表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/54

11.魔法の使い方

やばい、まじやばい。

ヤバイと思っていたけど、本当にマジやばである。

砂漠に魔獣改めワームと名付けたヤツが、やたらたくさんいるのは知っていたが、それ以外の魔獣もいるとはびっくりである。ワームは縄張りらしきものがあって、めったにかち合うことはないようだったが、他の魔獣と怪獣大戦争を繰り広げるようだ。

今みたいに。


あり地獄から顔を出した、団子虫の大きいバージョンがワームに襲われている。・・・襲っている?酸みたいなよだれ?や緑色の体液やら黒い何かが飛び散り凄いことになっている。当然、門の前の砂漠はめちゃくちゃに荒れている。大時化の海のようだ。砂が舞い散るなんて甘いものではなく、ざぶざぶ音がしそうなほど、めくれ返っている。




可奈たちは、そうそうに、家の中に避難した。


さて、どうしたものか、魔獣たちは、家の周りを取り囲んでいる。ときどき砂漠の海の中で見かけるけど、それ以上に砂の中に潜んでいそうだ。

ベルの練習を中断して、様子を見たほうがよさそうだ。ベルを連れ2階に上がる。

東西南北をそれぞれ見渡す。砂漠のところどころに、最初ここに来たときにはなかった黒いものが散らばっている。何もない砂漠に落ちたゴミのようだが、たぶん魔獣や魔獣の死骸だ。門の前で食いちぎりあっている魔獣たち以外にも、遠くのほうで砂煙が舞い上がり、魔獣たちの影が砂煙の中に見えている。


「すごいね。」

唖然として、思わず口から出てしまった。

「いっぱいいるね」

横で怯えたように答えたベルに向かいあって、言い聞かせる。

「家の敷地外に出ては、絶対駄目だよ。たぶん音か地面に伝わる振動みたいなもので、よって来るんだと思う。どのくらいの音や振動で寄ってくるか、わからないけど、ベルは絶対外に出ては駄目。」

ベルの前に座り込み、目を覗き込みながら言う。脅かしたいわけではないが、命がかかってくると思うと、何が何でも言うことを聞かせなければならない。

沢に落ちるくらいは可奈の小さい頃でもあった。危ないことには変わらないが、魔獣に出会ったら即、死が待っている。いい加減なことは、言ってられない。

可奈の真剣というより必死なな様子に萎縮したように下から見つめる。

「ベル、約束して、絶対1人では敷地外に出ないって、イエローがいても駄目」

「う・・うん、わかった。」

「ホントに?約束だよ」

「うん、約束する」

可奈の真剣さが通じたのか、真っ直ぐな瞳で、言葉を返してくる。

約束してくれたことに少し安心するが、何が起こるかわからない。ベルの身の回りを注意しよう。イエローだけじゃなくハクとレッドもベルにつけよう。自分も目を離さないようにしよう。ふとベルを見ると可奈を心配そうに見上げている。

「絶対約束守るよ」

心配そうに可奈の手に触れながら言う。


心配そう?

怯えている?

何に?

この状況に?

ベルを脅かしてどうするの?

これからもここで生活してかなくちゃいけないんだよ。怯えさせて一生暮らすの?


可奈があんまり黙っているので不安になってしまったのだろう。ベルの顔が泣きそうになる。

ベルを安心して快適な暮らしができるようにするためにしていることが、これでは駄目である。

「ごめん。ちょっと考え事しちゃった」

首をかしげて、目にいっぱいの涙をためたまま、可奈を見あげる。

自分は馬鹿だ。自分の恐怖を年端もいかない子供におしつけてどうするんだ。


「いやいやいや、ベルチョーかわいいんですけど」

適当なことを言って、見境なくベルを抱きしめ、そのまま抱き上げる。こわばった身体が棒のように持ち上がる。

「ごめん、ごめん驚いたね」

首を振りながら可奈の首元に顔をうずめ、こすりつける。さらさらになった髪の毛からいい匂いが鼻をくすぐる。その後、身体の力を抜き可奈に身を預けたのを見計らって謝る。

「驚かしてごめんね、おかあさん駄目だね、魔獣なんて見たことのないところから来たから慌てちゃった」

「ううん」

抱き上げたまま2階から下に降りていく。

「家の周りは、魔獣に、取り囲まれているんだよ」

「うん」

「でも、家の中なら絶対大丈夫なんだよ」

自分にも言い聞かせるようにベルに言う。

「うん」

「お母さんが絶対ベルを守ってやるから」

「うん」

何を根拠に大丈夫といっているのか自分でもわからないが、家の敷地内では、絶対に安全であることだけは、本能的にわかった。

というか可奈の周りにだけは、絶対安全区域であることがなんとなくわかっている。沢のときのことも考えると、可奈が意識して庇えばその範囲が広がることもわかってきた。だから家の敷地外にでなければ、大丈夫なのだ。不安に狭められて生活するよりも、気を楽にして暮らして生きたい。さんざん脅かされて生きてきたベルの生活を、不安に駆られるような暮らしにしてどうするのだと反省する。自分がしっかりしていればいいことだ。

