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ファンタジア・ホライゾン  作者: 日暮 十四(ヒグラシ)
第二章 バルナ小国群 クルディス王国編①
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1話 入国

新章突入

コノワ村を出てから三日が経過した。今のところ旅は順調だ。魔物との遭遇も比較的少ないし、出てきても特に苦戦することなく倒せている。もうすぐクルディス王国との国境にある検問所が見えてきてもいい頃だが問題があるとすれば…


「お腹減った~、ねぇ、そろそろお昼にしない?」


「さっきも言ってなかったか?」


「しょうがないじゃん、お腹がすくのは自然の摂理だよ!」


「お前の場合は間隔が早すぎる!」


「お腹すいた~!お腹すいた~!!」


そういいながら子供のように駄々をこねる優希。


「…………昼飯は検問所に着いたらな。」


時計がないのではっきりとした時間はわからないが、明らかにまだ昼時には早い時刻。

もうすでにこんな問答が朝飯以降2、3回続いている。

これに折れて一回間食を入れた結果結構な量の食料がなくなってしまった。多めに買い込まず、途中で出てきた魔物の肉が食えるものじゃなかったら結構危なかったかもしれない。


クルディス王国国内に通じる道は東西南北に一本づつしかなく 、それぞれの道の国境沿いには検問所が設置されている。

街道以外から入ることもできるが、街道以外は森になっており、危険を伴う。

特にやましいこともないので堂々と街道を通って入国する。

検問所のある国の国内は強い魔物があまり住み着いておらず、ほとんどが安全地帯になっている。

出てもすぐに国で討伐部隊が結成されて駆逐されるからだ。

検問所があるということはつまり国がそれに人員を割くほど国に余裕があるということであり、正常に機能しているということは国が繁栄している証拠でもあるのだ。

まあ、それも、現在っ向かっているクルディス王国には、どこまで当てはまるかわからないのだが。

ただ、この王国も過去には検問所を設置できる程度に国政が安定し、繁栄していたということを過去の王族の名誉のために追記しておく。

ただし、強い魔物があまりでない反面、盗賊が出たり、国民が戦わなくなり、市民が弱くなるなどデメリットも多い。

逆に国境沿いに検問所がない国では各町で町内の安全を確保している。つまり戦闘経験の少ない人は国内を旅するのも命がけになる。まあ、そんな国にすんでいる人は魔物からある程度自分の身を守れるぐらいの強さを持っている人が多いが。


俺達は新しい場所への好奇心3、これからいく場所への不安5そして、疲労2の心境で黙々と歩く。

これがこっちの世界の普通の人ならこれぐらいの旅は軽くこなすのだろうが、このメンバーには旅なれていない日本人げんだいじんが多数混じっている。まあ、日本人げんだいじんといっても優希とかは例外っぽいけど。

隣で優希は相変わらず腹へった~と呟いている。でも歩き疲れたって言うことは無さそうだ。


それからしばらく歩くと遠くに、祭りの時に屋台で使っているような感じのテントが張ってあるのが見えた。


「見えてきた、あれが検問所。」


「ずいぶん簡素だな。」


「まさかテントだけだとは…」


「私も、少なくとも何か建物がたってるのを想像してたわ。」


「ごはーんっ!!」


多少予想と違うことに驚きつつも、ようやく目的の国が目の前だという実感を持てて安堵する(一人を除いた)一同。

テントが見えるまで回りの景色が全く変わらないので進んでいる実感が持てなかったのだ。

テントの近くまでいくと兵士が2、3人いるのがわかった。彼らもこっちに気づいたようだ。

俺たちを見るなり一番手前にいた槍を持っている-優しそうな、それでいてどこがと言われるとわからない-強そうなおっちゃんが話しかけてきた。もちろん日本語ではなくこの辺りの公用語であるカルザス語でだ。一同は素早くそれに順応して使う言葉をカルザス語に切り換える。

ジュンジに太鼓判を押されただけのことはあり、順応が早い。


「知らないやつばかり来るのは珍しいな。いや、一人は知ってるか、ずいぶん久しぶりだな、嬢ちゃん。」


「ん、久しぶり。」


「フィーリア、知り合いか?」


「ん、コノワ村に来るときに義人とここ通ってきた。半年ぐらい前。」


「よく覚えてましたね……」


!?浩司が敬語を使った!?


「ん?どうした?そんな驚いた顔して…」


おっと、顔に出てたみたいだ。反省反省。


「いや、何でもない。それより、よく半年前に通った旅人の顔を覚えてましたね。」


今度は波瑠が何か驚いたような顔をしているが気にしてはいけない気がするのであえてスルーしておく。


「はっはっはっ、ここを通るやつなんて一年に数人程度だし、第一、ごつい冒険者とか、物好きな行商人がほとんどなんだよ、そんなやつばっかりのところに一人だけE級冒険者の嬢ちゃんみたいなのが混じってたら目立つだろう?」


「確かに…」


「むっ、これでもC級冒険者になった。」


そう言って頬を膨らませながら自分が持ってた冒険者カードを見せるフィーリア。


「前来たときは確かE級立ったはずだが、成長したなぁ……」


そう言ってフィーリアの頭を撫でる、おっちゃん。フィーリアも気持ち良さそうな顔をしている。


こうしてみるとまるで猫みたいだ。


「ん?そういや、前に一緒にここを通っていった坊主はどうした?」


義人のことだろうか?


