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ファンタジア・ホライゾン  作者: 日暮 十四(ヒグラシ)
第二章 バルナ小国群 クルディス王国編①
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3話 疑惑

翌朝、俺たちはボロボロの布切れのような服しか着ていなかったララの服を買いに再び町にはいることになった。

さすがにララの今の格好のままだと、店にはいったとたん追い出されかねないのでとりあえず濡れた布で体を拭いてマントを羽織ってもらうことにする。

店には入れないという理由以外に、昨日のように、

町を歩く度に少年少女に目の前でどさどさ倒れられても困るという本音があるのはここだけの話だ。

ちなみにマントは俺が義人にはじめて会ったときにもらったあれだ。自分でも鞄を覗いたときにあれがまだ残っていたことに少し感心した。

なお、服を買うお金は、テントなどを買った時に作った共有の財布から払うことにする。

コノワ村を出るときに全部使ってしまったので、みんなの懐が暖かいうちにそれぞれから100セドンずつ徴収済みだ。

余談だがクルディス王国もバルナ小国群に属しているため通過の単位は変わらない。


昨日入ったところと同じで入り口から入るがやはり一日でなにかが変わるはずもなく活気はなく、浮浪児が目につく。

すれ違う人がやたらこっちを見ていく気がするが、昨日の件で今さらどうあがいても手遅れなんだろうか。

ララは町にはいってからマントについているフードを深めにかぶり、ずいぶん静かだ。


中央通りに着いた俺たちはひとまず数少ない看板がとれていない、衣類を売っていると分かる店にはいる。店はこっちの世界では普通の大きさなのかもしれないがつい、しま○らやユニ○ロなどを思い出してしまう人にとっては『こじんまり』と言う言葉がぴったりに感じるほどの大きさの個人の店だ。


カランカラン。


ドアを明けたとたんに、乾いたベルの音が誰もいない店内に響き渡る。

全員が店内に入ると同時か少し遅れて奥から老婆が出てくる。

どうやら奥が居住スペースになっているようだ。


「こんにちは、この子の服を探してるんですけど……」


そう言ってララを前に押し出す波瑠。


「客たぁ珍しいねぇ、どんな服がいいんだい?」


そういいながら朗らかに笑う老婆。


「着れれば何でもいい」


「そうかぃ」


ララはそっけなくそう答えたが老婆は特に気を害した様子もなく、柔らかい笑みを浮かべている。

そのまま雑談に突入したので町の現状について聞いてみる、悪いのは見れば分かるが情報収集はしておいて損はない。


「あの、この町はいつからこんな状態なんですか?」


「ああ、ここ数年で、急に悪くなったねぇ。客もめっきり来なくなっちまった。」


そういいながらも予算も聞かずララの採寸をは始める。この老婆はその被害を受けなかったんだろうか?


「わたしゃあ、若い頃に行商で稼いだ金と、じいさんが町から出て服の材料になる植物を摘んできてくれてるからなんとかなってるけどねぇ、まぁ、最近はこの不景気で全く売れないから、貯蓄だけの生活さ。この辺りは比較的安全地帯だから、冒険者の仕事も少ないし、貯金がなかったやつぁ一瞬で路頭に迷うことになっちまったのさ。で、貯金があったやつぁとっとと他の町に引っ越しちまった。残ったのは物好きと、金に困ってるやつぐらいだね。」


まるで心を読んだように聞きづらかったことを答えてくれる老婆。


「どうしてこんなことに……」


「簡単なことさぁね、この町は他の四つの町との交易でなんとか成り立ってたのに、その交易があるときぷっつり途絶えちまって、町中に畑なんかがほとんどなかったから、食べ物の値段が高騰したんだよ。外を開拓しようにも安定した水源がないうえ、荒れ放題で知識をもってるやつぁとっとと町を出ていっちまったから、誰も手をつけられないんだよ。」


まぁ、わたしゃあ、近くに綿の密生地があるから商売できるんだけどね、と苦笑しながら続いた。


「近くに綿がとれる場所があるんですか?」


どうやら、波瑠が綿に興味を持ったらしい。


「あぁ、町を出て少し離れたところにあるよ。今は秋だからちょうど実から、綿がとれるはずだよ。」


地球で綿がいつ収穫時期をむかえるか詳しく知らないが、こっちの綿はどうやら、木の実なんかと同じで秋にとれるらしい。


「ありがとうございます」


「なに、たいしたことじゃぁないよ。はい、採寸は終わったよ、後はこっちで適当に作っておくから、明日また取りにきな。」


「わかりました、あの~値段は……」


「ああ、すっかり忘れてたよ。そうだねぇ………一式まとめて、30 セドンでいいよ。」


俺が買った装備一式より高い……だと?

まあ、あれは相当まけてくれてたみたいだし、服でもそれぐらいするのがふつうなのだろうか。


とりあえず、いい情報も得られたのでお礼もかねて少し多目にお金を先払いして、店を出た。


「用はすんだし、どこ行く?」


「とりあえず、冒険者ギルドは行っとかないといけないわね」


「へ?何で?」


「情報収集のため!あんた、そんなこともわからないの?」


俺の問いにため息混じりに答える波瑠。

彼女の中では『人と情報が集まる場所=ギルド』の等式はどれだけ依頼がなさそうでも成り立つらしい。


「じゃあ、あれだな」


そう言って浩司がここから見える他の建物と比べて 一回りほど大きい建物を指差す。

そして、特に異論もでなかったので、そのままギルドへ向かう。


ギルドにはいると中にはちらほら武器を携えている者もいるが、ほとんど人はいない。

とりあえず俺たちは依頼が張ってあるボードのところへ行き、どんな依頼があるか確認する。

貼ってあった依頼はほとんどすべて依頼主が冒険者ギルドになっており、どれもこれも町の現状への救済措置のようなものだ。中には『食べられる魔物の狩り場を見つけてほしい』や『水魔法で、飲み水を出してほしい』なんてものまである。

あと、目につくのは領主からの雑用依頼が少々。


領地がこんなことになっているのに離れの館の掃除依頼を出すとか……。

そんな依頼に言葉も出ない和人だった。


そんな依頼の数々が貼ってあるボードを眺めながらなにかが引っかかる気がしたが、しばらく考えても答えがでなかったので引っ掛かりを頭のすみに追いやるのだった。


その引っ掛かりの正体に気づいたのはそれからしばらくあとのことだった。

それはララについてだ。

彼女は農家の子供だと言った。食料の値段が高騰しているなら、農家は比較的裕福なのではないか。


「………」


俺がララを見ながら考え事していると、


「どうしたのよ、ララを凝視して。まさかあんた、ろりk…」


「ちがーう!!俺にそんな属性はない!」


「じゃあなんなのよ!」


「……昨日ララが言ったことが気になってただけだ。」


そういうと、ララがあからさまにビクッと肩を震わせ目を泳がせ始めた。


確定だな。


だがここまで反応されると、言って良いものなのかと今更ながら考えさせられてしまう。


「昨日言ってたこと?」


そう言って一瞬考え込む波瑠。


「……なんか変なこといってたかしら?」


どうやら気づいていないようだ。


「いや……まあ、ララにも色々あるかもしれないってことだ。」


波瑠は一瞬ポカンとしたがそれ以上は追求してこなかったので話を切り上げる。


話を切り上げた瞬間ララがあからさまにほっとした顔になったのは言うまでもない。


ここで聞くのは野暮というものかもしれないが、好奇心に瞬殺され、後でこっそり本人に聞こうと心に決める和人であった。



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