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chapter7 化身

【今回もタイトルはざっくりしています】

【質問や聞きたいことなどがあればどうぞ】

 黄色いフードの男。察しがいい人ならこの名前を聞いた瞬間すぐに感づいただろうが、私は気づかなかった人たちと同じくあの時はただのフードを被った一個人としか認識はできなかった。

 私は彼といざこざを起こし、仕方がなく彼の教団を一つ相手に潰してしまった。そりゃあ消すか消されるかと言っても間違っていない状況だったのだから仕方がないだろう。

 当然彼は困り怒った。

 だが彼は冷静さを失わなかった、彼は私たちに取引を持ちかけてきた。

 その取引は今でも失われていない。そして今、取引を終わらせる時が来るのだ。

 私…いや、僕は約束の日にできる限り優秀で信用に値するであろう人物を集めた! そして彼らはその謎に触れ気付き挑むはずだ。

 これで望むべき結末が訪れるのならば、取引は達っせられ何にも怯えなくて済む。これまでの日々の話を酒の肴として話すことも出来るのだろう。

 僕は祈る。彼らが上手くやってくれる事を。








「………うん。わかった」

 姉から話された事実は正直受け止め難いものだった。いつも通りだったら。

 でも今は自分が厄介事に巻き込まれているのもハッキリわかるし、姉の必死さを見たら疑えるわけがない。

 姉の厄介事を引き受けるのは昔っから慣れている。だが、不安なのも確かだ。

 自分にまとわりつく闇、姉から伝えてもらった危機…両方なんとかしなくちゃいけないのが良い男の辛いところだな。

「秋君。また何か変なこと考えてるでしょ」

「えっ!? そんなことないよ、うん」

 姉はそっと料理に手を戻す。残された俺は静かに手伝いへ戻る。

 ……さてと、どうしたものか。







「そんな場所がこの屋敷にあったのか。驚きだぜ」

 玲はベッドで休みながら地下通路であったことを話してくれた。

 最初は話すのを渋っていたのは、話したらすぐにでも私が地下通路に飛び込みかねないと思ったからだろう。

 いくら冒険野郎な私でも流石にそんな事はしないんだがな…。心配してくれてるのは正直嬉しいかな。

 隣で聞いていた花音ちゃんも同じようなリアクションをしていた。

「伊高さんは何も言ってませんでしたよね…」

「隠してたって事だな」

「扉ってのも気になりますね」

 気になることが多すぎてまた頭を回しそうになる。

 前言撤回だ、行ってみない事には何もわからないんだぜ。

「だから言うの嫌だったのよ…。そこのバカが騒ぐから」

 花音さんが頷く。そんなに駄目か。

 まぁ今日は待ちに待ったパーティーだからな、無理に気分を害するような事はしないようにするとしよう。

「玲も夜までにはちゃんと休んどくんだぜ?」

「…わかってるわよ」

 花音ちゃんを残して部屋を出る。

 何も目の焦点を合わせず淡々と階段を降りる。そして黙々と通路を通り、倉庫の前へと辿り着く。

 やっぱり考えるよりも私にはこっちの方が似合っている。

「大冒険の始まりだぜ!」







 時間は飛んで午後六時。部屋の前で伊高氏とアレン氏を待っていたのだが一向に出てくる気配がない。

 途中、おぼつかない不自然な目つきをした魔理さんがふらふらと階段を下りていったのだが、この屋敷には本格的な悪霊でも取り付いているのだろうか。お祓いは専門ではないんだがな。

 間取りから考えるとアレン氏の部屋は二階の空き室になるのだろう。中央に渡り廊下がある二階と違い一階からでは何かがあってから駆けつけるまで時間がかかりそうだ…なんて考えながら時間を潰す。

