4話 探索
翌日、聞こうと思いつつも、ことごとくララに詳細を尋ねるタイミングを失った和人が朝一番に直面した問題がこれだ。
「食材が底をついた。」
俺が鞄に入っていた残りの食材を並べながら言う。
ちなみに並べてあるのは、途中で狩ってきた魔物の肉少々、黒パン一人一個ずつ、野菜、ニンジン、じゃがいもなどの根菜類少々、以上だ。
パンを除けば並べても夜営セットに入っていたまな板の上にすべて余裕でのせられる。
「今日中に何とかしないとな……」
そういいながら俺は昨日のビーフシチューもどきの残りに並べた食材を適当な大きさに切って放り込む。
これで食材は本当になににもなくなった。
しばらくして、後から追加でいれた具材が煮たって、ある程度柔らかくなったのを確認してから皿に注いでいく。
一通りみんなにシチューの入った皿がみんなに行き渡ったのを確認すると、合掌してそれぞれ食べ始める。
なお、こっちの世界に食事の前に手を合わせる習慣があるのかは知らないが、ララはなにも言わずにみんなに合わせて合掌している。
「今日はどうする?」
「とりあえず、今日はララの服を取りに行って、食料調達。」
「あと、せっかく聞いたから、綿の密生地に行ってみたい。」
「了解」
と言うわけで、俺たちは日が地平線から離れる前に朝食をとり終え動き出す。
たかが数日で事態が一変するはずがないのはわかってはいるのだが、やはり実際に目にしてしまうとため息が出てくる。
何かしてあげたいのは山々だが若者の集団である俺たちにできることはない。そうとわかりつつも考えずに入られない和人だった。
良心と格闘している間に昨日の服屋についたので考えていたことをとりあえず頭のすみに追いやって建物の中にはいる。
店にはいると奥に昨日の老婆が座っているのが見えた。
「あぁ、あんたらかぃ、服ならもうできてるよ。」
そう言って早速出来上がった服を渡してくれる。
ララには早速奥で着替えてもらい、俺たちはその間に昨日少し聞いた綿の密生地の詳しい場所を聞くことにする。
しばらく雑談し、綿の密生地の場所を聞くとちょうどいいから自分も行くと言い出した。なんでも昨日綿の採取に向かった旦那さんが帰って来ないらしい。
町を出ると強い魔物が出る、なんてことはないはずなので、老婆に案内役として一緒に行くことにする。
話がまとまったところで老婆が用意してくると奥に引っ込んだ。それと入れ替わりにララが着替え終えて出てくる。
「……かわいい」
そう呟いたのはフィーリアだ。
それにつられて他のメンバーもララを見る。
そこには青色のホットパンツと白っぽい色のチュニックのようなものを着こなした、年相応の活発そうな女の子の姿があった。
秋なのにそんな薄手の服で、大丈夫?と思う人もいるだろうが、秋といっても日本で言う9月の終わりからから10月初期ぐらいの、寒くないというよりむしろ長袖だと少し暑いと言うぐらいの気候だからだ。
もしかすると、この老婆には今のうちに薄手の衣類を売っておいて、もう少し寒くなってきたころにもう一組買っていただこうという魂胆があるのかもしれないがこの際考えないことにしておく。
なお、なぜか浩司やジュンジより波瑠の視線が一番危ない気がするということだけ記しておく。
俺?言わずもがな。
しばらくして、老婆が身支度を終えて出てきた。
「待たせたねぇ。」
「いや、いいですよ。これから少しの間ですがよろしくお願いします……えーっと……」
「そう言えばまだ、名乗ってなかったねぇ。メリダだ、よろしく。」
「はい、よろしくお願いします。」
町を出てしばらく老婆もといメリダさんに先導してもらい、そのまま荒野を歩く。
すると前方に小規模だが山が見えてきた。どうやらここを登っていくらしい。
緩やかな坂道を頂上を目指す。
一番先に音をあげたのは鎧を来ている浩司だった。
いくら小規模だといっても山は山。簡易的なものとは言え金属製の鎧を着たままの山登りはやはりきついのだろう。
だからといって脱いでいたら緊急時に動けない。前衛を任されたものは辛いのである。
最も浩司に前衛を任せきっているといつ全滅するかわからないが。
「ちょ、ちょっと休憩...」
「なんだぃ。若いのにだらしないねぇ。それでも冒険者かぃ? 頂上までは休まないよ。」
そう言って今にも走り出しそうなそぶりを見せる見た目どう低く見積もっても50代のメリダ氏。
口調まで変わっている。店にいた頃はおっとり系の優しそうなおばあちゃんに見えたが今では元気ハツラツの体育会系おばあちゃん、とでも言うしかない状態になっていた。
昔の血でも騒ぎだしたのだろうか。
普段椅子に座って服を作ってるとは思えない体力だ。
ようやく頂上に着いたとき、浩司だけではなく、メリダ氏、フィーリア、優希を除く5人がちょっとした山登りでもしたのかというほど疲労困憊だったのは言うまでもない。
フィーリアはさすがというべきか、獣系の種族なだけはあり、ほとんど息も乱れていないようだ。
息を切らした一同はフィーリアに羨ましそうな目線を向けたあと、優希を見て何かが吹っ切れたような顔になるのだった。
一同が体力的な問題でしゃがみこんだり立ち尽くしていたりすると、
「見えたよ、あれが言ってた綿の密生地だ。」
そう言って登ってきた方とは反対側を指差すメリダ氏。
俺はその指にしたがって丘の反対側に目を向ける。
それは丘の上から見ると、雪が降り積もってるのかと思うほど に真っ白な地面が一面に広がっていた。
その真っ白な地面は遥か彼方に見える森の近くまで広がっているようだった。
時折風が吹いているのか綿の一部が煽られて空中に飛散する。
飛散しているそれはまるでそれ自体が発光しているかのように太陽の光を受けて輝いている。
それを見て、純粋にきれいと呟く者、言葉を発することなくただただ見つめ続ける者、あるいはこの景色を見ながら若かりし頃を思い出すものなど、反応はそれぞれだ。
「…………」
しばらく、景色をただ呆然と眺めていると、
「さて、見ての通りあとは降るだけだ。さっさと出発するよ。」
そう言って山を降り始めるメリダ氏に続いて木々の間に入っていく一同。
これから何が起こるのかも知らずにそのときは平和な時間だけがただただ流れるのだった。




