6話 それから……
義人がこの村を発ってから2日がたった。
あれからすぐ義人を追うかどうかで意見が割れた。ジュンジ、フィーリアは反対派で、浩司と波瑠が賛成派だ。ちなみに俺は中立、優希も判断できないと中立を保っていた。
反対派の意見は行っても義人の足手まといにしかならないというもっともな意見だ。賛成派の意見は天人族と鬼人族に対する好奇心と、義人が最後に行った『もう会うことはないかも』という言葉だ。
浩司と波瑠以外は、「俺は死ぬかもしれない」と受け取った。
が、賛成派の2人は「元の世界に帰れるかもしれない」と受け取ったようだ。
その意見を聞いてそういう見方もあるのかと思った俺は、どっちの意見も正しいと思ってしまったので、中立ということになった。
っていうか、義人ってこっちの世界の人かと思ってた…
あとで浩司に聞いた話によると義人は小さいころにこっちに来たらしい。
そして、義人がいなくなってから4日がたった日。まだお互いに意見を曲げることなく平行線をたどっていたのだが……
問題の天人族と鬼人族が姿を消したという情報が入ってきた。
その情報を聞いて、頭が冷えた一同が真っ先に気になったのは義人の安否。ただ、情報はざっくりとしたものしか無く、義人以外にも結局S級冒険者が多数参加していたようで、一冒険者の安否などわからないそうで。
とりあえず、食堂に入り、昼食をとることにした。
「これで完全に義人に関する情報がなくなったな……」
俺が呟いた言葉に、全員が暗い顔をする。
「とりあえず、これからどうするか、ね。」
そういったのは波瑠だ。みんなの視線が波瑠に集まる。
「大きく分けて選択肢は二つね、一つは義人を探しながらこの世界の町を旅すること。もう一つは、義人がいっていた、北の遺跡を目指すこと。まあ、後者は無謀ね、ただし、ほぼ確実に帰る手がかりがつかめる。私は遺跡を目指すに一票、早く帰りたいもの。」
そこまで考えていたのか、先のことをなにも考えてなかった俺とは大違いだな。
「ボクは町巡りがいいなぁ。異世界の町巡り、食べ歩き……やってみたい。」
ここに俺よりもっと何も考えていないやつがいた。
優希だ、異世界の町巡りって、選択肢が変わってるし、なんかもう、表情からして妄想の世界に入ってる。
食べ歩きと言ったときにじゅるって聞こえてきたのは……触れないでおこう。
優希はてがつけられないからおいといて、俺はふとあることに気がついた。
「そういえば、ジュンジとフィーリアってこの世界の人間だよな?お前らはどうするんだ?」
「僕はこのメンバーが気に入ってるし、特にこれからの予定とか、縛られるものもないから当分同行させてもらうよ。もちろんどっちを選んでも。」
「フィーリアは?」
「私も当分付いていく」
とりあえず、あと意見をいってないのは俺と浩司だけなわけだが。
浩司の方を見る。彼は下を向いて、なにか考えているように腕を組んでいる。
俺が浩司の方を向いていることに気がついた他のメンバーの視線が浩司の方に集まる。彼は微動だにしない。
そう、全く動かないのだ。寝てるんじゃないかと思うほどに……。
ん?待てよ……
数秒の静寂。その結果聞こえてきたのは……
「ぐー……」
やっぱり浩司の寝息だった。
「「「…………」」」
再び短い静寂。
「「ふんっ!」」
そのあと聞こえてきたのは、ガンッと言う大きな音と、ギャーと言う男の叫び声だったのは言うまでもない。
それからしばらくして、話は各地の町を巡りながら情報収集しながら戦いの腕を磨き、力をつけてからここから北にあるらしい遺跡を目指すということにおさまった。まあ、波瑠は渋々といった感じだったがなんとか納得してくれた。
話がまとまったところで、三日ほど各自村を見て回ることにした。ジュンジやフィーリアはともかく、他のメンバーはこの世界に来てからまだ一週間ほどしかたってない上、転送そうそう義人に会うと言う、幸運なのか不幸なのかよくわからない状況で、町をゆっくり見て回る時間などなかったからだ。
優希はギルドに登録しといた方が良いしな。
とりあえず、俺は壊れた武器を新調しに、鍛冶屋に向かうのだった。ちなみに大猪を倒したときの報酬がスライムのクエストと合わせて50セドンだった。義人がいなくなってから、食費に15セドン、宿代に15セドン使って残り20セドンだ。
補足だが宿は朝晩二食、おかわり自由がついているので、食費とは、昼食、間食代だ。
それがなぜ宿代と同じかと言うと、優希のせいだ。
彼女はこの世界に来てからまだ仕事をしてないので、優希の分は他のメンバーで分けて払っている。
それがもう高いこと高いこと……。
宿、おかわり自由の二食つきじゃなかったらとっくに破産してたな……
それにしても、初仕事でほぼすべての武器を買い換えるって……装備代、20セドンで足りるだろうか……
俺は街道にちらほら並んでいる屋台をのぞきながら鍛冶屋を目指す。
屋台は大きく分けて三種類だ。食べ物屋、アクセサリー屋、そしてなにやら怪しいものが並べてある屋台、三つ目は何に使うかわからない上、おいてあるものも高い。
とりあえず、金がない俺は食べ物屋やアクセサリー屋を中心にのぞいていく。
