7話 過去
宿につくと、中から何か酔っぱらいの声が聞こえてきた。
たぶん浩司だ。
中に入るとやはり浩司が酒を飲んでいて隣にはこの宿に泊まっていた冒険者がいた。
彼もどうやら浩司と一緒にどんちゃんやっていたらしい。
ちなみにジュンジと波瑠は、少し離れたところで、静かに今後について話し合っていた。
少しは浩司も彼らを見習ってもらいたいねっ!
俺たちはとりあえず浩司は無視することにして、波瑠達の方へ向かう。
「和人、ちょうどいいところ帰ってきた。」
どうやら何か今後ことについてちょうど話がまとまったところらしい。
「とりあえず、ざっくりいうとあと数週間はこの村に残ることになりそうだよ。」
ジュンジがため息混じりにぼやく。
「三日後にはたつんじゃなかったのかよ……」
「じゃああんたこの世界の言葉しゃべれるの?」
「そういうこと、フィーリアは普通に公用語と、獣人語、僕は公用語だけならしゃべれるけど、他のみんなは、全くしゃべれないだろ?隣の村ぐらいなら日本語は通じるけどそれ以降は通じないよ?だから、とりあえず日常生活に支障がでない程度には覚えてから村を出ようってことになったんだ。」
「なるほど、つまりベンキョーすればいいんだな?」
「わかってない気がするわね、とりあえず通りの本屋に、それようの本が売ってるから各自困らないぐらいには勉強しておくこと。ここが日本人が開拓した村でよかったわね、まさか、異世界語と日本語が載ってる本が売ってるとは思わなかったわ。」
なるほど、確かに助かったな。そんな本があるとは……
ん?ちょっと待てよ。
「すまん、波瑠。金貸してくれ……」
「はぁ!?なに、もう使っちゃったの?浩司ですらまだ少しは持ってるのよ!?」
「装備を新調するのに金がかかったんだよ。そして、酒を飲んでるイメージしかない浩司がいまだに破産してない理由は知りたい!」
「私はあなたがどんな無駄遣いをしたかが知りたいわよ……」
「優希の食費とさっき新調してきた装備一式だが?」
「あー、なるほど。そういえばあんた、装備が壊滅状態だったわね……わかったわ、その代わり次仕事したときにちゃんと返してもらうからね。」
といいながら波瑠は5セドンほど貸してくれる。
やっぱりどこにいっても持つべきものは金を貸してくれる友達だな!
こんな感じで大まかな今後の予定を決めて、晩飯を食ってから俺は早速本屋に行き、必要なものを買い、部屋に戻って、少し読んでから寝ることにする。
この世界では電気はなく、明かりに使っているランタンの燃料も安くはないため夜は早いのだ。
そのぶん朝も早く、夜明けと共にみんな起き出し、朝食を済ませてしまうため、うっかりしていると、宿のタダ飯を食べ損ねて大変な目にあってしまうのだが。
次の日、無事に起きることができた一同は朝食を摂るために一階にある食堂に集まる。
余談ながら朝食はバイキングだ。バイキングといってもそれほど、いろんな種類の食材が並んでいるわけではないが、安いので文句はない。
「今日どうする?」
「とりあえず俺はみんなのランクに追い付かないとな」
准次の問いに二日酔いで頭がいたいのか片手で頭を押さえながら浩司がそう答える。
「……そーいえばお前、まだEランクだったな。(笑)」
「オマエラノセイダ!」
「「「朝から酒を飲んでたやつが悪い!!」」」
現場にいなかった優希と以外の全員に指摘され、反論の糸口が見つけられなかった浩司であった。
とりあえず浩司を責め立てたので話をもとに戻す。
「俺は金が稼ぎたいからギルドで依頼を受けてくる。そのあとはきの受かった本で公用語の勉強だな。」
「あたしもお金に余裕があるわけじゃないんだから、なるべく早く返してよね。」
「それにしても、あんな大物狩ったのに一週間も持たないって、何に使ったんだよ(笑)」
波瑠の指摘に浩司が朝食にとってきたちょっと固めのパンを同じくとってきたスープに浸しながら茶化してくる。
「お前もあの大猪と戦ってからいえ!絶対武器壊れるから!アトハ、ユウキノセイダ!」
「ボ、ボク!?」
自分は関係ないとばかりにとってきたさらに山盛りに積まれた黒パンを崩しにかかろうとしていた優希が驚いたように声をあげる。
みんな神妙な顔で頷いているところを見ると多かれ少なかれ彼女の食費の被害を受けているようだ。
あれ!?なんでじゃあ俺だけ破産したんだ!?
まあ、元凶である優希も昨日冒険者登録を済ませたようだし、これで被害はなくなるだろう。
おっと、今度は俺のせいで話がそれてきた責められないうちに戻そう。
「あとのみんなはどうするんだ?」
「あたしは今日は宿に籠って公用語の勉強。フィーリアは?」
波瑠が答えてフィーリアにふる。
「私は優希の初仕事に付き合う。」
「うへぇ……。てことは、今日は狩りかぁ。宿でのんびりしようと思ったのになぁ。」
「それじゃあ、ギルドに登録した意味ない。」
「そーだけどさー」
なおも食い下がる優希をフィーリアに任せて、ジュンジが喋り出す。
「僕は魔法を習いに行こうかと思うんだ。」
「波瑠でも使えるのに、ジュンジ、使えなかったのか?」
浩司の言葉に波瑠がムッとした表情を見せるがなんとか押さえてくれたようだ。
すると准次が苦笑しながら
「今までひたすら剣術を習ってきたからね、機会がなかったんだよ。」
そこまで聞いて俺はふと疑問が頭をよぎる。
「なあ波瑠、お前、どうやってこっち来てから3日で魔法を使えるようになったんだ?」
「そーいや、波瑠、お前、始めから魔法が使えてたような……」
浩司が口を挟んできた。
ん?でも始めからって……。
「…………だからよ。」
「え?」
「前にも一度、別の世界に召喚されたことがあるからよ」