7話 叫び声
王都の会議のことなど知る由もなく、和人の戦闘は平行線をたど っていた。
浩司たちの方も、若干押されていることは否定しないが浩司が早々と戦線脱落ということはなく、後方支援を受けながらも何とか波瑠たちに兵士が近づけないように奮闘している。
しかし、そんな状態はそう長くは続かなかった。この闘いに始めに早々と業を煮やした人物がいたのだ。
それは誰かというと………
「貴様ら!!そんな小僧ども相手に何をもたもたしている!!とっとと引きとらえて、儂の前にひざまずかせんか!!!」
「そうですよ!!まったく、この辺り一体の領主でかつ、君たちの主であるカマベル公爵をいつまで待たせる気ですか!!」
…外野の連中だった。
そうだった、領主の名前、カマベルだった。
そんな率直な感想を抱いた俺とは裏腹に、浩司たちの方へ向かった兵士たちから半狂乱の雄叫びとも悲鳴とも聞こえる声が上がった。
そして...
ガッキィィン。
ひときわ甲高い音が聞こえ、俺は戦闘中であるにも関わらず自分の予想が間違っていることを願いんがら一瞬だけ振り向く、するとそこにはやはり浩司の剣が中を舞い、兵士が森の方へなだれ込んでいるのが見えた。
浩司はすでに取り押さえられ、フィーリアや波瑠も多対一の状況に追いやられ、取り押さえられるのは時間の問題かもしれない。
それを視認してしまったことが運のつきだったのかもしれない、固まりそうになる頭を必死に動かし、相手の剣を受けようと構えるが、振り返ってまず最初に見えたのは笑みの深まった対峙していた男の顔である。
「終わったみたいだな、お前の仲間。」
「……」
動揺を隠そうと無言で構える。
「あと、お前も、な」
深めた笑みを消し、つまらなそうな顔になった男が呟く。
「……え」
俺がそう呟くのと、意識が暗転したのはほぼ同時だった。
◇◇
「………」
目が覚めると薄暗い…というよりは真っ暗な場所にいた。どうやら建物の中のようだ。すぐそこに鉄格子も見える。
明かりは少し高いところにある小さな窓があるみたいだが、あいにく今は夜のようだ。
「……どこからどー見ても牢屋…だよな……」
そう呟きながら体を起こそうとする。
「痛っー!?」
そこで全身がぎしぎし痛むのに気が付いた。
「当然でしょ。あんな無茶な動きをした上に、最後は吹っ飛ばされてたじゃない……」
全身の痛みにのたうち回っていると、わりと近いところから声が聞こえてきた。
よく見えないが波瑠だろう。
波瑠がいるってことは他の人影もおそらく浩司たちのうちの誰かだろう。
「?そんなことしたっけ?」
「自覚無いの!?」
俺はそんなやり取りをしながら改めて辺りを見回す。
起き上がっているのが俺を含めて5人、横たわっている…と言うか、いびきをかいているのがのが一人。
あれ?2人足りない…
波瑠はいる、あと小さいのが2ついるからララとフィーリアもいる。
「何か失礼なこと考えなかった?」
そこまで考えたところで誰にともなくフィーリアが問いかける。
とっさに俺は答えてしまう。
「な、なにも」
「……カズ兄、声が上ずってる。」
そう指摘したのはララだ。
「そ、そんなこと、無いと思うなぁー。」
「.....」
頭の中だったが訂正しておこう。
小さいのと目が光ってるのが一人。
小さいのはララだし、目が光るのなんて猫の血(?)が入ってそうなフィーリアしかいない!
頭のなかで訂正すると、鋭い視線はなくなりはしなかったが確実に減ったので後は気のせいということにしておこう。
さて、これで残ってるのはそこの寝ているやつと今だ無言の一人だけだが、まず寝ているのは間違いなく浩司だろう。無言の男はジュンジだろうか?
となると、いないのはメリダさんと、優希か?
まだ体は痛むが心なしか慣れてきた。
とりあえず、浩司に目覚めの一発といきますか。
-行くぞ~、はい皆さんご一緒にっ!
せ~のっ!
そんな掛け声と、誰にともなく頭のなかで誘いかけながらひそかにたたき起こす準備にかかる和人。
「浩司~、起~き~ろ~よっと!!」
そのあと聞こえてきた悲鳴は浩司のものではなく、一同がなんだか聞いたことがあるぐらいにしか覚えていない声だったという。
それから一悶着あった後、和人がふざけてたたき起こした男は 、浩司ではなく一番始めに領主に捕まっていた男だということが判明した。
牢屋ですやすや眠っていた男こと、ジェフさんの話によると…
「だ~か~ら~、俺はあの婆さんに頼まれて綿を取りに行ってただけで、単に報酬が良かったから引き受けた、それ以上の関係はねぇ!」
「え…結婚してるんじゃあ……?」
「結婚?誰があんな婆さんと……」
「あんな婆さんで悪かったねぇ」
「!?」
その声は鉄格子の向こうから聞こえてきた。
その声の主は隣にはランタンを持った金髪で短髪の男とともに階段をおりてきた。
男が持ってきたランタンによって当たりが明るくなる。
声の主はやはりメリダ氏だった。
そして、ただ一人謎だった牢屋の中にいた無言の男の正体が灯りに照らされて判明する。
他人であるはずのジェフさんを悪乗りでたたき起こしてから、少しは反省して放置していたのだ。
正直あの騒ぎの中無言を貫いているのは、なんだか怖かったのだ。
明かりで照らされた男の正体は何のことはない、座ったまますやすやと眠る浩司だった。
-とりあえず、メリダ氏のことは置いといてこいつは殴り起こそう。
そう決意した俺はギシギシと痛む体を再び動かして、浩司の方に向かう。
今度はその意図を察した仲間たちも一緒だ。のってくれなかったメンバーの表情も呆れ半分期待半分と言った感じだ。
ー今度こそ!みなさんご一緒に!せ〜のっ!
「「浩司〜起きろ〜」」
その後聞こえてきた悲鳴は男の悲鳴の他に、「あたしを無視するんじゃないよ!」という甲高い声が混じっていたという。
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