12話 異変
明らかにおかしい、なんだこれ。いったいどうなってるんだ?
確か俺達は小規模なゴブリンの村ができ始めているから、優希と浩司のC級昇格試験をかねて村が大きくならない内にゴブリンを駆逐しに来たはずだ。
ゴブリン自体は普通、単体ならE級の冒険者一人で十分倒せるレベルだったはずだ。
相手が多数いて、連携をとってきた場合に厄介なため、
C級昇格試験ということになっているが、そもそもすでにC級冒険者が三人もついているのだ。
ゴブリンの上位種個体もC級冒険者が三人もいてても足もでないというレベルでは無いはずだ
じゃあなぜC級冒険者である俺と波留は逃げている?
波留は魔法が使えなくなったからだ。
ーじゃあ俺は?
答えは、追いかけてくるただのゴブリンが一体一体ゴブリンないとなんて比じゃないほどのオーラを放ちながら追いかけてくるからだ!
現にゴブリンナイトは一体は吹き飛ばされて浩司と共に星になった。
もう一体はとっとと逃げてしまった。
何かいい方法は……待てよ、波留は魔法が使えなくなったっていったよな。
「波留……詠唱が長い方の魔法も使えないのか?」
「!!やってみるっ!」
その手があったとばかりに波留は振り返り足を止めた。
「『誇り高き森の精霊よっ!汝らに願うっ!我、波瑠に力を貸し与えよっ!』バイブレートバレットっ!」
波瑠が唱え終わると、足元に転がっていた土壁などのの破片みるみる内に波瑠の手の高さまで浮いていき、砕けたり合体したりしてほぼ均等な大きさの無数の弾丸の形に変わっていく。
ふつうに発動したようだ。この世界の魔法と波瑠が前いた世界とでは魔法の原理が違うのだろうか。
そして無数のそれらはキィィィンと音をたてながらものすごい早さでゴブリンの方へ飛んでいった。
「ガッ!?」
「ゴッ!?」
「リッ!?」
集団の前の方にいたゴブリンが次々と倒れていく。
しかし倒れたのは前方にいたゴブリンだけで後ろにいたゴブリンは倒れたゴブリンの骸を踏み越えて進んでくる。
なんか軍隊の進行に見えてきた。
「ダメねっ!効果がこれじゃあきりがないっ!」
「ダメか……他にいい策は……とりあえず逃げるぞ!」
その時、後ろからマントをなびかせるようなバサバサという音が聞こえてきた。見るとそこには茶色いマントを被った、蒼色の目を持った猫耳少女ーフィーリアがジュンジ、優希と共に走ってくるところだった。
「大丈夫?」
「へ、ああ、そっちこそ。」
「問題ない、ちょっと待って、今やっつけるから。」
そういうとフィーリアはゴブリンの方へ向き直り、
「『ホーリーレイ』」
するとフィーリアの手から光の玉が飛び出し、ふわふわとゴブリンの方へ向かって飛んでいった。
すると玉が弾け、辺りを光が包んだ。
光に包まれたゴブリンたちはさっきの殺気だったオーラが嘘のように消えていき、最後には突然あわてふためき出し、散り散りに逃げていってしまった。
「ん、終わった。」
その言葉で俺は我に帰る。
唐突すぎて何が起きたのかわからず呆然としてしまった。
そして何より、
「フィーリアって、魔法使えたのか……」
「ん、聖属性の魔法と、幻影魔法が少し。後は簡単なものなら…」
独り言だったが、律儀に答えてくれた。てっきりレイピア一筋かと思ってた。
あと『聖属性』フィーリアが言ったときジュンジが少し反応したように見えたが気のせいだろうか?
「それで……今何が起きたんだ?」
「帰ってから話す、とりあえずゴブリンキングを回収。」
そういうと、フィーリアはみんながゴブリンキングが吹き飛ばされた方に歩き出すのを見てから誰もいないはずの森の方一瞥してみんなについて行くのだった。
・・・・・・・・・
みんなが去ったあと、誰もいないはずの森の中に、なにやら動く影があった。
「やはり、ふつうのゴブリン程度を暴走させた程度では無理だったか……それにしても異世界魔法の使い手と、聖属性魔法の使い手とは……少し対応が遅れたか…今度のやつらは少し厄介かもしれん。」
影は一人それだけ言うとどこえともなく消えていった。
・・・・・・・・・
俺達は、ゴブリンキングと浩司を回収し、さらにゴブリンたちが溜め込んだ金銀財宝とまではいかないまでもそれなりにあった宝を回収して町に戻った。
なお、ゴブリンキング自体は、いれば周りのゴブリンの指揮は上がったり、支援魔法を使ってゴブリンを強化したりと厄介なことこの上ないが、実はそれ自体はそこまで厄介な魔物ではない。しかも今回は弾き飛ばされたショックで目を回していたため、首を斬って絶命させ、討伐証明部位だけ持ち帰った。
ゴブリンは素材として使える部分が少なく、また、数少ない素材の買い取り金額も低い。
ゆえにゴブリン討伐の依頼はあまり人気がない。
受けるのは俺たちのようなもの好きか、ゴブリンを従属魔法でテイムして使い魔にしようとする者だけだ。
しかし村が発見されて長時間放置されるとゴブリンキングの影響で人里を大々的に攻めるようになる。
何とも迷惑な魔物である。
帰りは何事もなく、村まで帰ることができた。
俺達は村につくと、ギルドに寄り、依頼達成の報告をする。
これで浩司と優希も晴れてC級冒険者だ。
矢がきれて木の上を飛び回っていたらしい優希はともかく、剣をむちゃくちゃに振り回したあげく、ゴブリンに弾き飛ばされた浩司がC級に昇格したのは納得いかない気もするが、この際まぁいいことにしよう。