 すると下から時葉さんが急ぎ足で昇ってくる。

 もうそんな時間か。

「伊高様、準備が整いました」

 時葉さんはノックもせずに部屋へ話しかける、すると部屋の中からは伊高氏の返事が返ってくる。

「わかりました。皆様にも伝えてきてください」

「はい。それでは木原様、行きましょう」

「いやちょっとあの」

 そういうと彼女は強引に腕を掴み下へ連れて行こうとする。俺は抵抗できずに引っ張られる形で一階へと運ばれる。

 強引に広間へ押し込まれるとそこには着席している花音・玲さん・魔理さん・ホウさん、そして料理の乗ったお皿を綺麗に並べている時秋君が居た。

「あら? 伊高さんはまだ来ませんの?」

 ホウさんが時葉さんに尋ねる。

「はい、もう少しかかると。先に召し上がるのは駄目です」

 ホウさんは少しバツの悪そうな顔をする。花音の隣に座ると珍しく花音が話しかけてくる。

「仕事の方は順調ですか?」

 あまりにも珍しい事…という訳ではないのだが、この屋敷にきて二人で話したことはほとんどなかったように思える。そのせいで俺は少しきょとんとしてしまう。

「…………。あぁ、悪い。順調だよ、順調。なんたって今夜がパーティーだからな」

 そう今回の以来はパーティーの警備だったはず、となれば今夜が最終夜となる、少々奇妙な事があったように感じるがそれもやっと終わり…待っているのはお休みだ。

 花音がほっと胸をなで下ろすと、目の前に水の入ったコップを時秋君が持ってくる。

「伊高さんの様子はどうでした?」

 時秋君が配膳がてらに話しかけてきた。思えば彼は中々の好青年だ。

「いや、部屋から出てこなくてね…。話すら聞けなかったよ」

「そうですか。まっ、パーティーが終わってからでも良いんじゃないですか?」

 と彼が言い終わると彼は時葉さんから大きめの皿を運ぶように頼まれ、俺の前を去った。

 水を口に運ぶと正面に座っている彼女らの声が耳に良く届いた。

「…え? あんたアソコに行ったの!?」

「……なんもなかったぜ。話に聞いたもん以外はな…」

 魔理さんはすねた子供みたいな表情をした。それを見た玲さんは笑いながら宥める。

「いいじゃないの、何にもなくて。謎の化物にでも襲われるよりはマシでしょ?」

「返り討ちにしてやろうと思ったんだけどな、んー」

 魔理さんが皿の上のチキンに手を伸ばす。その手はチキンに届く前に時秋君に止められ、またバツの悪そうな顔をした。

 そして二人の会話に時秋君も混じる。

「どうです? 調子は」

「あー…ゴメンだぜ。見つからないよ」

 時秋君は一瞬だけ表情を暗くするとすぐに話を繋げる。

「そうですか。まぁいいですよ! 姉にも頼んでみます」

 そう言って彼は二人から離れる。どうやらアッチもアッチで何かがあったらしい。

 まぁせめてパーティーだけは仕事を忘れて楽しもうかな。

「すみません遅れてしまって。それではいただきましょう!」

「パパ!こっちこっち!」

「写真を撮りませんか? 秋君、カメラ持ってきたよね?」

 アレン氏は困り顔でつられて行く。まるでさっきの俺のようだな。

 こうして全員が揃い、ささやかながら綺麗なパーティーが行われた。







 気持ちが悪い…食べて飲んで食べて飲んで…途中はよく覚えていない…。

 確か俺が飲んでいたのはジュースだったはずなのだが、頭がくらくらするのはなぜだろう。

「秋君、言い忘れたけど…それシャンパン…」

 あぁー謎が一つ解けた。後はなんでそれを先に言ってくれなかったのかってところかな。

「ごめんね。食器洗いまで手伝ってもらって、ありがとう」

 手に持っていたリンゴシャンパンの瓶を置いて頭を抑える。時刻は11時、食器を全部運び終えると俺ら二人は厨房にこもって食器を洗うことにした。いや、俺は手伝うことにしただけど。