アクセサリー5セドンぐらい、食べ物は一品1~3セドンぐらいの店が多い。
ちなみに売っている食べ物はほとんど名前も聞いたことのないようなものだ。この世界の料理だろう。
この世界に来てから宿や食堂で食べていたのは、パンとシチューみたいなもの。あとは、たまに麦飯と、冒険者が近くで狩ってきたであろう、モンスターの肉を焼いたもの。といった名前がわからなくても素材さえ聞かなければ地球で食べていたものに近い。
しかし屋台に並んでいる食べ物は、見た目がやたらカラフルな物や、ほんとに大丈夫かと問いただしたくなるようなものが多かった。
そんなことを考えながら歩いているうちに鍛冶屋に着いた。
「ん、客か?」
な入るとやたらがっしりした体型の白髪混じりのオッチャンが居た。はっきり言ってしまうと第一印象は怖くて無口そうな人だなぁ、だ。
「はい、この間、装備品が壊れちゃって新しいのを作ってもらおうかと……」
「どれ、その壊れた装備品とやらを見せてみろ。」
何で?と思わなくもなかったが俺は素直に亀裂だらけの盾と、刀身が半ばから折れた剣を取り出して渡す。今は町中だし、役に立ちそうにないものを装備したままにしていてもあまり意味がないので、ギルドでもらった鞄に入れていたのだ。
鍛冶屋の店主はそれらを見て、一通りさわり終わってから、
「……こりゃあひでえな。損傷もだがもとの性能が悪すぎる。」
「そんなことまでわかるんですか?」
「そりゃあ、長いこと鍛冶屋の店主やってるからなぁ。ところでお前さん、こんな武器でなにとやりあったんだ?」
何って、なんだろう。大猪なのだが正式名称は知らん。
ギルドで聞いた気もするが覚えてない。
「えーと、なんか口から火の玉を飛ばすでかい猪?」
「……よく生きてたな。」
「いや、何回も死にかけましたよ?」
「……」
オッチャンはため息をついて、
「予算は?」
「10セドン以内でなんとか……」
「10セドンで剣と盾だと、この折れたやつと変わらんぞ?はっきり言ってこの性能の武器を使うなら、おとなしく魔法でも覚えた方がいいと思うが……」
この武器そんなにひどかったのか……てことはもしかして……
「ちなみに、この胸当てはどうですか?」
俺は恐る恐る、唯一無事な装備である胸当てを差し出す。
それを見たオッチャンは顔をしかめた。
「こんな胸当てで防げるのは色の薄いスライムの体当たりぐらいだぞ……最近のギルドでもらえる装備はこんなに質が落ちちまったのかよ……」
絶望しながらも、胸当ては返してもらう。
どうしようか……俺がそんなことを考えているのを見透かしたように、
「よし、お前さん、初心者だろ?あまりにもかわいそうだからまけてやるよ、剣、盾、それにレザーアーマーも付けよう、それで20セドンでどうだ?」
ずいぶん気前よく聞こえるが、俺が提示した予算の2倍だ、でもギリギリ払えない額ではない、俺は迷った。
手持ちが無くなるのはきつい、幸い、今日の分の宿台は払ってある。でも明日依頼をこなさなければ、おそらく野宿の飯なしだろう。でも、買った装備が今と同じ性能では困る。買った次の日には壊れましたでは洒落にならないからな。
「ちなみに、普通に買ったら60セドンはかたいぞ。」
「買います!!」
「まいど~」
なんかうまいことのせられた気がするが、まあ、20セドンで足りないのは間違いないからいいか。半分以下にまけてくれるとかなんか裏がありそうな気がするがまあ、ここは善意だと思ってありがたく買わせてもらおう。
俺は金を払って剣と盾を受け取り、レザーアーマーのサイズを調整してもらってから、礼を言い、店を出た。
店を出て行くところもないのでしばらく歩くと、ギルドの前に出た。見るとちょうど優希が登録を済ませ、フィーリアと一緒に出てきたとこだった。
向こうもこちらに気づいたようだ。別に避ける理由もないので声をかける。
「登録はすんだのか?」
「うん」
見ると、彼女は弓と動きやすそうな革の鎧を着ていた。
何か俺の時よりもずいぶん性能が良さそうだな。主に防具が。
「弓にしたのか?てっきり前衛型だと思ってたけど」
「ちょっとレイピアと迷ったけどね。まあ、あの猪に振り回されたあとすぐに前衛型の武器で頑張ろうと思うほど、メンタル強くないよ……」
「まあ、普通はそうだよな。」
優希から普通の答えが返ってきたことに少し驚いたが考えてみたら彼女も日本生まれの普通の女の子……のはずだ。忘れかけていた。
まあ、その猪に振り回されたあげく振り落とされたあとに盛大に腹の音をならしてたから本当に普通のメンタルかは微妙なところだか、人のことを言えない気がしたので黙っておく。
「和人こそ、あれだけやられてトラウマにならなかったのが不思議。ニホンジンってそういうことに馴れてないって波瑠が言ってたけど……」
フィーリアに言われてしまった。
まあ、何回も突進されて避けきれなかったら、危うく夜空に光輝く星の一員になっていたかもしれないもんな。
「まあ、最後が倒した本人が驚くぐらい、あっけなかったからな。」
「それは言えてる。」
まあ、納得してくれたようだ。
こんな感じで3人は雑談しながら帰路につくのだった。