8話 罠
浩司が目を覚ました後 、
「あんたらにはたんまり儲けさせてもらったよ」
そう言って魔女のような笑い声を出すメリダ氏。
「....あんたが黒幕か。」
「さぁ、どうだろうねぇ。でも、初めに店に入ってきた時には、こうなることは決まってたのさ。それに、ギルドへは行かなかったのかい?行っていたらもう少しましな判断ができていただろうにねぇ。」
ーなんのことを言っているんだろう。ギルドに入ったが心当たりはない。
「やっぱり知らないのかぃ?知らないならまあいいさ。もう、どうでもいいことさね。」
いろいろしゃべり出すメリダ氏に対して隣でランタンを持っている兵士は未だに一言も言葉を発しない。
「まあ、運良く二人ほど逃げ延びたみたいだが、捕まるのも時間の問題だろうね。」
優希とジュンジのことだろう。
「………」
「あぁ、そうそう。ここの領主は優しいから奴隷か処刑か選ばせてくれるってさ。」
そう言って、再び魔女のように高笑いするメリダ氏。
「.....あんたなぁ!!」
そう叫びながら鉄格子に掴みかかる浩司。気持ちはわからなくはない。
「ふん、まぁ、どっちにするか考えておくんだねぇ。」
メリダ氏はそう言ってランタンを持った兵士を連れて階段を上っていった。
「………」
「………」
「………くそっ!」
数秒の沈黙に耐えかねたのか悪態をつく浩司。
さっきまでぐっすり寝てたやつと同一人物とは思えない。
「なぁ…」
そこでジェフさんが口を開く。
「……お前ら一体何やらかしたんだよ!俺は一般人だぞ!?……関係ないやつまで巻き込むなよ……」
途中で声を荒らげるも、最後の方は声に力が感じられなかった、今更どうこう言っても変わらないことを理解しているのだろう。
「で、どうする?」
俺は真面目なトーンで問いかける。
「っていっても、俺が思いつくのは選択肢は三つしかないわけだが……」
「3つ?」
「一つ目、これは言う前から却下するが、大人しく条件を受け入れる、つまり奴隷か処刑か、だ。」
「二つ目、脱出を試みる、波瑠の魔法があれば牢屋から出るのは簡単なはずだ。ただしその後は一度負けた相手と戦うことが予想される。」
「そして三つ目、逃げ延びたジュンジ達の助けを待つ 、当然だがこれにはタイムリミットが存在する。」
選択肢を挙げる度にみんなの表情は暗くなる。理由は明白だ。
俺の挙げた選択肢はどれも誰もが一度は考え、無理があると切り捨てたであろうものだからだ。
「あ、もう一つあるぞ。」
そういった瞬間に少しだけみんなの表情が和らぐ。
「波瑠、普段溜め込んでる色気を領主に向けて発散して篭r....」
最後までいう前に拳が飛んできた。
「......俺が思いつくのはこれで全部だが、何か他にいい案は無いか?」
さっきのは無かった事にしてほかの意見を聞いてみる。
この際顔が少し腫れているのは気にしないでもらおう。
「………」
あったら苦労しないか。
「とりあえず、捕まってすぐどうこうはならないだろうから、行動を起こすのは明日以降にしてくれ。」
「なんで?」
「全身痛すぎて動くの辛い.......あと、さっきの拳が予想以上に重い。」
俺は自分の失言を棚上げして小声でぼそっと抗議する。
「拳がなんて?」
「いえ、なんでもないです!」
というわけで何も決まっていないが、行動するなら明日以降ということで話は終わった。
翌日。
こっちの世界に来てから夜明けとともに活動という生活習慣がついていた俺たちは一部を除いていつも通り起き始め、少し高い窓から日が差してくる頃には全員が起きていた。
昨日の痛みは寝る体勢が悪かったのも災いしてほとんど引いていなかったが、痛みになれてきたのか今はそこまで気にならなかった。
朝食は知らない兵士が持ってきたが一人あたり黒パン一個と、昨日の朝から何も食べていない俺たちには少し物足りない量しかなかったが、荷物は全て取り上げられているので追加で作ることはできそうになかった。
まあ、食料が底をついていたから、荷物があっても追加で作れなかっただろうが。
朝食は皆無言で食べ終え、その後も特に話すことなく時間だけが過ぎていく。
「なぁ、いつまでこのまま、牢屋に居座ってるんだ?」
不意に浩司が誰にともなく呟く。
「.......私はもう少しジュンジたちを待ちたい。」
波瑠が答える。
「はっ、あいつらがそんなに信用できるのか?所詮前の村で会っただけの他人だろ?」
「.......」
「.....お前、その言い方は酷くないか?」
「だってそうじゃないかよっ!あいつらは所詮他人だろ?せっかく逃げ延びたのにわざわざ命をかけて助けにくる理由はねぇよ! それとも絶対来るって言いきれんのか?」
浩司の言い分は最もだ。
あいつらはもうこの街を出てどこか遠くに逃げてしまったのではないか?
