2話 自己紹介と初仕事
何とか街にたどり着いた俺たちはまず、尻の部分がスライムに噛まれてボロボロになっているジャージを隠すためにマントを買ってもらい、とりあえず街の酒場に入った。
ジャージにマントってなんかすごい格好だな…
「とりあえず自己紹介からだな、俺は岡咲 義人だ。それから…」
男3こと岡咲 義人は軽く自分の自己紹介を終え(といっても、名前しか聞いていないが)、視線で振られた男1から自己紹介を始めていく。
「まずは俺からだな、俺は、荒瀬 浩司だ。パーティーの役割は壁役だ。ちなみに歳は18だ。それから……」
「あー、もう!!ストップ!!次がつかえてるんだから、簡単にすませてよね!」
浩司が何か言おうとしたときに女2が割って入る。
「私は二条 波瑠。波瑠でいいわ。ちなみにパーティでは回復役を請け負ってて歳は浩司より2つ上。せっかちってわけじゃないからね?浩司がそれからで詰まった時には大体次の話が長くなるのよ。」
「残りは僕らだね、僕はアカツキ ジュンジ、パーティでは遊撃やってるよ。歳は波瑠と浩司の間。で、彼女はフィーリア、このパーティの最年少なんだ。ちなみに彼女も遊撃。」
「よろしく。」
みんな大体俺と同じぐらいか。
てかほとんど日本人の名前だな…
あとで義人が補足してくれたことによると、このあたりは昔転送してきた日本人が開拓して村を作ったため、日本語はもちろんのこと、様々な日本の文化が根付いているそうだ。
ただ、日本食が少ないのが悩みだとか…
それにしてもフィーリアだけ名前の法則が違ってるが、彼女はいったい何者なのだろうか。特徴的なのは目だろうか、少なくとも俺は今まで見たことがないぐらい澄んだ蒼色をしている。
まあ、わからないことはおいおい、必要になれば聞けばいいか。
蛇足だが実は波瑠と浩司は転送者でこっちに来てから3日ぐらいしかたってなかったりする。ちなみに和人がこの事実を知るのはもう少しあとの話だ。
とりあえず、全員の名前はわかった、いろいろ聞きたいけどとりあえず俺も名乗るとしよう。
「夜神 和人だ。」
「そうか、和人、とりあえず何が聞きたい?」
「とりあえず、この世界の基本的なことが知りたい。」
それは俺たちも聞きたかった!!とでもいうように浩司と波瑠も視線を義人に向けている。
え、こいつらこっちの世界の住人じゃねーの?
他の2人はどうやら知っているようで、あまり興味を示さない。
「そうだな~。まあ、うん。そのうちわかるだろ。てか、慣れろ。」
「「「!?」」」
何が聞きたい、と話を振っといてまさかの!?
「…あとは種族だな、フィーリア。」
固まっている俺たちを無視して、強引に義人は話しを進める。
「ん、」
呼ばれたフィーリアはフードをとった。
そこにあったのはネコ科の動物の耳だった。
「こいつは猫耳族という種族だ。他にもいろいろいるが、まあ、旅をするんだったらそのうち出会うだろ。」
フィーリアの耳を見て他の2人は唖然としている。
ジュンジは……どうやら知っていたようだな。
確かに俺も驚いたけども!!そこ聞きたかったとこじゃねえし!!
「とりあえずそんなもんだ。他に聞きたいことは?」
「…元の世界に帰る方法は?」
これは聞いておきたいところだ。
…まあ、さっきの感じだと、答えてくれるか怪しいが。
しかも帰れてもただのニートだし。
下手をすると帰る家もない。ホームレスだ。ニートですらない。
義人は少し笑って
「あると思うか?」
逆に聞いてきた。
お、答えてくれそうな雰囲気。
その雰囲気に浩司と波瑠も少し期待の眼差しを義人に向ける。あくまで少し、だが。
「いや、ないんだろうな…あったら日本語が通じるやつで街なんてできるはずもない。」
「それは、こっちに来たやつが必ずしも、帰りたがらないだけだ。それは関係ない。」
なんか、ものすごいもったいぶるな。
「じゃあ、あるのか?」
「この世界から出る方法はある、ただ……」
なるほど、言いたいことはわかった。
その方法を使った奴がこの世界からいなくはなったが、帰ってくるはずもないので失敗した成功したかわからないってとこだろう。
「なんとなくわかった。」
「え!?わかったの?」
なんかものすごい驚かれた。
「え!?そんなに驚くことなのか?」
俺は自分が想像したことをそのまま話した。
最後まで話すと義人は
「すまんが和人、全然違うぞ…お前ファンタジー小説の読みすぎ…」
「!?」
違うのかよ!
