11話 ゴブリン討伐・下
ーーーーーー和人視点ーーーーー
時間はほんの少し遡る。波瑠が魔法が使えなくなる直前。
和人、浩司はなにも考えず、最短経路だからといって村の真ん中を突っ切ろうとしたことを後悔する羽目になった。
初めに襲ってきたゴブリンは全く手応えがなかった。
装備していた武器ごと、スパスパ斬れるぐらいに。
しかし、そんな簡単にゴブリンどもも殲滅させてくれるはずもなく、真ん中の辺りに建っていたひときわ大きな建物を横切ろうとしたとき、
『そいつ』は姿を表した。
『そいつ』は他の個体より一回りほど大きかった。
『そいつ』は他のゴブリンとは比べ物にならないぐらい圧倒的なオーラを放っていた。
『そいつ』の回りには西洋の騎士を思わせる装備を見にまとった、他のゴブリンより少し大きいゴブリンが2体、守るように付き従っていた。
『そいつ』はどう見てもゴブリンキング、またはそれに近い個体だった。取り巻きはゴブリンナイトだろうか、どちらも実物を見たのははじめてなので推測しかできないが恐らく正しいだろう。
ゴブリンキングと思われる方は、手に杖を持っていて、首にはどこで手に入れたのだろうか、ネックレスのようなものをつけている。
こいつがゴブリンキングなら、こいつを倒せばこの村は瓦解する、すなわち依頼クリアだ。
ゴブリンは個々の欲が強いため、村単位ともなれば優秀な統率者が必要なのだ。
ゴブリンナイトと思われる方は、重装備の騎士のような格好をしている。西洋の騎士を思い浮かべてもらえばいいと思う。ただし、顔は醜悪で、着ている鎧も汚れていて鈍く光っている。
俺は相手の出方をうかがう。
浩司は……お、すでに剣を構えてやる気だな、構えている手が震えているのかカタカタ聞こえるのが少し心配だが。
すると、ゴブリンキングが取り巻きのゴブリンナイトになにやら指示を出した。
その鳴き声は個人的なロマンを守るため割愛する。
どんな鳴き声だったら納得いくのかと聞かれると困るが、あれはファンタジーにロマンを抱いていた俺としては納得いかない!
指示を聞いた2体のゴブリンナイトは一体ずつ俺と浩司に切りかかってくる。
俺はとっさに剣を斜めに構えて受け流す。
何でニートになろうとしていた俺がこんなに動けるかというと、大猪と戦ったときに滑ったり転んだりしたことに懲りてあの後筋トレと剣術にちからを注いだからだ。
………ちなみに、この世界ではニートって成り立たないよな、……やべぇ!が本音だ。
そんなわけで俺はなんとかゴブリンナイトの動きを追えている。
ゴブリンナイトは、破壊力と言う点では大猪(後で調べるとレックスボアというらしい)には劣るが、知性があり、武器や防具を装備して剣術を使ってくるので厄介だ。
感覚としてはそこそこ強い剣士を相手にしている感じだ。
まあ、数年前まで剣道をやっていて、なおかつ思い出すためにここ数日一人稽古を積んだ俺からすればまだまだなんとかなりそうな範囲だが。
一方、浩司は……なんだかむちゃくちゃに剣を振り回しているように見えるな。
稽古に浩司も誘ってやればよかった……
それでも相手をしているゴブリンナイトも危なっかしくて間合いには入れないといった感じだ。
おっと、浩司の方をちらちら見ていたら隙ができてしまったみたいだ。相手のゴブリンキングがここぞとばかりに突いてきた。
俺はギリギリのところで体を捻って避ける。
自慢じゃないがこれでも体は柔らかい方だ。
そのまま捻った反動をつけて剣を相手の腕をめがけて振るう。
ガキィィィンッ。
甲高い音が響いた。
やはり他のゴブリンの装備とはひと味違うらしい。
……反動をつければ小手ごと斬れると思ったんだけどな。
ゴブリンナイトは剣を撃ちつけられたにもかかわらず降りきった剣で返しの一撃を繰り出そうとしている。
「わーわーわーおりゃーわーわー……」
後ろから浩司の声が聞こえる気がするがとりあえず気にしている場合ではない。
俺は相手の懐に入っているため剣と相手の体に挟まれている。
逃げ道は………下!
俺は相手の剣が俺の着ているレザーアーマーに触れる瞬間、できるだけ身を屈める。少し髪をかすったが気にしない。
ニタァ。
その瞬間、ゴブリン族特有の醜悪な顔に見るものを凍りつかせるほどの醜悪な笑顔が張り付いた。
ゴブリンナイトは剣を最後まで降りきらず、降り下ろす構えの位置で止めた。
まずい!
俺はとっさに上に剣を構える。
キィィィン。
今度はさっきより甲高い音が辺りに響いた。
ゴブリンなのに何でこんな質のいい装備品を持ってるんだ?
