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ファンタジア・ホライゾン  作者: 日暮 十四(ヒグラシ)
第二章 バルナ小国群 クルディス王国編①
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6話 開戦

「私は………ある」


彼女の発した言葉が俺の耳に届いた時、それは言葉では言い表せない確かな『重み』を持って俺の耳に届いた。


「あんたに……本当にその覚悟はある?」


「俺は……」


『ある』と答えるのは簡単だ。だが、土壇場でやっぱりできませんでした、ではすまされない。


「おい、なに話し込んでんだよ。あとにしろよ、それどころじゃねぇだろ!」


俺が答えに詰まっていると浩司が叫ぶように言った。

波瑠の問いかけは浩司には聞こえていなかったのだろうか。

あるいは考えないために聞こえなかったふりをしている、か。

どっちにしてもそこまで来ているのは確かだ。


「俺は…分からない。だからもしその『重さ』に潰されそうになったら、………そのときは支えてくれよ?」


俺はそれだけ言うと兵士の方へ剣を構えて我ながら女々しいと思いつつも照れ隠しに走る。

20、30歩も走ればもう剣の間合いだ。


「お、おい…」


後ろから浩司が戸惑ったような声をあげるが気にしない。

相手はこっちから来ると思っていなかったのか 、一瞬お互い顔を見合わせてからこちらに剣を構え直す。


「援護頼む!!」


それだけ言うと俺は剣を上段に構え、6人の中の一人-金髪で短髪の男-に斬りかかる。

俺が斬りかかった男は冷静に剣で弾き返せる構えをとり、隣にいた銀髪の男が隙だらけの俺の腹めがけて突きの体勢をとる。

隙だらけなのは自分でも分かる。だが、


「マッディグラウンド!!」


「アイシクルシールド!!」


後ろからジュンジと波瑠の魔法詠唱が響いた。

ジュンジの魔法は相手の足場を泥で水没させ、防御の構えをとっていた兵士はバランスを崩し、波瑠の魔法で繰り出された突きを弾く。


「ォ…ォォオオオオオ!!!」


-ッなんだ!?体が軽い!


俺はその軽さに任せて全力で持っていた直剣を振り下ろそうとする。

周りにいた兵士立ちには和人が突然別人に入れ替わったかのように見えただろう。


すると金髪の男は目を見開き、


「ハッ!」


俺の放った攻撃が首元の辺りに吸い込まれる寸前、気合いでも入れるかのように短く叫び、体勢を崩した状態で横にのけぞってみせる。


「ちぃっ!」


自分の放った斬撃が実はとんでもない速度で放たれていたことに気づかず、純粋に悔しがる和人。体が軽くなったことに加え、動体視力も上がっているようだ。


「……お前、その技どこで覚えた?」


「なんの、こと、だよっ!」


聞き返しながらも剣を振りかぶる。


「無自覚か、それとも......。まあいい。捕らえた後でじっくり聞くとしよう。」


そう言った金髪の男の目には獲物を狩る肉食獣のような、獰猛な目付きに変わる。


そんなやり取りをしている間に他の兵士はとっとと泥地帯を抜け、和人たちの闘いに水をさせないことを悟り、とっとと浩司たちの方へと足を向けるのだった。



ーーーーーーーーー浩司視点ーーーーーーーーーー



和人がなにか言ってから相手のところに全力疾走していったときは正直焦ったが、まさか和人にあんな実力があるとは思わなかった。

さっきはあんなこと言ったが正直俺だって波瑠の問いが聞こえてなかったわけではない。

そして、言われるまでもなく分かっていたことだ。

でも正直相手を殺すことにまだ覚悟ができていなかったから頭のすみに追いやっておこうとした問題だ。


まあ、その考えに思い至った瞬間、波瑠の問いに現実に引き戻されたけどな。正直滅入る。


俺がそんなことを考えているうちに和人と戦っている奴以外の5人が魔法の発動範囲を逃れてこちらに向かってくる。

壁役は俺しかいない。どうする。逃げるか。和人みたいに正面から突っ込んでみるか。


カタカタカタ……。


足が震えて鎧が音をたててやがる。

ちょっとでも恐怖心を拭おうとしてギルドでもらった胸当てを高い金払って鎧にグレードアップしたのに、これじゃあ恐怖を周りに悟らせるための重いだけのスピーカーではないか。


「ははっ、これが武者震いって奴か……」


「あんたのは本気で怖がってるだけでしょ。」


波瑠はいたっていつも通りだ。

まあ、俺もいつも通りと言えばいつも通りだが。

そんなやり取りをしてる間に敵も目前に迫っている。

優希の姿はもう見えない。

彼女が逃げるとは思えないので多分隠れて弓で相手を狙っているのだろう。ジュンジと波瑠は少し後ろで、フィーリアはすでに剣を構えてやる気満々。


……あとは俺が覚悟を決めるだけ、か。


「よぉし!!!やってやらぁ!!!!」


浩司の叫び声を 引き金(トリガー)にこちらでも戦いが幕をあける。



★☆★☆★




その頃、クルディス王国首都である王都セントナム、その王城のとある一室にて、


「……国王……本当によろしいのですか?」


長年国王の補佐を続けてきた男は、目の前の男が言った言葉に一瞬だけ頭がフリーズしてしまったがそれでもなんとか長年培ってきた精神力で頭を再起動して、おそるおそる確認する。


「……ああ。」


男の問いかけに、白髪混じりの-老人というには若すぎるが、かといって若者でもないぐらいの歳に見える-男が一瞬の沈黙のあと、はっきりとした声で言い切った。

これには集まっている他の3人も戸惑いを隠せないがなんと言っていいかわからず、ただただ脂汗を垂らし続ける。


今集まっているのはベルクを除く3つの町の領主たちと 国王、それに先ほど国王に問いかけた彼だけだ。

なぜベルクの領主だけ呼ばれなかったのかと言うと…


「もう一度だけ言う、今日をもって我々は北東の街、ベルク、及び未開拓の北東の土地の一部分を放棄する。これは王命である。」


どうやら聞き間違えではないらしい。

シンと静まり返った部屋の中、王の凛とした声のみが響き渡る。

その声は誰にも反論を許さないと言外に語っており、誰の発言も許さない。

この場において、とんでもない爆弾を投下した王の無駄に鋭く、迷いのない視線の意味を理解できるものはこの場にはいなかった。




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