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ファンタジア・ホライゾン  作者: 日暮 十四(ヒグラシ)
第二章 バルナ小国群 クルディス王国編①
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19話 逃走と......

「…はっきり言おう、俺にあいつは倒せない。」


「え…」


今までの戦いを見ていた和人達には到底想像出来ない言葉が飛び出してきて、言葉に詰まる。


「まあ、知らないのも無理はない、か。あれは動き出すまでに対処しなきゃならなかったんだ。」


説明中も全く足を緩めない一同。もし緩めてしまえばそれすなわち『死』を意味する。

後ろからおってきているらしいカマベルはズシンズシンと走ってはいないが大きな歩幅で一歩一歩着実にこっちに向かっている。


「心配するな。あいつが追ってくるのは今のところはこの街の中だけだ。」


和人がそのことを気にしていることを察したハーゲルが言う。


「どういうことですか?」


「さっきの質問と合わせて街の外で答えよう。今は逃げることだけ考えろ。それと、敵はあいつだけじゃない。」


「それはどういう....」


和人はその意味を薄々気づいていたが、気づかないふりをした、いや、気づきたくなかった。


「さっきから聞こえてる呻き声、あれは全部|カマベル«やつ»の手下だ。今はまだうめいてるだけだが、早くしないと仕掛けてくるぞ!」


そう言い切られ、今まで考えたくなかった、ことについて裏が取れてしまった。

ハーゲルの言葉が頭の中に何度も反響するが、根性で何とか足に込める力を増やす。


ハーゲルの言葉を信じて、街を出れば助かるという希望はもらったが、街の人を見捨てるのだという事実が前者から引いても足りないぐらいの後ろめたさを放つ。


そんなことを考えているうちに気がつくと門を抜け、民家が立ち並んでいるエリアを走っていた。それでも相変わらず、うめき声は自分たちから遠のくでもなく、近づくでもなく、一定の大きさを保っている。

そのことと、もともと荒れていたということもあって、まるでゴーストタウンの中をさまよっているような錯覚を覚える。


いや、錯覚ではないのかもしれない。現に今、この街はゴーストタウンになりかけているのだ。『人がいなくなった街』という意味でも『化け物が徘徊している』という意味でも。


そんな閑散とした街の中をとにかく死にものぐるいで突き進む。


それからさらに十数分進むと、ちらほらと人の姿も見えてきた。あたりにいる人たちは老人や、子供が多く、その誰もが自分の運命をあきらめたような顔で道の片隅に座り込んでいる。


そして、一行が走り抜けてほんの数秒後、後ろから悲鳴が上がる。それはさっきまで聞こえていたうめき声ではなく、明らかに生きている人の声だった。


「うわー!?」


「く、来るんじゃないよ!!」


「おかーさーん!!」


そして、その悲鳴を聞いた、前方に座り込んでいた人たちは、和人たちの後ろを見て顔から血の気が引いていく、その後、再び俯く者、とにかく立ち上がって、再び街の外を目指す者、行動は様々だったが、武器を構えて迎え撃とうという者は誰一人としていなかった。

和人はとっさに振り向きそうになるのをぐっとこらえ、代わりに他のメンバーの顔を盗み見るとみな、顔をしかめており、強ばっているのがわかる。


「諦めるな!走れ!」


ハーゲルはそう叫ぶが果たしてそれは一人たちに向けられたものなのか、自分たちの後ろからくるものを見て、絶望に陥っている、あるいは陥りかけているこの街の住民に対しての言葉だったのか、それは定かではない。

しかし、フィーリア、ハーゲルはともかく、最近少し鍛えられたとはいえ、元が受験明けのなまった学生だった和人に街を中心から外まで全力疾走できるほどの体力があるわけもなく、和人の体力はもう既に限界に達しつつあった。もう既に2/3の道程を走りきっているのだからよく頑張ったほうだろう。

しかし、既に足の感覚は鈍く、立ち止まったら、再びすぐに走り出せないのは明白だった。

こんなに走ったのは部活中に買い食いがばれて、走らされた時以来だ、と和人は思う。


そして意外だったのが優希だ。和人の隣で同じぐらいかそれ以上にふらふらしていて、それこそ今にも倒れそうだ。やはりというか、魔法を使うと体力も消耗するんだろうか。

そしてさっきから少しづつ大きくなっているうめき声が精神的にも追い討ちをかける。


それからどれだけ走ったかはよく覚えていない。

額から垂れてきた汗でにじんだ視界の中で、建物が少し先で途切れているのが見えた。


―出口だ。


最後のひと踏ん張り、とばかりにちっからを振り絞り、ペースを上げようとしたところで隣を走っていた優希が突然がくんと崩れ落ちるのが横目で見えた。


「あ…」


崩れ落ちる寸前、はっきりと目がった。その目は、助けて…、とも、走れ!とも言っているように見えた。


―助ける?それだと自分が助からないかもしれない。

―でも仲間を見捨てるのか?他人を見捨てるのとはわけが違うぞ?

―ハーゲルに頼れば…。


その瞬間ハーゲルとフィーリアは少し先を走っていた。優希、和人は少し遅れている。


―彼らが気付き助けるのを待っていたら、おそらく、優希も後ろの集団の餌食になってしまう。


「くそっ!!」


そこまで考えた時、和人の行動は決まっていた。


がしっ。


こんな効果音が似合うほど、膝をついた優希の手をつかむ。


「うおおぉぉぉぉっ!!」


そして、雄叫びを上げながら前に投げるつもりで思いっきり引っ張る。

それこそ、もう門を出つつある前の二人に届かせるつもりで。


そこから先、和人の意識はあやふやになった。

ただ彼が最後に見たのは、前に出る優希と、戻ってきたハーゲルがそれを受け止める姿。

そして、自分のすぐ後ろから突き出された、二本の腕だった。




中途半端と思う方もいるかもしれませんが、この章は一旦終わりです。それと週1投稿もしばらくお休みします。次章のネタがまとまるまでしばらくお待ちください。m(_ _)m


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