 料理は大体完食されていて、特に食べていたのが魔理さんだった。アレはすさまじい食べっぷりだったな。

 窓から見える魔理さんと玲さんの部屋はすでに明かりが消えていてる、ぐっすり寝ているのだろう。

「そっちで最後?」

「うん。ありがとうね、もう部屋に戻ってていいよ?」

「いいって…部屋まで送るよ」

 こうして話していると厨房のドアが軽く数回ノックされる。軽く酔ったまま厨房のドアへ近づいて返事を待つ。

 が一向に返事は無く、ノックもなくなっていた。

 不思議に思い、ドアをゆっくりと開けて顔を出す。真っ暗な廊下は気味が悪いな。

 ガッ! と後頭部に鈍い痛みが走る。床に顔が叩きつけられそうになるが、咄嗟に手が出てそれを避ける。

 それで酔が覚めたのかとっさに厨房へと後ずさり視線を上げる。少し離れた場所には何があったかと不安そうな目でこちらを見る姉。

 じんじんと痛む頭を置き去りにして、目の前の闇から姿を見せたのはホウさんだった。手には火かき棒…多分広間にあった暖炉のだろう…ソレを怪しく持っていた。

 彼女は尋常じゃない目つきをしていたが、それよりも全身黒ずんで見えた。

 いや違う、周りに黒い霧のようなものが舞っているのだ。

「え…ホウさん? どうしたんですか?」

 姉が俺らに近寄ってこようとする。

「来るな! 離れて!」

 咄嗟に声が出る。普通じゃない…そんなのはわかっている、多分感じられるのは…殺意かもしれない。

 確証がないのは信じたくないからだ、さっきまで一緒だったのだから、そんな人に殺されかけているのだから。

 小動物みたいにビクッとして離れた姉と同時にホウさんが火かき棒を大きく振り下ろす。

 慌ただしく回避すると床にぶつかった火かき棒が高い音をたてた。

 それを伺ってすぐに背後へ寄り、羽交い絞めにする。

「姉さん、誰か呼んできて!」

「う、うん。わかった!」

 戸惑いながらも姉は厨房を出る。これで彼女が今襲われる心配はなくなったわけだ。

 一息付きながらも羽交い絞めにしている腕の力は緩めない。これなら誰かが来てくれるまで抑えることができるだろう。

 そう思った矢先だった。

 一瞬で黒い霧は濃くなる。そいつは意識を持っているかのように俺へ吹きかけられた。

 訳も分からず視野が奪われる。霧が目に入ったのか前がマトモに見ることができなくなっていた。

「クソッ! 何処だ」

 手を軽く振って相手の位置を探ろうとするが、両腕は虚しく空を切る。

 嫌な予感がよぎる。

 少しずつ晴れてきている視界にはモザイクをかけられたような相手が大きな窓を背景に腕を上げていた。

 反射的に俺は後ろに飛び退く。俺の頭があった位置に火かき棒が勢いよく叩きつけられる。

 無理な体勢で飛び退いたせいで俺は床に背中を強打する。呼吸が瞬間、止まる。

 薄まった意識のなか視界は晴れていく。そこにはとんでもなく凶暴な顔つきをしたホウさんが火かき棒を構えていた。

 厨房から暗闇の廊下へ逃げた俺は自ら背中を打って逃げ道を失っていた。

 再び振り下ろされようとしている獲物を見ながら必死に身をよじり避けようとする。だがその速度はとても避け切れるようなものではなかった。

 火かき棒は俺の左半身に直撃されるコースで振り下ろされ、たしかに直撃をした。

 鈍い痛みが…薄らと広がる。

「…ッ?」

 相手が振り下ろした火かき棒は…黒い影のような物にぶつかり、その影に衝撃は緩和され俺に伝わっていた。

 影は俺の上で奇妙に動いた。それは明らかに俺を狙ったものだった。

 背中の痛みも薄れてきていた俺は影を払いのけると厨房へ飛び込む。それから急いで振り向くと影は俺を追おうと厨房ぎりぎりまで迫っていた。

 迫っていた、そう光が差し込むギリギリまで。だが、そこからは壁があるかのように動けずに外でモヤモヤとしているだけだった。

 そんな影に火かき棒が振り下ろされる。ホウさんであるはずのソレは邪魔をされたと感じたのか、何があったのかはわからないが影へと標的を変えていた。

 影も何かに気づいたように相手をする。

 目の前で繰り広げられているその戦いは奇妙で猟奇的でそれでいて狂ったようだった。

 影がホウさんであろう者に飛びかかろうとした瞬間、廊下から強い光と言葉、そして一発の銃弾が発せられる。

「彷徨うものよ、闇に帰りなさい」

 懐中電灯と共に伊高さんが姿を現す。

「ど真ん中に命中だぜ!」

 そして拳銃を自慢げに構えた魔理さんと、指で耳に栓をした玲さんが現れる。