助けは来ないのではないか?
頭の中でそんな言葉が反復される。
「おいおい、こんなところで仲間割れか?勘弁してくれよ...こんな時こそ手を取り合ってだなぁ......」
「「うるせぇ!!」」
なだめようとしたジェフさんの声を二人分の怒号がかき消す。
「やめてよっ!」
その状態に耐えかねたのかララが叫ぶ。
「やめてよ....」
そう告げるララの声は涙声だった。
「ごめんなさい...全部、あたしが悪かったのっ....あたしが家出なんかしてコージ兄たちと会わなかったらこんなことにはならなかった...叔父さんたちの企みに気づかなかったらよかったのっ!」
「......」
「...和人と浩司が泣かせた」
「........」
フィーリアの言葉に返す言葉も見つからない。
その日は誰もそれ以上言葉を発するきにもなれず、ただただ時間だけが過ぎていった。
◇◆◇◆
同日、全く動きを見せない浩司たちとは裏腹に、牢屋の外では刻一刻と情勢が変わりつつあった。
きっかけはカマベル公爵の元に届いた一通の速達の手紙。
その内容は一方的かつ簡潔に書かれていた。
クルディス王国はベルクを含む、北西の土地の一部を放棄する。それに伴い、ヨハネス・カマベル殿の仕事を終了したと見なし、公爵位を無効とする。
書かれていたことはこれだけで、ほかには何も見当たらない。
つまり 、おまえはクビで領民諸共後のことは知らない、と宣告されたのだ。
それを受け取ったカマベル氏の表情は赤くなったり青くなったりと忙しなく変化する。
それを同じ部屋に控えていた兵士は矛先が自分にだけは向かないようにと祈るばかりだった。
しばらくそれを続けたあと、彼の顔を不敵な笑みが彩る。
(ん?まてよ、王国から切り離されたってことは、上がいなくなるってことで、つまり、儂がいわば国王?もしかしてこれはチャンスじゃないか!でもどこでどうやって町民に伝えれば良いか.....)
そんなカマベル氏の頭の中を読み取れるはずもなく、自分たちの主が落ち着き、そのまま椅子に座ってただただ物思いにふける姿を見て、こっそり安堵のため息をつくとともに、一体何があったのだろうと困惑する兵士たち。
彼らが困惑しているあいだに、カマベル氏は再び急に立ち上がり、1人部屋から出ていってしまうのだった。
カマベル氏が出ていったあと、机の上に放り出されていた手紙にこっそり目を通す兵士たち。
人の口に門は立てられない。
この日、領主の館からほぼ全ての兵士が姿を消した。
手紙の内容が町中に広がるのにはそう時間はかからなかった。
生存報告もかねて投稿しました。
この四月から高3《じゅけんせい》になってしまうため、更新頻度はどうなるかわかりません。
途中で投げ出さないようにはしますのでこれからもよろしくお願いします。




