Fragment 3: Chastity
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!」不良は尻餅をついた。顔に恐怖を露わにしていた。あんな残酷な殺され方をしたのだ。責める者は誰もいないだろう。
「あ、そういえばこいつ、自己紹介しなかったな。短気にも程があるぜ……」と、いつの間にかスーツ男の横にいた神様が死体を軽く蹴りながら言った。
「こいつは九頭龍 拓磨。今の行動で大体分かったと思うけど、職業はヤクザだ。この性格で妻子持ちとか色んな意味で凄いよな」
神様は九頭龍の死体を持ち上げると、「今のうちにやっとくか」と言い、死体を誰かに捧げるかのように持ち上げた。すると、九頭龍の死体は一瞬にして消えた。
「い、今のは一体……」呉石が問う。
「あ、ちなみにあいつ、帰ってくるからな」と、神様は話し始めた。
「ここで死んでもさ、生き返れるわけ。特に俺がやった『殺人』で死んだ奴は、な。だが、それがどういうわけか時間がかかるんだよ。だからしばらくは戻ってこないぞ」
話が理解できるはずもなく、ほぼ全員が深刻そうに考え込んでいた。
「ということは、貴方にもこの神の世界で分からないことはある、と推定していいんですね?」急に声が挙がった。まだ名前を言っていない、双子の男の子の方だった。
「そうそう! そういうこと!」推理の早さに感心した神様が言った。「お前らみたいなやつがいて助かるよ」
「いえ、仕事柄ですので」と、女の子の方が答えた。
「まぁ、後は面倒だから俺が紹介すんぞ」神様は唐突にそう言うと、「今腰を抜かした奴は梶本 正樹。お前らの国でいうチンピラだな。後は……」
神様は双子の方を指差し、「この2人は月村兄妹。誠と真琴だ。面倒くさい命名はさておき、こいつらは既に大卒で、探偵事務所を開いている」と言った。
「ほんまか!? どう見ても小学生くらいやないか!」呉石は驚きを隠せなかったようだ。
確かに、まだ160cm位の和希より頭2つ分小さい上に童顔な2人が既に社会人だと言われても誰も信じないだろう。これで大人なのか、と言う声も上がった。
「僕たちは天才なんです。ね、真琴?」誠が笑顔を見せて言うと、「そうです。学校に行くのは本当に時間の無駄でした」と、笑顔を返しながら真琴が言った。
「っていうことは、相当飛び級してるって事だな。でも、大学に行かなくちゃ今の仕事にはつけなかっただろ?何を学んだんだ?」神崎が急に言い出した。
月村兄妹は神崎を睨んだが、目を瞑って再び笑顔を見せると、「犯罪学です」と小さい声で同時に言った。
「オッケー。急に悪かったね」睨まれた事を気にかけたのか、神崎は謝罪するように言った。
「今の8人は7つの大罪を象徴する奴らだ。まぁ、全員悪者ってわけじゃないけどな。じゃあ、お前らがここにいる理由について説明しようか」神様が唐突に言う。
神様は中央の岩石に飛び降りると、右手を胸に当てた。
「ご存知の通り、俺は神様だ。だけど、この俺の神としての資格はもうすぐ無くなっちまうんだ。実は、神様はってのは100年ごとに変わっている。そいで、俺のその100年がもうすぐ終わっちまう。そこで、俺が神を辞める前に次の神を決めないといけないのよ。お前らは全員、その次の神になる候補なわけ」
候補たちからあがったざわめきを無視し、神様は説明を続けた。
「ちなみに、候補の決め方は適当に選択された国に在住してる、7つの大罪と美徳を象徴する輩を選んだんだ。外国人の神崎とセスも候補としてカウントできる。まぁ、そこで神様の決め方なんだが……」
神様が手を上に掲げると、地面が揺れはじめた。候補達は底の無さそうな下の風景に落ちるまいと必死に柱にしがみついていた。
しばらく経った後、候補達の目の前にはバカでかいスクリーンがあった。アメフトのフィールドで使われそうなものだ。
「これから、お前らには数々のゲームをしてもらう。それで優勝者が神様になるって事だ」
ゲーム、と聞いて和希は(ゲームなんて簡単な方法で神様を決めちゃっていいのかな……)と深刻に考えた。100年と時間に限りがあるとはいえ、世界を監視しなけれならないのだ。そんな責任をゲームという軽いもので決めていいのだろうか?