ふとそんな疑問が頭に浮かんだが、相手の力が強くなり始め、余裕がなくなってきて、そんな疑問はどこかへ飛んでいってしまった。
考えても見てほしい。剣に上からちからをかけるのと下からちからをかけるのとでは圧倒的に下からの方が不利だということが容易に想像できるだろう。
俺はとっさに剣を滑らせてなんとか立ち上がろうとする。だが、相手はそれを許さない。
立ち上がろうとした瞬間に足を弾かれてまたもとの体制に戻ってしまう。
「わーわーわーわーわーわー……」
……相変わらず浩司の方は訳のわからない掛け声と共に剣をめちゃくちゃに振り回している。
『俺に任せとけ!』とか言ってたのは誰だっただろうか?
「ーー人!」
ん?今なんか聞き覚えのある声が聞こえたような……今はそれどころじゃない!なんとか態勢を立て直さないと……
ドドドドド…「和人っ!」…ドドドドド……
な、なんだぁ!?
確かに呼ばれたが、同時にものすごい地響きが接触している地面から聞こえてきた。
そして聞こえてきた声の主は俺の聞き違いでなければ浩司の次にトラブルをつれてきそうな波瑠だ。
はっきり言おう……嫌な予感しかしない。
相手のゴブリンナイトも迫り来る地響きに気づいたのか剣に込めるちからを緩めた。
そして同時に音が聞こえてくる方に目をやる。
まだ薄く土煙が舞っているが、波瑠が手を降りながらこっちに全力疾走してくるのが見えた。
後ろに数えようとするだけで頭がいたくなりそうなほどのゴブリンを引き連れて……
「・・・・・・」
一瞬の沈黙。そして、
「うぉぉぉおおおお!?」
とりあえず俺も逃げる。数の暴力は勘弁願いたい!
俺と浩司がここまでたどり着くまでに倒したゴブリンの数の軽く三倍はいそうだ。
ゴブリンナイトは固まっていたので問題なく逃げることができた。
ついでにゴブリンキングの方も固まっている。
気がついていないのは浩司だけだ。
まだがむしゃらに剣を振り続けている。
てかあいつよく見たら目瞑ってるんじゃないか?
とにかく退避だ。
「何で逃げるのよっ!」
「何でって、それ見て逃げないやつがいるわけないだろ!!俺が戦ってたゴブリンナイトで出すら逃げてるんだぞ……て、なんで逃げてんだ!?」
「それじゃあ助けてもらおうとして来たのに意味ないじゃないっ!!」
「知るか!!お前こそ魔法をぶっぱなせばいいだろ!!」
「……だ・か・ら!その魔法が使えなくなったから助けを求めてきたんじゃないっ!!」
「……そうなの?」
そんなことを言い合っている内にゴブリンの大群はさっきまで俺がいたところを浩司を撥ね飛ばして通過した。
「ああああぁぁぁぁ!!!」
俺が見たのは浩司が飛ばされていくところだった。
それと同時に浩司と戦っていたゴブリンナイトも飛ばされていくのが見えた。
すげー人ってあんなに飛ぶんだー……って俺も巻き込まれたらああなるのか、気を付けよう。浩司、君の犠牲は無駄にしないよ!…多分。
そして、振り返って俺は気づいた。
ゴブリンの様子がおかしいことに。
俺たちを追いかけているゴブリンの目がなにやら赤黒く光って見える。
ゴブリンキングは必死にゴブゴブ叫んでいたが全く言うことを聞かない同胞に、何が起きたかわからないとでも言うように今はただ呆然と立ち尽くしている。
はじめは二匹いたゴブリンナイトも、一匹は浩司と一緒に吹っ飛ばされ、もう一匹は、とっとと王を見捨て、我先にと逃げ出してしまった。今は俺たちの前方に小さく見えているがあと数秒もすれば森に入り見えなくなってしまうだろう。
さて、どうするか。とりあえず状況を整理する
波留は魔法が使えないらしい。
浩司は飛んでいってしまった。まあ、いても役に立ちそうにないが。
フィーリアとは距離が離れすぎている。
優希と准次はどこにいるかわからない。
波瑠によれば優希とジュンジはゴブリンから逃げ回っている可能性が高いらしい。
町の方へは逃げられない。町に被害が及ぶ可能性があるからな。
森の奥の方へも逃げられない。そんなことしたらゴブリンからは逃げられるかもしれないが、もっと強い魔物の餌食だ。第一それができたら一直線に義人がいっていた北の遺跡に行っている。
そして、最後にもうひとつ、
正面からまともに挑んで勝てそうにない。
損なことを考えてある内にゴブリンキングまでもがどこかへ弾き飛ばされてしまった。
ゴブリンキングを弾き飛ばしたただのゴブリンの集団の方も、
は?ゴブリンキング?ナニソレ?
とでも言うように全く気にせずにこっちに向かってくる……って、明らかに異常事態だろ!




