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ファンタジア・ホライゾン  作者: 日暮 十四(ヒグラシ)
第二章 バルナ小国群 クルディス王国編①
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9話 変化と進展

ギクシャクした雰囲気のまま翌朝を迎えた和人たちは、ようやく屋敷に異変が起きていることに気づく。

昨日までは多少なりともあった人の気配が綺麗さっぱり消えているのだ。

黒パンを持ってきた兵士も、昨日と同じ時間になっても姿を表すことはなかった。


「...罪人に食わす飯はねぇってことか。」


浩司は諦めたようにそんなことを呟く。

そう言われればそんな気もする。昨日は全く気にかけなかったが町ではその日のご飯にもありつけない人が大勢いるのに、罪人(罪名はむちゃくちゃだったが)に食わす飯がなかっても別段不思議なことではない。


飯があるのかどうかは置いといたとしても、何か変なのは明らかだ。

俺がどうするか決めかねていると...


シュッ―


ガコン。


不意に風切り音が聞こえて、次いで何か硬いものに矢が突き刺さるような音が聞こえた。


俺の耳に間違いはなく、どこからか飛んできた矢は浩司の頭上数センチの所の壁に軽く刺さっていた。

矢尻の手前の部分には丁寧に折りたたまれた紙がつけられている。


ー時代小説のワンシーンみたいだな...


そんな率直な感想を抱いたのは俺だけだろうか。

とりあえず、浩司の前まで行き、なるべく目を合わせないように壁に刺さった矢を抜き取る。

ちなみに矢が飛んできてから今まで浩司は固まったまま動いていない。


そして折りたたまれた紙を広げてみる。


「......」


「何が書いてあったのよ?」


一向に口を開かない俺に焦れたのか波瑠が言う。


「....とりあえず、行動を起こしても良さそうだ。波瑠、派手に魔法をぶっ放してくれ。他のみんなは走る準備!」


俺の言葉にみんなの顔がぽかんとなる。


「ちょ、どういうことよ。」


「簡潔に言えば今この屋敷にはほとんどの兵士はいない、それこそ俺たちでも突破できるほどしか残ってないはずだ。細かいことはあと数分もすればわかる......ってこの手紙に書いてあった。差出人...というかこんなことができるやつは言うまでもなく優希だ。」


「つまり細かいことはあんたもわかってないのね....」


「おっしゃる通りです...ハイ...」


「.....」


俺の答えに周りから無言のジト目が返ってくる。

でも考えてもみて欲しい、一晩同じ部屋(牢屋)にいたんだからみんながわからないものが俺にわかるはずもない。

あいにく俺には物語の主人公のようなキレにキレる頭を持ってるわけでもなければ、超能力者の類というわけでもない。

それなのにどうして無言であきれられなければならないのだろうか。

と俺がここまで反論を考えて、口に出すべきか悩んでいると、


「....とりあえず、壁をぶっ壊せばいいのね?」


いつまでもそのままでも拉致があかないと思ったのか波瑠が早速行動を起こそうと先程矢が飛んできた窓がついている方の壁の方を向く。


「はい、お願いします」


「じゃ、行くわよ...」


そう言って魔法を放とうとする波瑠。

しかし、それは放たれることはなかった。

なぜなら.....


ガシャガシャガシャ......