そもそも、自分のような子供や、九頭龍のような犯罪者に果たしてそれができるのであろうか?その疑問が、和希の眉を歪めた。
「まぁ、俺は個人的にここにいる資格がないと思う奴は何人かいるぞ。でも、俺の決めることじゃねぇからな。上の輩が勝手に決めたんだ」神様は腕を組んでそう言った。
「上の輩、とは誰のことでしょうか?」月村兄妹が疑問を寄せる。声もタイミングもピッタリ合っていて、1人で話しているようにしか聞こえないのが和希の感心を呼んだ。
神様はお手上げしたかのようなポーズをすると、「さぁな。俺が分かるのは神の上の神様がいるっつーことだけだ」と返答した。
「上には上がいるってことか、なるほど……」篠原が小言を言った。
「今のうちに警告しとくけどな、ゲームって言ってもお遊びじゃねぇからな。そこんとこよ〜く気をつけとけ」
突然、スクリーンに何かが映った。そこには「GAME 1: INITIATING…」と書かれてあった。
神様は「お、もう始めちまうのか。早いな」と少し驚いたトーンで言った。ということは、彼はあのスクリーンを操作していないのか。和希はそのことが気にかかった。
スクリーンの文字が消えると、今度は人が映っている。銀色の長髪に赤い瞳、人形が着るようなドレスを羽織った小柄な女の子だった。
「候補のみなさ〜ん、聞こえますか〜!? 私の名前はヴィヴィアンで〜す!! 神様の助手っぽいものをしてま〜す!!」ヴィヴィアンと名乗る女の子が大きい声で祭壇を轟かせた。何人かはあまりの音の大きさに耳を塞いでいる。神様もその1人だった。
「だあああああああうるせぇええええ!!! 音量を下げろおおおおおお!」
「あれ、音量低くしたはずなのにな……。このノブを右に回して音量を下げるんだよね?」
「バカ、逆方向だ!! +(プラス)と−(マイナス)の記号はついてねぇのか!?」
「あ、ほんとだ。記号付いてた……テヘ☆」
「可愛く収めればいいってもんじゃねぇ!! 俺らの鼓膜を破ったらどうするんだ、ドアホ!」神様が怒りに任せて叫んだ。
ヴィヴィアンはそれを聞くと、急に涙を目に浮かべていた。
「……怒ってるの? ごめんね……ドジでごめんね……」と、かすれた声がスピーカーから聞こえてくる。
神様は流石にこれに引いたらしく、「ご、ごめんよ。怒ってないから、な?」とヴィヴィアンを落ち着かせようとする。
「ほ、ほんとに?」
「本当だとも」
「わ〜い! 怒られてなかった〜!!」
ヴィヴィアンが音量を下げるのを忘れ、再び地震のような衝動が祭壇を揺らせた。
「がああああああああ!!! 怒ってねぇから音量下げろおおおおおお!!!!」と神様がまた怒鳴る。
「あ、ごめん」涙を拭ったヴィヴィアンがノブを回しながら言った。
チーン、という鼻をかむ音がした後、ヴィヴィアンは「じゃあ、早速ルール説明をしましょう!」と、また元気な声を聞かせた。神崎がペースの変わりように苦笑いを見せた。
「ルールは簡単! お互いとゲームバトルして、勝った人が得点を貰えま〜す! バトルの人数も得点もバトルにごとに違うからね〜! 面白いでしょ?」
「面白い面白くないはあんま関係無いと思うぞ」神様がツッコミを入れる。
「どうせだから楽しくした方がいいじゃん! 現に神様1人酷い目に合わせてるし、その行動のせいでトラウマになった人もいるかもしんないし」
「あれは俺のせいじゃないだろ?」
「そうだけど。あそこで銃使うとかよく分かんないよね」
ヴィヴィアンと神様は同時に「ね〜」と、同情を呟いた。なんやかんやで、2人の仲は良好のようだ。
「それで、得点の多かった上位8人が第2ステージに進めるの!」
「じゃあ、今は1回戦ってことか。ゲームショーみたいで面白そうだな」神崎が呟く。
「でしょでしょ?じゃあ、早速ゲームを始めましょう!」
「最初のゲームは簡単に1対1でいいんじゃないか?」
「そうだね〜! ではでは、最初のゲームの出場者を決めましょう!」
途端に、ヴィヴィアンの映る画面が小さくなり、右端に移った。そして、スロットのような画面が出てくる。
「Player 1」「Player 2」というスロットがある。これで出場者を決めるのだろう。2つの「Player」のスロットには九頭龍を除く候補たち全員の候補たちの名前が載っていた。
「Player 1」のスロットが回りはじめる。候補たちのなかに緊張感を覚える者がいた。
スロットはスピードを落とし、「AJ」に止まる。
「うわー最初からかー......」AJが不満そうな声を聞かせた。
次のスロットが回る。和希は(僕が当たりませんように......)と頭の中で唱えていた。
しかし願いは叶わず、スロットは「東野和希」に止まる。
「えええええ!? いきなり!?」和希は驚きを隠せなかった。
「最初のゲームは......ポーカーで〜す! お互い頑張りましょう!」ヴィヴィアンが開催を告げるファンファーレを流した。