「ここを通ってないんですか?」


義人が向かった国もここを通らないと行けないはずだ。通ってないはずがない。それとも森のなかを突っ切ったのだろうか?


「…来てねぇが?」


俺達は事情を説明する。

それを聞いたおっちゃんは、


「…確かに、その情報はこっちにも来たが……見てねぇな。それにあんな辺境の村までそんなに早く情報がいってたのか?…まあいい、そんなことよりあいつめ、不法入国しあがったな。今度あったらこらしめてやらねぇと……」


そんな感じで(不法入国者の発覚話を雑談にカウントしていいのかは知らないが)雑談を繰り広げるおっちゃんと、和人たち一同。

他の兵士たちにも切羽詰まった感じはなさそうだ。

事前に集めた情報など当てにならないではないか。

そう思った波瑠呟く。


「この調子ならこの国について調べたとき得た情報よりずいぶんましかも…」


それを聞いた奥にいた兵士たちはお互い顔を見合わせ、苦笑すると、


「……嬢ちゃん、それは…どうかな。どんな情報を得たかは知らないがあまり楽観視しない方がいいと思うぜ。」


「それはどういう…」


兵士たちは再び顔を見合わせて困ったような顔をすると、


「まあ、行けばわかるさ。こっちから来たってことはどうせ避けられない道だ。自分の目で確かめた方が早いだろうしな。」


と言われた。

そんなことを言われて不安は募ったがその話はそれ以降出てこず、しばらく兵士のおっちゃんたちも交えて雑談をしているうちに頭のすみに追いやってしまい、昼時になっていたので途中で狩った魔物の肉を使ったバーベキューを振る舞い、昼過ぎには無事、クルディス王国に入国することができた。

ここから目的地の町、ベルクまでさらにあと一日はかかる。

今はもう昼を過ぎているのであと一回は野宿確定だ。

しかし、もうクルディス王国に入ってしまったので強力な魔物に襲われることもないだろう。

魔物は強いほど(食べられない個体もいるが)肉がうまいので、食料調達には向かないということでもあるが、いまさら調達する必要もないだろうから蛇足かな?




それからしばらく歩くいているうちに波瑠が異変に気づいた。


「おかしい…」


「……どうしたんだ?」


「ここって、街道よね?国内の。」


「……それがどうした?」


「ここまで歩いてきてまだ一回も人にあってないじゃない?」


街道は町と町を結ぶ道、つまり普通はもっと人の通りが多いはずだ。それがここまで国内に入ってから一度も人を見ていない。

確かにおかしい。

やはり、さっきの兵士たちがいっていたように楽観視してはいけないのだろうか。


「あっ、でも前から馬車が来てるよ。」


優希の言葉にしたがって前方に目を凝らすと、確かに一台の馬車がこっちに近づいている。


「?おい、あの馬車なんかへんだぞ……」


徐々に近づいてくる馬車に最初に異変を感じたのは浩司だった。

その言葉に反応して目を細めるジュンジ。


「!?みんな、道の端によって乗ってる人と目を合わせるな!波瑠、優希はフードを被って顔を隠した方がいい。もちろんフィーリアも」


「分かってる」


「?」


「??」


フィーリアは当然とばかりに言われる前にフードを目深に被っていて、他の二人も戸惑いつつも言われた通りにする。


そして、馬車が近づいてきたとき、見えたのは、馬車を引く馬に乗っている太っていて顔から脂汗が吹き出ている見るからに悪人面の男。そして、その馬が引いている馬車の窓から少しだけしか見えなかったが、なかには多くの女子供が乗っているようだった。

見えたのは顔立ちがまだ幼い少女だったがなんだか目が虚ろだったような気がする。

馬に乗っている男は俺たちを一瞥すると、ふんと鼻息をならして後ろへ過ぎ去っていった。


「…………なにあれ」


「……奴隷商だよ」


「で、俺達は何でやましいこともしてないのに道の端に寄ってこそこそしたんだ?」


浩司が不服そうに聞く。むしろやましいことをしてるのは向こうだろ、と言わんばかりだ。


「街道だから普段はこんなことしなくてもいいんだけど、今は人通りが皆無だし、狙われたらなにされるかわからないから。あいつらには関わりたくないよ。」


そういうジュンジの顔は真剣そのもので誰も意見を言おうとしなかった。

もとの世界では奴隷なんて過去の産物であり得ないが、ここはファンタジーの世界なのでそういうこともあるんだと割りきり、自分たちはならないように気を付けようと心に刻む和人たちであった。




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