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彼女は雨が降る  作者: 水瀬さとみ
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好きじゃ無かったなんて知らんやろ

「ごめんな」

病室に入るなり木崎はそう僕に言った。親切に僕の座る席を用意してくれた。病室は八十代のお婆さんと二人部屋らしい。今は席を外してくれているとの事。


「私、心臓病やねんて。」

少しの沈黙の後木崎が病気の事を口にしてくれた。僕はかける言葉が見つからず無意識にも目を泳がせてしまった。

「終業式の後からな徐々に身体が可笑しいなって思い始めてん。」

彼女はそう話し出し、八月中旬に心臓病で入院が決まった事、祭りに誘われてどうしても行きたかったが医者に止められて拗ねた事、僕にメールをする勇気が無かったこと、そして木崎には両親が居ない事。


中三の夏に両親が交通事故に巻き込まれ父と母を同時に失った木崎は、母方の叔母の元で引き取られることが直ぐに決まり止むを得ず神奈川に来たとの事。

その事を時折泣きながら伝えてくれた。

「お母さんに僕の写真見せたっていうのは…」

「空に向かって見せてん。ママ、笑ってた」


なんだか、悔しかった。何時も笑っていた木崎からは何も悟れなかった過去。僕は木崎に沢山笑わせて貰っていたのに、僕から木崎に笑顔を与えた事はあったのだろうか。木崎は自発的な笑顔を続けていたのだろうか。

「私、雨って大っ嫌いやってん。」

「へ?」

深い考えを張り巡らせていた時、思いもよらぬ言葉が木崎の口から溢れた。勿論僕は間抜けな声を出した。

「好きじゃ無かったなんて知らんやろ」

「え、あ、うん」

「動揺しすぎやー!」

「だって、木崎と雨はイコールの関係と言うかなんと言うか…」

「まぁ確かに」

目に薄っすら涙を溜めたまま、イヒヒと笑った。

「パパがな、雨大好きやってん。小さい頃、私が遊園地に行くのめっちゃ楽しみにしてた時に雨が降った。雨が嫌いやった私のテンションはだだ下がり。」

話して行くうちに、木崎の顔は綻んで行った。その表情に僕は安心した。

「なんで雨やのにそんな落ち込んでんの?ほら、行くで〜ってパパが無理矢理私を連れ出してん。それでも私はズーンって感じ。ところが夜になって観覧車に乗ったら!」

「乗ったら?」

木崎の話は面白おかしく展開して行き、次第に僕も興味津々で聞いていた。

「雨が光ってた。夜景に照らされて。綺麗って言ったらパパは雨は世界を綺麗にするんだよって言ってた。雨はなんでも美しく輝かせてくれる魔法なんだよって」

まるで子供のような顔をして木崎は笑った。

「お父さん、素敵だね。僕ももっと雨好きになったよ」

「イヒヒ、良かった」




木崎の目から雨粒が綺麗に落ちた。

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