18話 離脱
「じゃあ補佐は任せたぞ。」
そう言って駆け出す和人。そういった時点で3人は既に壊れた屋敷の陰に隠れており、和人が駆け出すのは、カマベル、あるいはファーベルに見つかることを意味する。
それと同時に優希は和人を助ける時に使った、穴掘り魔法をカマベルの真下に威力を考えずに最大出力で発動する。
『お!?』
カマベルは驚いたように声を上げるが特に焦った様子もなく、腰のあたりまで埋まった自身の体を頭を掲げることで下がってしまった視界を元の高さに戻しつつ見下ろす。そして、原因を探るため頭をゆっくり360°回転させる。もちろんその視線に映るのは魔法を放った張本人である優希ではなくハーゲルの方へ猛ダッシュ中の和人である。
『貴様か。ふん、この程度の魔法、何の虚仮威しにもならぬわ!!まあ、わざわざ殺られるために戻ってきたことは褒めてやろうっ!!』
カマベルはそう叫ぶが向こうからは特に仕掛けてくる気配も動きもない。
司会を確保するために頭を高く両腕で掲げる体制になっているため、攻撃ができないのだろうか?
そうであってもその余裕の言葉には、貴様の攻撃など決定打になりえぬわと言外に告げているようだった。
だが、もちろん和人の狙いはそっちではない。
身動きが取れないカマベルは引き続き優希達に妨害を任せてとにかくハーゲルに声が届く位置まで移動する。
『無視するなぁへぶしっ!?』
自分を無視し、通り過ぎようとする和人への雄叫びは、掲げた顔に飛来する1本の矢によって遮られた。
もちろんただの矢ではない、ただの矢で雄叫びが遮られるわけがないのだから。ちなみに放ったのは優希だが、その矢は昼間でもわかるほどに輝いていた。
フィーリアが習得していた聖属性の魔法の力だろうか。
カマベルは怯む以上のダメージは受けていないらしく、頭を落とすでもなく、矢が飛んできた方へ顔を向ける。カマベルの視線の先にはただただ倒壊し大きいがれきが転がっている風景しかなく、特に目立ったものは見当たらない。
和人はその間に十分な距離を稼ぎ、急ブレーキをかけながら叫んだ。
「ハーゲルさん!ララがピンチだ!とにかくここを脱出してくれ!」
後ろにカマベルが居て、前で自分の目で追えないレベルの戦いが繰り広げられている中、恐怖と戦いながらなんとか要点だけ告げる。
「なに!?」
その声は聞いたことのないほどの気迫がこもっており、かつ戦闘中にも関わらずハーゲルの顔は明らかに和人の方を向いており、表情も鬼気迫っていた。
だが幸いというべきか戦闘は鍔迫り合いの最中だったらしく、ハーゲルがよそ見した瞬間に相手«ファーベル»の一閃が飛んでくるということは無かった。
「い、今、ジュンジが波瑠を連れてさらったやつのあとを追ってる。俺らは報告しに来た、けどハーゲルさん、俺らじゃ無理だ。人さらいが使いそうな道なんて知らない...」
和人は一瞬思っていた以上の気迫に圧倒されそうになったが、なんとか事前に考えていた少し長めのセリフをつまらずに言い切る。
まるで鬼教師に向かって演劇のテストを行っている気分だった。
「ぬう...待ってろよ、ララッ!今助けに行くからなっ!!」
「できると思うのか?」
ハーゲルがこう叫んだ時、カマベルが覚醒以降、今まで淡々と、機械的にハーゲルを殺すために剣を振って
いたファーベルが再び声を発した。
だがハーゲルは答えるより早く鍔迫り合いを崩し、相手の体制を揺るがせる。
「す・る・ん・だ・よっ!!」
「しまっ!?」
ハーゲルは答えながらさっきまで受身的だった構えから一変させ、渾身の一撃を放つ。
その剣閃は見事にファーベルを真正面に捉え、鎧を打ち砕いた。その一撃は明らかに決定打になっていた。
だが剣で鎧を打ち砕くという荒技に刀身が耐えられるはずもなく、鎧が砕けると同時に剣も根本からポッキリ折れてしまった。
ハーゲルは、ファーベルが動かないのを確認するとそのまま踵を返し、ダッシュでこっちに向かってくる。
「行こう!」
そういうと、ハーゲルは俺を抱え、そのまま優希とフィーリアのほうへ、ノンストップでかけていく。
カマベルはまだ優希のあけた穴から出ようと四苦八苦している。
見ると、優希がカマベルのほうへ手を向けて、力を入れているのがわかる。
また何か新しい魔法を発動中なのだろうか?
とにかく、今のところは出てくる様子はない。
俺が担がれて、優希たちのところに到着すると、
「逃げるぞ!時間がない!」
そういったのは意外にもハーゲルだった。
あまりにもサクサクと作戦が順調に進むのでフィーリア、優希が唖然としているうちに和人は降ろされ、ハーゲルは続ける。
優希が唖然とした所為で脱出しようとするカマベルと、それを阻止しようとしていた優希の魔法の均衡が崩れ、今まさに脱出しようとしていた。
「なにをしている、走るぞ!!」
その声で我に返った三人は屋敷跡を離れるべく駆け出す。
その後ろでは、空気が振動するほどのカマベルの雄叫びと、地獄の底から響いてくるような、
苦しそうなうめき声が、あちこちの瓦礫の影から響き渡っていた。
「いいんですか?あいつは放っておいて…」
走りながら、フィーリアが尋ねる。作戦は予定通りだ。ただ、あいつを放置していくことが、今後どんな厄災を引き起こすか、わからない。
この作戦を決行すると決めた時点で、『知らない多数より知ってる数人』を優先すると割り切ってはいたが聞かずにはいられなかった。
「…はっきり言おう。俺にあいつは倒せない。」
後ろからは依然として、引き留めるような、身体にへばりつくようなうめき声が聞こえていた。
最近一話あたりの長さが中々伸びない…
すいませんm(_ _)m




