Fragment 4: Chastity
和希とAJは中央の岩の上に転送されていた。その中心にはテーブルと椅子が置かれており、赤い模様の入ったカードのデッキが上に置かれている。
ヴィヴィアンは「ささ、2人とも座って!」とモニター越しに指導した。
用意された席に腰を下ろすと、和希は溜め息が出た。
(よりによって最初のゲームに参加するだなんて…… 負けたら一体どうなってしまうんだろう)
考えれば考えるほど、和希は自分の状況に頭を痛めた。ポーカーという、ほぼ完全に運頼りなゲームをするのだ。戦略をクソもないこれに、一体どう挑めばいいのだろうか。
いつの間にかディーラーの服に着替えていた神様が、テーブルに置いてあったカードをシャッフルしていた。
「神様はヒンズー派なんだね」和希がさりげなくコメントをした。
「あー、俺リフルが下手だからこっちにしてるだけ。バラバラ〜ってやるのが超むずいんだよね」
何はともあれ、和希は好調を覚えていた。こんな状況だとはいえ、趣味であるトランプゲームをするのだ。このおかげで得体の知れぬ恐怖は少々落ち着いていた。
神様はシャッフルを終えると、シュパパッ、といかにも手裏剣を投げるような動作でカードを配る。流石神の世界だ。カードには一切汚れや傷が付いていない。あまり関係の無いことではあるが。
和希は全て受け止めれたが、AJはうまく反応出来ず、数枚カードを床に落としてしまった。
「あっ……ごめんなさい」AJは慌てて落ちたカードを拾う。
「ふふん、俺のテクニックについてこれなかったか。哀れな......」
「あの〜、神様〜!自慢はいいから早くやろうよ〜!」ヴィヴィアンが話に混ざってくる。
「わーったわーった……面白みの無い奴だな、まったく……。確認するが、ゲームはポーカーの1本勝負だ。ポーカーのやり方は大体分かるな?」
和希とAJはほぼ同時に首を縦に振った。
「よし!念の為に手札のチャートを置いとくぞ」神様はそう言って指を鳴らすと、テーブルの中央に表が現れた。手札のパターンと強さを示すチャートだ。
和希は冷静に手札を見た。
クローバーの2、5、ハートの9、そしてダイヤの5とQ。あまりいい手札とは言えない。和希は5のペア以外の3枚をテーブルに置くと、「ヒット」と言い放った。神様は頷くと、素早く新しい3枚のカードを渡した。
クローバーの7、スペードの5、ダイヤのJ。和希は溜め息をつく。
AJもあまりいい手札が貰えなかったようだ。ヒットを言い渡した後も深刻そうに手札を睨んでいる。
数秒後、AJは 「う〜ん......。ごめん、アタシ揃わなかった」と、少し残念な顔で手札を見せた。確かにペアも何も無く、マークもバラバラだった。
和希はその気持ちが良く分かる。カードが揃わないと何も始まらないゲームで、全く揃わなかったのだ。少し苛立つのは普通だろう。
和希は手札を見せ、少し安堵した表情でスリー・オブ・ア・カインドを見せる。
「あ~、こりゃ漠然だな。勝者、東野和希!」
神様の威勢のいい声が祭壇に響き渡る。だが他の人々はどうリアクションすればいいのかわからないのか、ほとんど黙っていた。
「なんだ、つまんないな...。もうちょっと『ワ~!』とか『すげぇ!』とか頂戴よ」
「だって今の勝負、かなりつまらないんですもの。ねぇ、誠?」
「ほんとほんと、せめてフルハウスでもだして欲しいよ」月村兄妹は嘲笑うように言った。
和希は少しその言葉が気になったが、勝ったことに対する緊張感の開放につられて、顔をテーブルに伏せた。疲れが一気に肩を重くした。
「そんなわけで、記念すべき初戦を勝ち抜いたのは東野くんです!ぱちぱちぱち~!」ヴィヴィアンのみ、拍手を与えた。
スクリーンの画面が変わり、参加者の顔と名前がそれぞれ映った。その横にはポイントが示されており、和希のポイントが1、AJがー1、その他全員が0であった。
「え、減点ってあるの!?」AJが不満を漏らす。
「そりゃあるわな。それとも罰のほうがよかったか?今から変えることはできるけど?」
「あ、いや...いいです」
神様は呆れ気味にため息を漏らすと、
「はい、じゃあ解散。また明日の午後六時に迎えに行くぞ」と言い放ち、光が見えたかと思うと、いつの間にか和希は自分の部屋に帰っていた。それに気づき、和希は慌てて時計を見た。
「2019ネン 6ガツ20ニチ 18:00」
ということは、あの世界に行ってから帰ってくるまで全く時間が経っていないということだ。和希はその事実を知り、背筋に冷たさを感じた。
かなり久しぶりに更新しました。もっとちゃんとやらないとな・・・