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1.とばされた日

朝、洗濯を干していたときはいつもどおりだった。


昼ごはんを食べ、道が空いているうちに、買い物に行こうと、車に乗って家の門から出ようとしたときに、景色がぶれたような違和感に襲われた。


田舎だといっても、門から出たら、ちゃんと舗装された道路になっている。

たとえ道の反対側は、田んぼだとしても。


道路に出た瞬間、空気がゆがんで、少し吐き気を及ぼすようなめまいに襲われた。


ヤバイッ!運転するのをやめなきゃ!


ハンドルを左に切りながらだったので、門を出て、すぐのところで停車した。めまいの続きのように、頭がクラクラした。本当に吐き気がする。目を閉じて、ハンドルに顔を伏せてしばらくしのいだ。

収まってきたところで、顔をあげた。





・・・・・・・・・・・・・・・。




・・・・・・・・・今日は家にあるもので、夕飯にしよう。



そもそも、昨日買い物を済ませ、大型スーパーでいろいろなものを、軽トラの荷台いっぱいに買いだめしてきたばっかりだった。だというのに、今日なんとなくテレビを見ていたらマク○ナルドのCMで500円という言葉に誘われて買いに出ただけなのだ。食べられないのは残念だが、たいしたことではない。


明日もある。


そう決めて、出てきた門に引き返そうとギアをバックに入れる。



・・・周りをあまり見ないように。



けれど前後の車や歩行者がいないかの確認は、しなければならない。したくないけど急いで見る。

大丈夫。誰もいない。




誰もいないどころか、なにもない。

安全そのもの。


アクセルを踏み込む。少しから回りをする。

気持ちが焦る。ここで、タイヤが滑って、空回りはない。

ギアを入れ直し、一旦少し前に出た後、バックに入れ、ゆっくりアクセルを踏む。

よかったことに、出てきたときと同じ轍で、門の中に戻ることができた。

さっきとは別の意味で、ハンドルに顔を伏せる。深呼吸をして、顔を上げる。


フロントガラスから見える景色は・・・・・・




・・・・・・砂漠だ。


モロッコでも、エジプトでもない、日本だが、砂漠だ。

あれっ。ここ、鳥取だったかな。


砂丘じゃない砂漠だ。


なんか混乱してきた。

どうしたんだろう。夢かな。

この間、おばあちゃんが死んで、とうとう一人きりになっちゃって、おかしくなったのかな。自分。

もう一回目を瞑り、深呼吸して、目を見開く。


砂漠だ。


車から降りる。おもいきって、門から一歩出てみる。

途端に、熱く乾いた風が吹き付けてきた。

びっくりして、門の中にあとずさった。

穏やかな日本の初冬の気候だ。少し肌寒いが、過ごしやすい気候だ。


なにこれ?


とりあえず、家に入ろう。


車を戻して、家に入って、居間の窓から外を見る。

門から向こうが、砂漠の風景になっている。

いや、風景じゃない、本当に砂漠になっているんだ。

どうしちゃたんだろう。

2階に上がり、家の裏を見る。裏の山は、そのままあったが、その向こうに木々の隙間からやはり砂漠が遠くに見えた。部屋を出て移動し、家の東や西を見みる。東側の畑のまばらな生垣の向こうは、砂漠だった。

西側は、納屋の後ろに広がる田んぼが半分残っていて、後は、砂漠にのまれていた。


六反分は残っているな、米は、私一人分くらいは、十分賄えそうだな。


っていうか私一人で、米作れるのか?


そういう問題でもない!


何一人突っ込みをしているんだ。私。

おばあちゃんが死んでから、めったに人と話すこともなく、ひとりきりの生活が、ここ2ヶ月ほど続いた。

おじいちゃんが死んでから、おばあちゃんは、一見元気そうだったが寂しさが垣間見えていた。孫から見ても、本当に仲のいい老夫婦だった。おじいちゃんが癌と告知され、残された日々を、孫の自分を交えて、楽しく生きようとしてくれたおじいちゃん、おばあちゃんであった。残された者が困らないようにと、弁護士に書類仕事をすべて依頼してくれておじいちゃんが逝った後、本当に後を追うように、その半年後、おばあちゃんは、脳溢血で朝、誰にも看取られず、蒲団の中で静かに逝った。悲しくて、一人取り残され、寂しさばかりが募った。でも、反面おばあちゃんがこれ以上、おじいちゃんもいない、この世界で、一人で生きることがなくなってほっとした。おばあちゃんが、時折見せた悲しい顔に胸をかきむしられる思いがしていた。

おばあちゃんの寂しさを、孫の自分が埋めることができなくて、辛かった。

おばあちゃんはそんなことを望んでいないと、わかっていても、どうにかしてやりたい、できることはないかと探してしまう。

だから、良かったんだと。

おばあちゃんが逝った後、無理やり、自分自身に言い聞かせた2か月だった。


それでも一人取り残されたようで、寂しさが募る。


葬式も終わり、人の喧騒がなくなると、もう誰とも話をしたくなかった。時折かかってくる弁護士からの電話や友達からのラインやメールさえ、わずらわしかった。




よくしたもので、時間が人を回復させるのだろう。


昨日、久しぶりに、スーパーに行って足りないものを買い込んできた。要らないものも目に付いたものは、片っ端から買ってきた。


軽トラいっぱい。


・・・・・・何やってるんだろう。


冷蔵庫や納戸に片付けるのに、2時間かかった。

疲れて、ご飯を食べ、風呂に入って、寝た。


ここまでが、ここ1年の加奈の生活だ。どこにでもある27歳独身のありがちな・・・・・風景だと思う。


そして、今日の朝、鶏の餌をやった後、少しばかりの庭のハーブや東の畑の世話をした。朝ごはんを食べながらテレビを見ていた。マッ○のCMがかかっていた。新聞を見た後、洗濯物を干し、家の掃除をした。昼ごはんを食べながらテレビを見ているとまた、マッ○のCMがかかった。


夕飯はマッ○に決まった。


他の買い物がてら家を出ると・・・・



おかしい・・・普通だ。


どこに砂漠が入る余地がある。


だけど、家の外は砂漠だ。

どこに、買い物に行けばいい。



砂漠だよ。車、砂にはまって動かなくなる。

どうするの私。

さっきだって、あと少しで危なかった。J○○は、たぶん、絶対、助けに来てくれない。


人とかかわりたくないっつっても、限度がある。


神様のばかやろう~~~~~~


ふうっっっっ


しょうがない。ここから始まるサバイバル生活じゃあ。




とりあえず、昼寝をしよう。


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