13話 執念
ひとまず私用がひと段落ついたので短いですが続きを。
そんな時だった。
ギョロッ。
そんな効果音が似合いそうなほど、カマベルの目玉がぐるぐると動き始めた。
しかし誰も好き好んで亡骸に近くに立っていたり、注視していたりはしないのでそんな変化に気付くものはいない。
隣ではそんな事態が起こっているなど知る由もないファーベルとハーゲルが火花を散らしながら激しい戦闘を繰り広げている。
しかし、和人の目にはハーゲルは戦闘に集中していないように見えていた。
時刻は十一時五十分。
そんな、怪談にでも語られそうな事態が起こるにはあまりにも明るい時間帯だった。
そんなことは関係ないとばかりにファーベルが剣をふるい、ハーゲルが受け流す。
他に生きて動くものはない。
そんな中、時は一秒一秒正確に進む、まるでどこかにゴールでもあるかのように。
☆☆☆☆
その頃、無事に屋敷を出ることができた和人以外のつかまっていたメンバーは外に出た直後、屋敷の前にいた人の多さに圧倒されることになった。
そこには、数十、いや百を超える人々が屋敷の門に手をかけ、必死になって何かを叫んでいる。
なにを叫んでいるかは皆思い思いに違うことを叫んでいることと、やたらと大きい庭を挟んでいることもありよくわからない。
それは浩司たちがこの町に入った直後にはとてもじゃないが想像できなかった光景だ。
「あの中にジュンジ、優希がいるはずだ、探すぞ。」
そういって真っ先に浩司が人だかりに向かって走る。
が、他のメンバーは外の状況に頭が付いていけておらず、玄関を出たところでただ茫然としている。
当然だ、何が起こっているか状況を説明してくれるはずの優希からの手紙はおおざっぱすぎてよくわからなかったうえ、状況を知っているであろうハーゲルはその説明を断念し、中で戦闘中である。
ようやく門にたどり着いた浩司は門を開けようと閂に手をかける。
門番はいなかった。
なお、屋敷から消えた兵士がどうやって自分たちが出た後、鍵をかけたかという疑問については、ここは正門であってちゃんと裏口もある、とだけ追記しておく。
さらにここで屋敷の周りはどうなっているか補足しておくと、門自体は木製のもので押せばギィィと言いながら開くであろう門というよりは扉と表記するほうが正しいような代物だ。ただ門以外の屋敷を取り巻く柵は鉄製の格子状のものが使われており、門に比べて頼りなさを感じる。また、門はやたらと重厚感を感じさせるものが使われているからか、少々不釣り合いだ。
事実として、門は後ろからどんどんとたたかれる音がするだけだが、鉄柵のほうは少ししなってぎしぎしと音を立てている。
浩司は何も考えずに門にはまっていた閂をはずす。
扉はギィィィィと重苦しい音を立てながらそれでもある程度の勢いで開き、問答無用で暴徒と化した町民をを屋敷の中に招き入れる。
もし、浩司が扉の陰になる場所にいなかったら、頭に血が上った町民によりあれやこれやと問い詰められたかもしれない。
町民たちは入っただけでは止まらず、屋敷ならではのちょっとした公園程度には広い庭を本館のあるほうへ走り抜けていく。
走り抜けていった後にもまだ数十人の人が取り残された。しかし、こちらは走り抜けていった集団に比べてどことなく冷めているのか、特に怒声を上げている奴はいなかった。
浩司は屋敷のほうへ走っていく集団を見送ってからすっと扉の陰から出る。
見ると残っている集団の端のほうに見覚えのある顔が二つあった。優希とジュンジだ。
「やあ、無事で何より、ところでほかのみんなは?」
陰から出た浩司を見つけ、手を振りながら近づいてくる優希と声をかけてくるジュンジ。
「ん?みんななら後ろから……あ。」
言われて振り返るが時すでに遅し。
そこには少し離れたところで二つの大小の集団が半ば小さいほうが飲み込まれるような形で何やら話し込んでいる。距離があるのとしゃべっているのが一人でないせいか結構大きな声でしゃべっているにもかかわらずわからない。
しかし、幸いなことに数分間叫びあったのち、波瑠たちからその怒りの矛先が逸れたのかそのまま本館のほうへ向かってしまった。
時刻は十一時五十九分。
『約束の時刻』までちょうど一分を切ったところだった。
そして直後、屋敷の内部からみしみしと内部から無理やり壁や天井を押し上げるような、音が響くとともに瞬く間に壁が崩落し、土煙を上げる。
怒り狂いまさに屋敷を今から襲撃しようとしていた街の住民たちは怒りも忘れてあっけにとられただ呆然と立ち尽くす。そして、壁の崩落があと数秒遅かったらと思いさっきまで真っ赤だった顔を真っ青に染め直す。
しかし、そう、呆然としていられる時間もそう長くはなかった。
『内部から建物を押し上げた結果壁が崩落した』のだから、『内部に建物を押し上げたもの』があることは誰も疑いようはなく、それが敵であるか味方であるかと言われれば味方の可能性はほぼゼロであるのだから。
しかし、残念なことに一瞬で頭を切り替え、そこまで考え付けた、『頭の切れる者』はいかに街の外に魔物が闊歩する世界といえども、そう多くはいなかった。
いや、正確にはいたのは『逃げ足の速い者』かもしれない。
なぜならその逃げた一握りの人たちも『今動けば逆に化け物の気を引いてしまうかもしれない』という考えには至らなかったのだから。
勿論、それは建物の中に残った者も例外ではなかった。
異変が起こった瞬間に戦いをやめ巻き込まれない程度に距離を開ける者、あたふたと動き回るもの、
とっさに伏せる者、などなど。
状況を理解し正しく動けたのはおそらく二人だけだっただろう。
当然だがその二人に和人は含まれない。
動けたのはもちろんハーゲルとファーベルだ。
建物の一部が崩壊し、がれきがすべて落ち終わったとき、生まれた化け物、いや、復活した伯爵は手に持った自分の頭からこう告げる。
『今、ここにカマベル王国の建国を宣言する。』
その声は大気をびりびりと震わせ、屋敷の外まで高々と鳴り響いた。
引き続き更新できるかは私用の方の結果次第ってことで!これからも失踪しないように頑張ります。(4ヶ月ブリの更新)




