14話 旅立ち
「で、どっちに行く気だ?」
おそらくなにも考えていない浩司が尋ねてきた。
「…………東、しかないだろ?」
「そうなのか?」
浩司の反応と、クルディス王国に行くしかない現在の状況に頭を抱える一同であった。
なお、今回、優希は珍しくある程度理解し、他のみんなと同じように頭を抱えていたのはここだけの話である。
ただし、どの部分に頭を抱えているのかはあえて記さないでおこう。
気が進まなくても、この村にずっといるわけにはいかない。いや、永住する覚悟があるならそれもいいかもしれないが、俺たちはあくまでももとの世界に帰ることが目的である。
ここからクルディス王国の国境まで徒歩で3日、何で始めに開拓した日本人はこんな辺鄙な場所に村を作ろうとしたのか疑問に思う一同であったがとりあえずそこは色 々あったんだろうということにしておいて、気が進まないまでも、各自問題だらけの王国に向けて旅に出るために必要なものを頭に浮かべる。
何せこれから事実上の無法地帯、しかもここ数年慢性的な食料不足の場所に行こうというのだ。
買いそろえるものは山ほどある。
真面目に依頼を何件か受けておいてよかった。つくづくそう思う和人であった。
なお、補足しておくと現在の和人の財布の中身はおよそ 850セドンである。
「じゃあ、今日はもう日がくれてきてるから、買い出しは明日するってことにして、明後日ここを出るってことでいいかしら?」
「そうだな。ちょうど宿の前払いしている分が後二泊分だからちょうどいい。」
「決まりだね。」
話がまとまったところで今日の会議はお開きになる。
翌日、俺たちはさっさと朝食を済ませ、朝から買い出しに向かう。
買うものは大まかに言うと3つ、水、食料、そして夜営のためのテントだ。
水と食料は大量に買っとかないとな…向こうについても補給できない可能性があるらしいからな。
「ねぇ、今思ったんだけど、財布をひとつにまとめない ?」
「また、突然だな…」
でも波瑠の言いたいこともわからないでもない。
「僕は賛成かな…どうせ一緒に行動してるんだし、今回みたいにみんなでひとつのものを買うときにその方が便利だし。」
「あ、でも各自自分達でもやりたいこととかあるかもしれないから、パーティーで受けた依頼の報酬の分だけにしましょ。」
異論は無さそうだ。
「管理は……」
「和人、浩司、優希以外なら誰でもいいわ」
「ボク「「俺たちは何でダメなんだ!」」よ!!」
「浩司は明らかに向いてないし、優希は食べ歩きで使い果たしそう。和人はついこの間一度破産したのを忘れたとは言わせないわよ?」
ぐっ、なにも言い返せない。
「私はそういうの苦手。」
「僕も、そういうのはちょっと……」
「波瑠で決定だな。」
とりあえず、ゴブリンの討伐の時の報酬をまだ分けていなかったのでそれを当分の資金にする。
それだけでも、村に溜め込んであった金貨や依頼の報酬などでざっと800セドンほどあった。
今回は上位種のゴブリンも多数いたため、まだ使えそうな武器や防具を回収して売ったら一つ一つは安かったが数が多かったためそれなりの額になったのだ。
俺達はとりあえず雑貨屋に向かい、テントなどの夜営用の道具などの野営道具を揃える。しかし、それだけでおよそ700セドンもかか ってしまい、結局多かったはずの予算のほとんどを使ってしまうのであった。。
「それにしてもこの鞄便利だな。野営道具が全部入ったぞ……」
和人たちはあまり深く考えていなかったが、現在C級冒険者6人なので持ち運べる総量は地味にすごいことにな っている。
その容量、実に夜営で一ヶ月過ごすための食料を各自の鞄に詰め込んでもまだ少し余裕があるほどである。
その後、残りの共用の財産で買えるだけ水、食料を買い込みつつ、いったん宿へ戻る。
なお、鞄には中にいれておいたものを少し長持ちさせる効果があるので、半月ほどなら食料も腐らないので買い込んでも問題ない。
宿に戻った後、地図を見ながら再度経路と行き先、今持っているかがりの情報を確認する。
「行き先はクルディス王国で間違えないんだが……」
ここでクルディス王国について捕捉説明しておこう 。
クルディス王国は王都セントリアとその回りを囲むように位置する4つの町からなる小国家である。
保有する土地の面積だけで言えば無数の国が集まるバルナ小国群でも片手の指に入る。
ただし、これといった特産品がなく、もともと経済はあまり活発とは言えない。
ここ、コノワ村からだと近いのは2つ、 北東にあるベルクという町か、南東にあるツェルバという町だ。
現在どちらもたいした情報はない。
絶対にこっちじゃないとだめだという理由もないので、多数決でベルクに行くことになった。
あれこれ話し合っているうちに時間がたってしまったようで、気がつくと、空が赤く染まり始める時間になっていた。
俺達は食堂に向かい、出された晩飯、パンに魔物の肉入りカレーをこの村が食料のほとんどを隣国からの輸入に頼らず、自給自足していたことに切実に感謝しながら頬張るのだった。
状況をいまいち理解していない浩司が、
「何お前ら神妙な顔して飯食ってんだ?」
といってきたり、通りかかった宿屋の女将さんが、
「あんたたち、ここの飯がそんなに気に入ったのかい!?」
と、感動されたりと、色々あったが、こうして、コノワ村最後の日が幕を下ろした。
翌日、俺達はいつもより少し早く起床し、昨日のうちにまとめておいた荷物をもって、宿を出た。
これでコノワ村編は終わりです。次話から旅の舞台が変わります。
次編は何か進展させられる…ように努力します。
更新までしばらくお待ちください




