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 学園ラブコメを遂行すべく、今日は初めて授業中の様子を描くよ!

 って、意味も分からずテンションを上げてみたものの……。

 昼下がりに展開される退屈な生物の授業。

 AだかaだかAaだか優性の法則についてだらだら説明を受けては聞き流し、とりあえず黒板の内容を作業的にノートに書き写すだけ。

 窓辺の後ろの方という『ラノベ!』な自席は春の陽気がモロ直撃。眠気も増大。次第にシャープペンを走らす手の動きが鈍くなって、止まる。


 さあここから面白い要素を見出してみよ!(配点20)

 

 全員ペケの付きそうな意地悪な出題をしてから目を擦って、ああそういえば人間観察ってこういうときにやればいいんだっけ、と昨日の助言を思い出す。

「とは言ってもクラスほぼ全滅だぞ……?」

 教室を見渡せば机に伏せている怠け者のオンパレード。勉強ができないからノート提出や授業態度の平常点で稼ぐしかない俺はそうするわけにはいかないけど、本音は眠くてたまらない。初老のお爺ちゃん教師の授業ってどうも眠気を誘う。

 壊滅状態の教室の数少ない生き残りたちを目で追うが、そういうやつは大体机の下でスマホを弄ったり、挙句の果てには携帯ゲーム機で遊んでいる。

 

 真面目ちゃんを探せ!(レベル23)


 はじめてのWiiっぽく題してみたけど大した意味はない。つーか無意味だ。

 ところで神子は起きているだろうか?

 身近なところで気軽に人間観察するならやつが最適だ。知り尽くしていると思っている幼馴染でも、実は隠れた顔を持っているかも?

 俺の席と対比するような廊下側の席にいる神子に目をくれる。

「……って、寝てるし」

 他のみんなと同じように堂々と突っ伏していた。

「まあデキるやつだからな……あいつ」

 勉強も運動も中の上から上の下にかけての高水準をキープしている。執筆以外に脳のない俺と違って器用なんだよな。要領も良ければ呑み込みも早い。

「あとは他にめぼしいやつはいないもんか……」

 神子から周囲へと視線を移していく途中で、教室で一番目を惹く金髪を視界に捉える。

 あ、凪原さんいるじゃん。

 凪原ミケウリール。確かドイツ系ハーフ。

 しゃららな金髪セミロングとルビーめいた赤眼を併せ持つ白皙の美少女。

 そして忘れてはいけない彼女の特徴はなんと言ってもその幼い体躯と顔立ちにある。

 そう、彼女、凪原ミケウリールは紛れもない洋ロリなのだ!

「しかし洋ロリ……なるほど洋ロリか」

 そういえば登場させたことなかったな、洋ロリ系のキャラ。

 俺の中でヒロインと言ったら決まって短髪癖毛やぼさぼさお洒落無関心系だったからなぁ……新ジャンルを開拓できる予感。いっそ次作のヒロインは凪原さんをまんまモデルに据えても悪くない。人間観察、格好の対象を見つけてしまった。



「凪原さんとお近づきになりたい」

「高嶺の花だし馬鹿身の程を知れカス」

「暴言ヒロインは昨今の流行から見るにあんまり人気出ないぞ?」

「幼馴染の時点で諦めてるからいいよ」

 授業と授業の間の十分休み。五十分間たっぷり寝て、けれどもそれが逆により一層眠気を助長する結果を招き、ぶすっと仏頂面の神子は身も蓋もなく言う。

 諦めるのは早いぜ? 暴力を振るい始めたら末期症状だけど、暴言だけならコアなファが寄りついてくれる。罵倒されたい変態が徒党を組んでやってくる。……嫌だなぁ。

「ミケちゃんが人気なの、いくら学校に無関心なかたるでも知ってるでしょ?」

「知ってっけどさあ……高嶺の花で人を寄せ付けないからこそチャンスだと思うんだよな。悪い虫が一つもついてないってことだろ?」

 ギャルゲーとか、それこそラノベでこんなやつ出てきたらなんかもう『話し掛けてください!』って感じのキャラだよな。

 高嶺の花扱いされているがゆえに孤独を感じていて、話し掛けてきてくれた主人公に心を開いて急速に仲を縮めていく王道シナリオ、大好き。

「だから悪い虫第一号になろうってわけ?」

「それも悪くない」

「やめといた方がいいと思うけどね……主に身の安全の面で」

 薄笑いを浮かべながら顔を逸らす。え、なんすかそれ……。

「凪原さんに近付こうとした男子は例外なく……おっと、これ以上はレーティングの問題で言えないなぁ。聞きたかったら十八禁版でどーぞー」

「十八禁版とかねぇから! やめろよ無駄に恐怖心煽るの!」

 親衛隊? それともファンクラブ? 凪原さんのバックにいる強大な存在を匂わせる神子だった。

「お前みたいなやつがいるから凪原さんはっ、凪原さんはっ……!」

「え? ミケちゃん別にぼっちじゃないよ?」

「ミケちゃん!?」

「さっきも言ってたけどね?」

「さっきっていつ!? 何行前!?」

「何故行数で聞く」

 なんだぼっちじゃないのか……高嶺の花はぼっちの法則を軽々打ち破りやがった。

「だが奴は四天王の中でも最弱の存在……奴が死んでも『高嶺の花は百合の法則』が控えているのだから……」

「レズ違うから。男子を追い払っている分」

 男子を追い払っている分!?

「必然的に女子との交流が多いけど、そういう噂は聞いたことないなあ」

「ほら噂じゃないか! 確証はないんだ、やっぱり!」

 法則は守られた。流石四天王中最強の法則!

 ……まあ四つもないんだけどね。実質二大王。ホウオウとルギアさ。

「……こいつうざいなぁ、MKFCにチクろっかな?」

「MKFCって何!?」

「チクられたくなかったら凪原さん方面で変なことほざかないで大人しくしておくこと。とにかく凪原さんは普通の美少女。おかしな要素は何一つない」

「分かった仲良くなるのは諦めよう……けどせめて、彼女の人となりについて情報をくれはしないか?」

「なんでさ? 知ってどうする気?」

「どうするも何も、凪原さんをモデルに新キャラを作ってみようかと」

「…………ああなに、もしかして昨日のよりは先輩からのアドバイスが関係してるの?」

「……逆に聞くが他にどんな理由があって凪原さんについて知りたがっていると思った?」

 この俺が色恋沙汰にかまけるとでも?

 自慢じゃないけど小学校の初恋以来恋愛感情を抱いたことはない。ちなみに言うとその相手は一か月弱だけ在籍していた教育実習生だったりする。

 甘酸っぱい……懐古に浸ろうとすると胸がキュッとなる。まともに相手にしてもらえなかった過去が蘇る。やべぇ泣きそう。

「そういうことなら教えてあげなくもないけど、もうそろそろ鐘鳴るからあとでね」

 直後、六時限目開始を告げる鐘が鳴り、会話が強制的に断ち切られた。





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