人で餌をやりに行く。
イエローは庭先で、ベルが出てくるのを待っていたが、イエロー意外の鶏たちは、警戒に当たってもらったため四方にいる。
「ハク~ブル~レッド~ブラック~庭に戻ってきて~」
大声で呼ぶ。御近所関係なく大声を出せる。いいのか悪いのか。
ほとんど時間をかけず、ハクたちが集まる。その間にベルと餌を用意する。えさ箱は、納屋にあったもろ箱を使う。ベルと同じように魔法を使った後なのだから、おなかのすき具合も半端でないだろうと、大量に入れてやる。用意している後ろを付きまとうイエローが邪魔だと思いながら。
「イエロー待っててね。すぐ食べさせてあげるからね」
イエローをなだめるベルが、ちょ~かわいい。
いい子だよ。ほんと。可奈みたいに、うざいとか思わないんだね。
「はいはい、みんな、さっきは頑張ってくれたね、お腹すいているでしょ。食べて」
というと、用意が終わるまで、そばでおとなしく待っていたハクが、
「コケッ」
といいながらつつき始めるのを合図に他の鳥たちもつつき始める。イエローはフライングぎみだったが。
「さて、ベルも続きを食べようか。まだ、入るでしょ?」
というと、ニコニコ鶏たちが食べるのを眺めていたベルが、満面の笑みを浮かべ可奈にうなずく。
「まだまだ入るよ。あと5枚っ」
いや。それは無理でしょ。
あと5枚は無理だったが、3枚を食べたベルは、腹ごなしをかね、可奈と一緒に畑仕事にいそしんだ。農家の仕事はけっこうある。7歳のベルもずいぶん役に立ってくれる。実際可奈としては、すごく助かっていた。実用的な面でも精神的な面でも。1人で黙々とこなすことも嫌いではない可奈だったが、そばにベルがいて話しながら仕事をするのは、ベルの面倒を見ながらでも、楽しく、仕事もはかどった。お昼もいつもより量を多くして食べた後、一休みをして、お勉強タイムである。
ベルに昼寝をさせているときに、ベルの服を作りながらふと中庭の柿の木を見ると、渋柿がたわわになっている。
甘柿は、まだ赤みが薄い。
さて、渋柿だ。
ベルが起きた後、柿をとる。伝統的な竹ざおが登場である。あまり高いところは神様へのささげ物であるとおじいちゃんが言っていた。
もともと採れないからじゃないかな、などとは、絶対に思わない。
ベルがやりたがるので、小さい竹ざおを作り、低いところをとらせる。
バサバサと羽の音がしたと思ったらイエローが飛んでベルがひっかけて苦労して折ろうとしている枝を嘴で切り取り落とす。
ボタッ
おうっ
「イエロー、落としては駄目。ほら、こうやって、折り取ったら竹の割れ先にさんだまま採るんだよ」
得意そうにしていた小さな鶏冠がしゅんとかしぐ。
「イエロー頑張って」
ベルが小さな声援を送る。
横取りされたのに応援するなんて、ちょ~かわいい。
まぁイエローも横取りするつもりなんかなくて、ベルを手伝ったつもりだと思うけどね。役に立たなかったけどね。
そんな間にイエローがもう一度羽ばたき、柿の枝を折り、今度はうまく地面まで持ってくる。
えっあんた、そんなに賢かったの?
「すごいよ。イエロー。天才だよ」
べるが、手をたたいて喜ぶ。
すごいのはベルだよ。あんたって子は、誉めて伸ばすことがとっても上手になってきてるね。それから、イエローあんたは、あんまりドヤ顔するな。むかつくから。
本心からそう思っているのだろう、得意そうなイエローを撫で回して誉めるベルが、一緒に誉めてほしそうに可奈を見てくる。
「すごいね、イエロー、たいしたもんだ」
とりあえず、一緒にイエローをなで繰り回す。それからは、早かった。予定量の渋柿を採り、ビニールに入れ家に戻る。
今日採った分は、渋抜きをして食べる分だ。ベルと一緒にアルコールにヘタをつけておく、風呂の残り湯で渋抜きだ。
次の日の昼前に再び、渋柿を採る。今度は脚立で、高枝切りバサミを使う。イエローやハクたちにも参加してもらう。あっという間に数がそろう。この分は干し柿にするつもりだった。
お昼を食べた後、皮むきをする。ベルもやりたいというので、ピーラーを使わせる。
最初は注意して見ていたが、ベルも器用に皮を剥いていたので、油断して目を離した隙に、事は起きてしまった。
「あっ」
小さい声がした。ベルのほうを見ると柿の汁とは違う赤いものが柿についている。可奈が見たことに気が付いたのか、泣きそうな顔で、こちらを見る。急いで、ベルの元にいき、手に持ったままの柿やピーラーをとり、傷ついたところを見る。
血がだらだら流れ、柿の汁と混じってよくわからない。ベルは泣きそうな顔はしても、声を出さない。
「痛いでしょ。声を出してもいいんだよ。痛~いって」
ベルを水道のところへ抱えながら話しかける。痛いといったら叱られると思っているのだ。今まで、そういう環境だったのだ。この間の沢に落ちたときもそうだった。可奈の実感だが痛いときは痛いと大きな声で騒いだり、うめいたりしたほうが痛みが紛れるものだ。怖いときもそうだ。ベルはたぶんそれが許されない環境だったんだと思う。ここでは、言いたかったならば、思いや苦痛を声に出しても構わないんだと知って欲しい。
「ちょっと水で洗うから、痛いよ」
「痛い」
本当に小さな声で言う。
「ごめんね、でも、ばい菌がはいっちゃうと膿んじゃうからね」
小さい声でも、痛いと声に出してくれて安心した。
「痛いよ、痛い」
続けて、可奈に何度も言う。
「うん。うん。もう少しだよ。」
傷口を洗ったあと、水絆創膏をつける。傷口は血が出たほど大きくなかった。ピーラーで少し剥いてしまったようだ。すぐに血も止まった。
えっ傷口が・・・
ふさがった。
何がおきた?