なんかものすごく恥ずかしー
浩司と波瑠は思いっきり笑ってる。あとの二人は必死にこらえている。
義人はほっとしているようだ。
自分のセリフをとられたと思ったら、俺が間違ったことを堂々と話し始めたから…
だめだ、これ以上考えたら恥ずかしくて頭が沸騰しそうだ。
「じゃ、じゃあ、どういうことだよ!」
「…ここから北へずっと行ったところに古い遺跡がある。そこに行けばわかる。」
「それはどういう…」
義人が真剣な顔になった。
「まあ、強くなって自分で確かめてくればいいさ。」
そう言った後、何か思いついたかのようににやりと笑いながら、
「まあ、死ぬまでに、あそこを通れるほど強くなれるかは、わからないけどな。」
という言葉を残して、酒場のマスターのところに行ってしまった。
しばらくして戻ってきたとき、鍵を2つ持っていた。
どうやら、酒場の上は宿になっているらしい。
「とりあえず、あとは明日だ、今日は宿で休め。明日から稽古つけてやる。弱かったらすぐ魔物に襲われて死ぬからな。弱肉強食、そういう世界だ。」
あとでジュンジに聞いた話によると、ここの村の北は少なくとも人間族の間では未開の土地である大森林が広範囲に広がっており、相当な実力者でも、奥を探索してくると言って入ったっきり帰ってこなかった、という話はよく聞くほど、危険地帯だそうだ。
で、翌日。
俺、義人たちに案内されてギルド会館に向かった。ギルド会館と言ってもこの村には、できて間もないのか、出入りする人はまばらだ。建物も新しい。
できて間もないなら普通人が集まるんじゃないか、と思う人もいるだろうが、ギルド会館の場合登録してなければとくに用途がない上、村の端のほうのこじんまりとした建物で開設したため、そもそも、ギルドの存在自体知っている人のほうが少ないのだ。
「そこにカウンターが見えるだろ?」
浩司がカウンターを指さしながら言った。浩司たちとも昨日の夜にすんなり打ち解けていた。
浩司が指した方を見るとカウンターが4つ並んでいた。
「一番手前のカウンターは、このギルドの説明をしてくれる。その後ろに並んでいるカウンターは、冒険者ギルド、行商ギルド、農業ギルドって言って…、それぞれのギルドに関する手続きをしてくれるんだ。どのギルドに所属するにせよ、ひとまず一番手前のカウンターに行って来いよ。」
浩司はそれだけ告げると、併設されている飯屋で待つと言って別れた。
俺は言われた通り、一番手前のカウンターでギルドの説明を聞いた。
それによると、ギルドは複数入ることができるらしい。
つまり、冒険者ギルドに入っているから行商ギルドには入れない、なんてことはない。
そしてギルドに入るときには最低限の装備がもらえる、という特典付きのようだ。
たとえば冒険者ギルドなら安価な盾や剣などの装備一式、行商ギルドなら、通行手形、簡易的なに荷車などだ。
悩んだ末、俺は冒険者ギルドに入ることにした。行商にしようとも思ったが、狩りはしてみたいという欲望に打ち勝つことができなかった。
そういえば、義人が稽古つけてくれる、と言っていたのを思い出す。
行商はそのうちやろう。
というわけで、冒険者ギルドのカウンターに移動する。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。新規加入ですか?」
カウンターにいたのはどことなく日本人っぽい雰囲気のお姉さんだった。
なんだか、ここまで日本語が使われてるとなんだか異世界に来たって感じがしないな。
まあ、そのおかげで助かってるんだけど。
俺がうなずくと。
「では軽く説明します。まず…」
