表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Wanna Be!-ラノベ作家になりたい人たちの話-  作者: 設楽 素敵
第六章 この執筆が終わったら定山渓へ行こう
18/24

1

 兎にも角にもまずはプロットに着手しなければいけない。

 プロット自体に関する説明やその重要性の説明は省略させてもらう。時間がない上に、何度も口酸っぱく説明している気がする。確認は各自で。

 超特急で帰ってきて、間に食事も風呂も休憩も挟まずに席に着く。

 スタンバイ状態にしておいたパソコンを起動し、新しくメモ帳を立ち上げ、溢れんばかりに湧き出してくる新作に関するアイデアを書き殴っていく。

 が、その前に。

「タイトル、タイトルっと」

 とらのあなでよりは先輩と会話して、ハッと気付かされた最中に、パッと一瞬で浮かんだナイスなタイトルをメモ帳の一行目に打ち込む。

『ハーレムだけど二次元だから問題ないよねっ』

 ……うん、しっくりきた。ついでに一巻の表紙も浮かぶ。

 メインヒロインの女の子がパソコンのディスプレイに殴りかかって、画面にはヒビが入っているんだ。嵌った、嵌ったぞぉ。

 俄然ノリノリになった俺は今度こそアイデアを惜しみなく書き殴る。

 最初は体裁を整えなくていい。とにかくアウトプットだ。最高潮まで高まった創作意欲がある今、そのアイデアの泉はそうそう尽きないだろう。そんな見通しの通り、女の子のプロフィールから作品の山場、オチまで順調に構想が進んだ。

 テキストファイルの容量が15KBに達したくらいの頃、アウトプットの工程に目途がついたので、また新しくテキストファイルを立ち上げ、本格的なプロット作りに踏み込む。

「お兄ちゃん夜ごはんー!」

 踏み込みたかったけれど腹が減っては戦はできぬ。飯を抜くのは時期尚早だ。生活を犠牲にするのは真に切羽詰ったときからでいい。

 こんもり盛られた今年初ソーメンを啜ってマットにめんつゆを散らしてから、脱衣所で服を脱ぎかけて半裸になっていためもりを押しのけて一番風呂に浸かる。

 体は念入りに洗う。ここでサボってしまうと後々身体や髪がごわごわして集中力に影響を来す。これは経験論だ。心身ともにスッキリした状態で書くのが一番進みが良い。風呂上がりまーす、お次の方どーぞー。

「お兄ちゃんの変態! 召されてしまえ!」

 部屋に戻る際思春期の妹に心ない罵倒を言われる。気にしない。でもごめん。

 今日は最低でもプロットができるまでは床に就かない。

 贅沢を言えば、プロットが完成したあとプロローグだけでも手をつけたい。

 どうせ明日書き直すことになるだろうけど、感覚を養うためにやっておきたいのだ。なんと言っても今までとは正反対の作風に変わるわけだから。

「そっか文体も考えなきゃ……」

 プロット内の『あらすじ』の項目を埋めながら割かし重要なことに危機感を覚える。

 プロローグに手をつける前に読書だ。俺が目指している作風に似たラノベを何冊か斜め読みして文章力を養おう。それを経てからプロローグに入った方が効率は上がると思う。プロローグのリテイクも減るしいいこと尽くめ、時間の消費も必要経費だ。

 ざっくりとしたあらすじを書き、それを基に大まかな流れを作っていく。

 フローチャートをイメージして欲しい。ゲームの攻略本で最初の方に載っている『シナリオクリアまでの道のり』みたいなやつだ。

 プロットは人それぞれ形が違うから、フローチャートを用いる用いないも人によりけりだけど、俺は断然フローチャート支持派だ。あとで自分が何を書くべきなのか分からなくなったとき、書いている位置を見失ったとき一目で分かって超便利。

「設定も作っていかないとな……」

 ハーレムの中にもオリジナリティを。

 有象無象に埋もれてたまるか、とニッチ路線離脱以降死んだように息を潜めていた俺の中のリトル患井が創作意欲に起こされて権利を主張するデモ隊のように叫ぶ。

 まあそれは俺も思っていたことだ。ただのハーレムじゃカテエラよりも屈辱的な凡庸という理由で落とされる。でもニッチには走らない。アクは強くなくていいんだ。それでもオリジナリティは十分出せる。

 というわけで設定に凝ることにした。

 主人公がハーレムを作る理由を編み出す。

 色々考えて、主人公に呪いっぽいものをかけてみることにした。その呪いの影響でハーレムを作らざるを得ないって。ハーレムを達成できなければ死ぬって。

 極端で馬鹿馬鹿しい設定をマジになって作る自分に嘲笑。夜もまだそんなに深まっていないのに、早くも深夜テンションに入りつつある。

 その後もプロット作りを進めていき、作業に入れる完成度まで高まったのは深夜の一時になるかならないかくらいのことだった。

「ぐおぉぉぉ……背中がむずむずするぜぇぇぇ……」

 座りっぱなしで血の通りが悪くなっているのか背中がむず痒い。肉と皮の間でにょろにょろとミミズみたいな虫が暴れ回っているかのような気持ち悪さに身の毛がよだつ。ミミズっていうか寄生虫だな。もう考えるのはよそう。

 寝る前にざっくり新作の内容公開、どーん。

『色んな女の子と出会いまくって、デートしまくって、とにかく最低なハーレムラブコメディー。人の良い平凡男子高校生が迂闊にも助けてはいけない女の子を助けてしまい、《呪い》を伝染(うつ)される。その呪いは《一か月に一人、違う女の子とデートをしなければいけない》というもので……。ところでこの呪い、どうやったら解けるの?』

 映画の煽りナレーションみたいな文面になっちゃった。おやすみ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