「ベル」

「うん?」

「イエローといっしょにハクやレッドたちともこれからは遊んで」

「どうして?」

「うん、なにがあるってわけじゃないけど、1人より2人、2人より3人っていって、頼りになる人は多いほどいいじゃない。人じゃないけど」

少し間が空いて、考えた後、

「うん、わかった。みんなでいるほうが楽しいものね。」

それでも、何か察したのかベルが言う。


うちの子、超~賢い。


「そうだね、いっしょに遊べばいいよ」

「そうする、魔法の練習は?」

「それは、私のいないときにやっては駄目です」

「え~」

「え~じゃない。今日は“駄目”がいっぱいだけど、ホントにだめだから」

「え~」

なかなか納得しないベルをなんとかいい含めながら夕飯まで話し合った。


魔法の練習は、可奈が見ているところだったら、敷地内から敷地外に打つことで、話は付いた。





ベルの魔法のコントロールの上達はすばらしかった。

稲刈りが終わり、台風が何度か到来し、秋風が吹く頃には、可奈が、考えていたレベルに達してしまった。



「ベルに頼みたいことがあるんだけど」

「何?何?」

朝ご飯を食べているときに、おもむろに切り出した。今日もおいしそうにご飯を食べているベルがきょとんとして可奈を見た。もう普通に箸も使えるようになっている。お茶碗は、可奈が子どもの頃使っていたにゃんこがころころしている子ども茶碗だ。箸は、京都のみやげ物で友達にもらった何とかの神社の参道で買ったというしまってあった子供用箸を使っている。


うちの子・・・とっても箸使いが上手。



いやそれは、さておき、

「あのね、ベルの魔法でゴミを燃やして欲しいのだけど、やってくれないかな」

「えっゴミ?」

ちょっと驚いたように、箸を止めたまま聞き返す。

「そうだよ、ゴミだよ。ほら、使ったサラン○ップとか紙くずとか、ビニールの包装紙とかあるでしょ?あれを燃やして欲しいのだけど」

実は、納屋の隅にゴミ袋が溜まっている。生ゴミは、生ゴミ処理機が頑張ってくれているが、いかんせんビニールや紙はダイオキシンなどの有害物質が出そうで適当に燃やすことができないでいた。

ここで、ベルの魔法登場である。もともと自分のレベルを上げれば高熱の火力が期待できるかもと思っていたのだが、ベルの魔法の素養を見た後では、ベルに任せてもいいんじゃない?的な。

そこで、このお願いである。

可奈の言ったことが理解できたのかポカンとした顔をしていたベルが、勢いよく頷く。

「いいよ。やるよ。すぐ?」

「いやいやいや、焦らなくていいから。ご飯をしっかり食べて。」

「うん」

それから、急ぐように箸を動かす。

「ほらほら、ゆっくり噛んで食べて」

「は~い」

口の中のものを飲み込んで返事をする。いやいやいやそんなに急がなくてもいいから。ちょっと言う時を失敗してしまった。ご飯が終わってからにすればよかった。もうベルは止まらない。


それでも、騙し騙しご飯をしっかり食べさせ、2人とも畑仕事用の服に着替える。一輪車を使い西の田んぼの隅にゴミを移動させる。

「では、ベルさん最大火力、白い炎の玉でお願いします」

可奈の言い方にきゃらきゃら笑いながらゴミに向けて魔法を放つ。


ドンッと音がして、一瞬、目の前が、真っ白になった。


と思ったらもの凄い風が吹き付けてきた。

可奈の前まで。

バリアいい仕事をしてくれる。

それでも、目がくらんで、恐怖からベルを抱え込んでしまった。

光がおさまり、見えるようになると、ゴミの置いてあったところの穴が開いていた。


その穴の底に小さいマグマだまりができていた。熱気が立ち上っている。


「「「「コケッコッコッッコケッ」」」」

一緒に来ていたハクたちが大騒ぎをしている。

抱え込んだベルも穴の底を見つめ呆然としている。

「す・・す・・凄いねぇベル。さすがだよ。イエロー危ないから穴の傍に寄らないっ」

なにがさすがか、わからないがとりあえず、ベルを落ち着かせようと、言葉を連ねる。

落ち着かなければならないのは可奈であったが。

自分の力に驚いたのか、怯えたようにマグマだまりを見ている。

可奈もドン引きである。

「いやぁさすがうちの子。自慢しちゃうね」

言いながらベルを抱きしめ頭をなでまわす。ハクたちもベルの周りに寄ってくる。

見開いた目が可奈に移動してくる。音がしそうなほどぎこちなく首を回す。

にっこり笑っている可奈に安心したのか、表情が戻って来た。

「おかあ・・さん」

「大丈夫、大丈夫、おかあさんがお願いしたんだよ」

「だ・・大丈夫?」

「そうだよ。ベルがすごいのは驚いたけど、助かったよ。これで公害問題は絶対でないよ」

公害以外の問題になりそうだけど、それは後回しだ。

可奈の言葉に安心したように、途端にうれしそうに笑うと、

「コウガイ?すごい?」

「うん。すごいね。この間も言ったけど、こんなに凄いんだから、お母さんのいないところで練習してはだめだよ。危ないからね」

「うん。わかった」

「よしっ今日は、ベルの“凄い魔法記念”でごちそうにしようか」

「わ~い。そうしよう」

「コケッ~」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