プロローグ 気が付いたら…
拙い作品ですが、読んでいただければ幸いです
やあ、俺は絶賛落ち込み中の18歳。
たった今楽しい大学生活への道が閉ざされたところさ。これから楽しい楽しいニート生活の始まりだ。
そこまで自分の頭の中で誰にともなくつぶやいたところで俺はもう一度だけ自分の受験番号が記されていない合格者の一覧表を確認し大学生への未練を断ち切った。
もう来年また受け直すことなんて考えられなかった。いや、受けてもいいがとにかくもう一年勉強漬けの日々を過ごすなんて考えられない。
そんなことを考えながら大学を去ろうとしたとき、
「和人~!」
後ろから声をかけられた。
振り返らなくてもわかる。この声は幼馴染の神崎 優太だ。
俺は聞かなかったことにしてそのまま人ごみに紛れ込もうとする。
「ちょ、お前、待て!(笑)」
人ごみに紛れる前に肩を叩かれ諦めて渋い顔を彼の方へ向ける。
「....なんだよ?」
「受験どうだった?」
「……」
「…そうか、実は俺も落ちた!」
俺の沈黙を『落ちた』と受け取ったのか、優太は明るい声でしかもあっさりと自分も落ちたことを告白する。
声の調子と内容のギャップに周りにいた数人の視線が一手に彼の方へ集まるが彼が気にした様子はない。まあ、それが俺の知る数少ない彼のいいところの一つではあるが。
『どんな状況でも常にポジティブに!』
それが神崎 優太のモットーである。
「そうか…これからどうするんだ?」
「とりあえず、もう一年勉強する気も起きないから、当分だらだら過ごす!」
「うん、つまり、ニートか。」
「うん。ニートだね。」
「……。」
どちらかからともなくガシッと音がするかと思うほど強く手を握り合った。
それは周りで聞いていた人が若干引くほどだったという。
こうしてお互いのニート生命に危機が訪れたとき(家を追い出されたとき)、お互いの家に泊めるという約束を取り付けた。
親の了承は得ていないがまあ、家族がらみでよく知ってる仲だし、数日ぐらいは転がり込んでも(もしくは来られても)大丈夫だろう。
家に帰り親に受験に落ちたことを話すと、
「あんた、大学落ちたんやから働きよー、あんたの兄貴も大学生なんやし、家も何もせーへん大人養うほど金余ってないからなー」
と軽い口調で言われて1週間以内に家を出ていくように言われてしまった。
酷い!さっそくニート生命に危機が!
部屋にこもって徹底抗戦しようとしたが、残念ながら部屋に鍵はついておらず、壁ドンすらマスターできなかった(というか、いくら強く打叩いても反撃でお母んが繰り出した壁ドンのほうが迫力あった)。
そんなこんなで約束の1週間後、そこには何の準備もせずベッドの上でだらだら過ごす俺がいた。家族はいない。翌朝(翌昼)起きたらすでにどこかに出かけた後だったのだ。
もう昼過ぎだったが、朝食をとろうと台所に行くとメモ(というか手紙)がおいてあった。
内容は要約するとこうだ。
和人へ
今日一日優太の家族と一緒に日帰り旅行に行ってきます。
あなたもそろそろ出ていく準備ができるころだと思うので帰るまでに荷物をまとめておくように(笑)
(笑)じゃねーよ!
まあ、どうせ、俺にちょっとやばいと思わせるために書いただけで、ほんとにい追い出されはしないだろう。それに俺は1週間前に徹底抗戦するって決めたからな(キリッ
―――――――――――――――
……まさかほんとに追い出されるとは。
そう、言葉通り本当に追い出されたのだ。
家族が帰ってきたとき、俺は特にやばいとか感じず、ネトゲで大奮闘していたのだった。
それを見た家族一同の視線は冷気をを増し、最終的には二階の窓からパソコンを投げ捨てられ、抗議する隙も与えられず、準備する時間さえ与えられずに(あったのに何もしなかっただけだが)、ジャージ姿のまま家を閉め出されてしまった。
もうすぐ日が暮れる。
ギュルルルルル…
腹減ったなー。
何が追い出されることはないだろう、だ。数時間前の俺を責めたい…
そこで俺はあの約束のことを思い出した。
冗談半分でした約束だったが、まあ、親友なんだし数日ぐらいは泊めてもらえるだろう。
そう思い俺は優太の家に行くことにするのだった。
―――――――――――――――――――
数十分後、そこには当てもなく歩く2人の影があった。二人ともなんだか目が虚ろである。
優太の家に着いた時、俺はどこかで見たことがある光景をもう一度見る羽目になったのだ。
まず、二階にある優太の部屋の窓から、パソコンが降ってきた。
そして、玄関からジャージ姿の幼馴染が飛び出してきた。
そして、決定的なのがその幼馴染の背後で響く扉の施錠音だった。
だめだ、完全に詰んだ…。
手紙に『優太の家族と』って書かれてる時点で気付くべきだった…。
ちなみに二人が引きこもり始めたころから、和人と優太の家族間で引きこもりを働かせるための同盟が組まれていたことは二人の知るところではない。
しばらく、歩いた後、優太が急に立ち止まり、
「よし、俺、今から本気出す!」
とか言い出した。
一瞬吹き出しそうになったが、
「お、おう。そうか。じゃあ、俺も働こうかな~」
仕方なくではあるが、俺も働くかと思い決意を固めた。とりあえず家に帰り、お母んに謝り、せめて自分の財布と着替えだけでも持って来ようとしたとき、
大型トラックが突っ込んできた。
どうやら立ち止まった場所が悪かったようだ。車通りが少ないとはいえ道の真ん中に突っ立っていた。
全然気づかなかった。
しかも運悪いことにトラックの運転手はうとうとしているのか俺たちに気付かないだけでなく車体が左右にふらふらしているように見えた。これでは避けようがない。
ああ、俺の人生ここで終わりか…
そんなことを思考が停止している頭でぼんやりと考えながら横を見ると同じように人生をあきらめたような顔をした幼なじみの姿があった。
そこで俺は少し冷静さを取り戻し、隣の優太を思いっきり蹴とばした。
どうか、優太だけでも無事に……あ、やべ。優太の奴、頭から民家の塀に激突しあがった。しかもぶつかった拍子になんか車道側に頭から倒れてピクリとも動かない。
って、俺の最後の抵抗無意味じゃん!!
そこまで考えたところで俺の視界は視界の真っ白になてしまった。それはトラックの強すぎるライトのせいだったのか、命の危機にとうとう脳が思考を停止してしまったからなのか、それとも俺が想像もつかないような力が働いたせいなのか、今となっては真実はわからない。
ただ、次に視界に色が戻ってきたとき、あたりの景色が、前は草原、後ろは鬱蒼と茂った深い森がどこまでも続く、明らかに俺が住んでいた地域どころか、地球ではありえないような景色に変貌していた。
それだけでも十分俺の頭を再び思考停止状態に陥らせかけたさが、それだけではなかった。
草原のあちこちにぶよぶよした黒っぽいジェル状の物体が跳ね回っている。
擬音語であらわすならぼよんぼよんがいいだろうか。
ってそんなことはどうでもいい。
ラノベやファンタジー小説を読み漁っていた俺の知識が鐘を鳴らしている、目の前のジェル状の物体は間違いなくスライムだ、と。
こんな感じで俺こと夜神 和人は異世界に転送されたのだった。