お姉さんの話によると冒険者は強さごとにSS~Fにランク分けされていて自分のランク+1の依頼まで受けることができ、SSランクになるといろいろ特典がもらえるらしい。
ただし、今現在生きている中でSSランクに到達できた冒険者は2人しかいないとか。
その二人も今では大国に勇者として取り込まれているらしい。
いわゆる国お抱えの冒険者だな。
パーティで依頼を受ける場合はそのパーティメンバーの平均ランク+1までだそうだ。
ランクごとの依頼内容はFランクは主に雑用、Eランクの依頼でやっと最底辺の魔物の討伐クエストや魔物の素材回収クエストがちらほらある程度らしい。
余談だがSSランクの依頼はめったに新しい来ないらしいが、内容は厄災クラスの魔物討伐などで、その分依頼完了までに時間がかるし、承けようとする猛者も滅多にいないので、SSランクの依頼は常にあふれているらしい。ちなみに依頼の報酬は国が一つが傾くのではないかと思えるほどの金貨だったり、国宝級の武器や防具などで今までの依頼達成回数も数える程だそうだ。
ただし、過去には報酬を払ったせいで財政が悪化し、国民の支持を得られずつぶれてしまった国もあるとか……。
ランクを上げる方法はF~Dランク依頼をこなしてポイントを稼ぐこと、D以降は特定の魔物の討伐でランクアップする、もちろんパーティーで受ける場合と、単独で受ける場合では強さが異なる。そして、同ランクの依頼10回失敗でランクが1つ下がるらしい。まあ、Dランク以降で10回も依頼失敗して命が無事だとは思えないが。
なおSSランクだけは特殊でSSランクに上がる方法はSランクの時点でSSランクの依頼を達成するというものだ。恐るべしSSランク。
次に武器だ、冒険者ギルド加入時にもらえる武器の種類は4種類、片手剣、弓、杖、レイピアだ。
どれを選ぶかによってついてくる防具も変わってくる、片手剣なら盾と胸当て、弓かレイピアならなら動きやすい革の防具服、杖ならローブだ。
迷ったが、俺は剣を選ぶことにした。
まあ、いずれどんな武器でも使いこなせるようになって見せるさ!
そういえば、あと冒険者用の鞄をもらった。なんでも上限までいくら入れても重さが変わらないそうだ、この鞄はランクアップと一緒に容量をアップグレードしてくれる(職人技を磨けば自分でもアップグレード可能だ)そうだ。
こうして俺は新しくもらった装備に着替え5人のもとに戻ったのだった。
いつまでも溶けたジャージにマントだと様にならないからな。
5人が待っているギルドの酒場に戻ると、浩司がたまたま居合わせた冒険者たちと飲み比べをしていた。
っておいおい、まだ朝だぞ!
「ん?おお、和人、無事登録できたみたいだな。初期装備は片手剣か。まあ、はじめの4つ以外にもいろいろあるから後々考えればいいさ。俺みたいに複数所持するのも手だな。」
どうやら義人は酒は飲んでいないようだ。ただ、なんか静かな怒り(というか羨ましそうな視線)を感じる。
その矛先は…
「和人‼やっと登録終わったか~。お前も飲…」
そこまで浩司が言ったところで他の連中に取り押さえられる。
ちなみに、義人はsランク、フィーリアとジュンジはDランク、浩司と波瑠はEランクらしい。
まあ浩司ですらEランクに上がれるんだからまあ、俺もすぐ上がれるだろう。
それにしても義人、Sランクって…
朝から悪酔いした浩司を宿に縛りつけたあと、俺たちはEランクの簡単な魔物素材回収クエストをギルドで受けて5人で村の出口付近の草原に向かった。
目的素材はスライムの外皮、つまりあの外側のジェル状のやつだ。
え?浩司?
知るか、朝から酒に酔ってるやつが悪い。
冒険者ギルド登録時に片手剣を選んで付いてくる防具を鎧から胸当てに変更しました。
2014/10/9 細かい設定の変更