反晶と呼ばれた変人の日常
薄暗い中にも光が踊る森の中。樹齢数百年の頼もしい木々に囲まれながら、管理している畑の手入れに勤しんでいた。
「さて、と」
一通り花を摘んだ所で、立ち上がる。
バスケットは赤や黄色、白のチューリップで埋め尽くされ、今にも溢れそうだ。
「……かかって来いよ。あっしは一人でも勝てるさかい」
にやりと笑うと、茂みから黒い羽の生えたオオカミが四体、現れるなり襲ってきた。
術を使っても良い様な場所まで逃げると、いつもの呪文を詠唱する。
「無慈悲に響け、『幻楽葬』」
右腕を中心に、紫色の魔法陣が展開される。
獲物が立ち止まった所を狙って、オオカミが上空から飛びかかってきた。
「生かすは絶望、死なせるは希望……」
魔法陣の放つ光が、一際強くなる。それに比例するかの様に、周囲の植物はしおれていく。
「愚かな生者には死滅の調べを!!『リバースコンチェルト』!!」
とどめの言葉を叫ぶと同時に、魔法陣は消えた。
次の瞬間、耳が痛くなる様な音の群れと共に、無数の黒ずんだ刃が天を衝く。
わずかな光を受けて輝く邪悪な刃は、オオカミ達を一匹残らず貫くと地面に沈んだ。
「……よし、帰るか」
見事な円状に枯れた草を踏みしめながら、出口へと歩き出した。
総合拠点で買い出しを済ませると、両手に花みたいな状態になった。
……左手にビニール袋持ってるけど。
「うわー、残念なレズがいる」
「残念じゃないでしょ、格好良いし元気だし。私音邨ちゃん結構好きよ」
「男装趣味で変態の間違いだと思うけど。え、何?レズなの?」
「いや、私普通だからね!?音邨ちゃんの話してるだけでレズみたいな考えやめてよー」
はぁ……萌える。金髪ツインテと茶髪ロングちゃんがあっしの話してるとか何だよ可愛いじゃないか。
内容はともかく、女の子が二人並んでいるだけで幸せだ。
そんな女子二人組の後をつけたくて仕方なかったのだが、帰りが遅くなると困るので断念した。
……あくまでも覚えるのは萌えであって、恋愛感情じゃないから良いんだけど。
「さぁて、帰りますかねぇ」
窓を見ると、キャンプファイヤーの様なテンションで日が燃えている……様な気がした。