鉄格子の向こう側、つまり牢屋の前の通路の方から金属鎧のパーツが忙しなくぶつかり合う音が聞こえてきた。

まだ残っていた兵士が俺たちのことに気付き、見に来たのだろうか。


無駄な戦いは避けたいと思いとりあえず撃つのをやめてもらおうと声をかけようとする。

だが、意見が一致したのか、あるいは俺の思惑を読み取ったのかは知らないが、彼女は魔法を撃つ体勢を解き座り直した。


音は次第にこちらに近づいて来、数秒もしないうちに音を出していた本人が以前見かけた重装備の兵士が着ていたのと同じ鎧を着込んで姿を現した。


「ララ!」


兵士の顔は兜で隠れており、見ることはできない。


「父さん.....?」


「「と、父さん!?」」


「.....」


男はそれ以上何も言うことはなく、話は出てからだとでも言うように俺たちが入っていた牢屋の鍵を開けてくれる。

全員が男に促されるままに牢屋を出ると最後に出てきたララが男に飛びつく。


「....えっぐ...会い...たかった...」


涙混じりにララが言う。


「ああ、すまなかった、全部聞いたよ、あいつらがお前を売ろうとしてたことも。もうお前を遠くにやったりしない。」


男はそう言って俺たちの方に向き直る。


「話はジュンジ君からだいたい聞いた、この子を保護してくれたことも...感謝する。この子の父親のハーゲルだ。もう心配ない。カマベルの支配はなくなった。さっさとここから脱出しよう。」


「「ちょっとまったぁぁ!!」」


波瑠も同意見だったらしく俺の声とハモる。

ララの父親が突然敵の鎧姿で現れただけでも意味がわからないのにこの人今なんて言った?

カマベルの支配がなくなった?

カマベルは確か領主だったから...つまり政権崩壊?訳が分らない。


「ん?何か問題でも有るのか?」


俺たちの勢いも意に介することなく、ハーゲル氏は平常運転で言う。


「こっちは急展開過ぎて意味がわからない!」


「ははは、急展開なのは認めるが事前に優希君から連絡が言ってるはずだが?」


確かに来たよ。アンタが来る数分前に!


そんな言葉を飲み込んで別の言葉を発する。


「確かに届いたが、協力者迎に来るなんてなんて聞いていないが?」


「何?ちょっとその手紙見せてくれ。」


そう言われて俺は手紙を差し出す。


「......すまない、読み上げてくれないか?私には読めそうにない。」


そう言われて手紙が日本語で書かれていたことを思い出す。


「『いろいろあって今領主館にはほとんど兵士がいない。うまく逃げて。詳しくは数分後にわかるから。優希』」


「.....」


「........」


「.......これだけか?」


「これだけだ。」


それを聞いたハーゲル氏は頭を抱えたくなるのを必死でこらえているようだったが、表情まではこらえきれなかったようで、疲れきったサラリーマンのような顔で言った。


「わかった、動きながら説明する。」


こうして俺たちは無事牢屋から脱出、そしてハーゲル氏の簡単な説明を聞きながら屋敷の出口へと向かうのだった。

余談だが捕まった時に持っていた荷物類は全部とまではいかなかったがハーゲル氏が持ってきてくれた。



★☆★☆



時間は少しさかのぼり、和人たちが牢屋でどうしようか悩んでいた頃。

昨日遅くに一人私室にこもっていたカマベル元領主は部屋から出て早々、ばったり会った屋敷から『消え遅れた』兵士にとある書類を突きつける。


「おい、この紙を町のの掲示板に張り付けて内容を出来るだけ多くの町民に知らせてこい!大至急だ!」


兵士は先日の手紙の内容を知っていたが、元領主のあまりの形相に紙を受け取り、敬礼しその場から走り去った。

途中で我に返った兵士はとりあえずその紙に目を通す。


『本日を持ってベルクはクルディス王国の統治を離れ、新王国設立を宣言する。ついては本日正午に罪人の処刑と新王国設立にともない儂、カマベルの国王任命式を行う。身分関係なく全員参加するように。』

ご丁寧にこの紙の最後には署名までしてあった。

どうやら領主殿はよほど町民の信頼が厚いと思い込んでいるらしい。それとも公開処刑で町民の信頼を取得できるとでも思っているのだろうか。

既に王国の統治を離れたという事実は白日のもとに照らされつつある。それはこれまで何もしてこなかった領主への納税や支配からも脱するという意味で伝わった。

そして中には好きで兵士になった変わり者も少数ながらいるようだが、兵士たちにとっては徴兵制度からの解放をも意味する。

そこにこんな紙を持っていけばどうなるだろうか。

兵士は笑みを浮かべながら掲示板がある冒険者ギルドへ足を運ぶのだった。




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