 影は真ん中に小さな穴を開け、光に触れた瞬間聞いたこともないような短い音を出し闇に消えた。ホウさんはというといつか見たようにパタリと床へ倒れ込んだ。

 手から落ちた火かき棒がカランカランと鳴り、それと同時に緊張と興奮が解けて俺の意識も何処かへととんだ。




 倒れた時秋君へと背中で隠れていた時葉さんが駆け寄る。

 それはそうとやはりこの友人、銃を隠し持っていたのか。

「い…いや、違うんだぜ? これは仕事用のやつで…」

 確かにその銃は支給される物だが、発砲したのは大問題だしコイツの場合弾丸をきっと隠し持っているのに違いない。

 伊高氏がホウさんを抱える、どうやらそちらも意識がないようだ。魔理と二人で時秋君の体を囲み持ち上げる。

「何処へ運びましょうか。聞きたいこともたっぷりあります」

 伊高氏は時秋君の部屋へ運ぶ事を提案する。

「でも一階にあるホウさんの部屋の方が近くないか?」

「それは危険です。その事についてもお話できれば良いのですが」

 先程下った階段を慌ただしく上る。伊高氏から指示を受けた時葉さんがあたりをハンドライトで警戒しながら安全を確認する。

 部屋へたどり着くと二つあるベッドにそれぞれを寝かせる。

「それじゃぁ話を聞かせてもらいます」

「えぇ、希望はありますか?」

 魔理が勝手に備え付けの冷蔵庫から水を取ってくる。

「魔理が撃ったあの幽霊みたいなものの事は?」

「アイツですか…見たのは初めてです。よっと…」

 伊高氏はホウさんと時秋君の間に立つと二人の事をキョロキョロと見始めた。

「玲さん魔理さん、この二人から何か聞いていませんか?」

「例えば?」

「箱…とか、宝石とか」

 そういえば時秋君がそんな事を言っていたような気がする。はっきりとは覚えてないが確かその関係で私はあんなところへ行くハメになったのだ。

「それが関係あるんですか?」

 伊高氏は頷くと二人のポケットを探り始める。そしてホウさんのポケットから目当てのモノを見つけ出したようで慎重に取り出した。

 それは話に聞いていた黒い箱だった。

「これです、これこれ。これがアイツ…闇を彷徨う者の象徴みたいなもんです」

「? オカルトか?」

 伊高氏はまた頷く。箱をテーブルの上に置くと私たちに触れないようにと言い聞かせる。よほど重要なものなのだろう。

「これは『輝く多次元多角形(トラペゾヘドロン)』…とでも言いましょうか。お義父様から送られてきた品物なのです」

 なんて言った? まるで魔法みたいな単語を口にする伊高氏。どうやらアレン氏のモノが送られてきて保存しっぱなしだったとの事。

「私も見るのは初めてです。いいですか? 箱を開けてはいけませんよ」

「中には何があるんだ?」

「中にあるものこそが多次元多角形(トラペゾヘドロン)です。それを目にすると時空を超えた場所を垣間見ることのできると言われる宝玉…とでも説明しましょうか、合ってるかわかりませんが」

 本格的なオカルトだ。時空を超えた場所? それはいわゆる過去や未来とか遠く離れた何処かという意味なのだろうか。

 そしてそれを垣間見ることができる宝石とやらが箱の中に入っているらしい。ということは時秋君の言っていた事から察するに彼は中身を見たのだろう。

「そんな便利なもん、何でみちゃ駄目なんだ?」

 魔理が今にでも箱を取って眺めたい手を抑えながら話す。

「そんなの決まってるじゃない、オカルトよ? 生贄とか…悪霊とか…そんなでしょ?」

 私は当てずっぽうに話す。全然詳しくないしどちらかというとホラーは苦手だ、スプラッタは仕事上許容範囲内だが幽霊とか言われた日には存在を真っ先に疑うタイプなのだ。

「そんなところです。まぁ中を見るとあの影みたいな奴が襲いかかってくるってことです」

 伊高氏はやれやれと言った風に箱を見つめる。コレは相当厄介な品だということがそれだけで伝わってくる。

「でも、銃で撃ったら逃げってったろ? 倒しちまえばいいんじゃないか」

「いえ、穴は空きますが倒れはしないでしょう。ですが万が一のために銃は持っていてくださいね」

 魔理はコクリと頷く。

「じゃあどうすれば? その影の事を詳しくお願いできます?」

 伊高氏は再び険しい表情をして箱を一目すると私たちに視線を戻した」

「知っているかはわかりませんが…アイツは」

「………」

「ニャルラトホテプの化身です」

 やっと終盤というところでしょうか。どうも、卯月木目丸です。

 シェアファンのサンプルシナリオ執筆によって投稿ペースが遅くなるかと思いましたが、何故か早くなってしまいました。

 さて今回でついに本質に入り、悪名高い名前が出てきました。なるべく有名どころに具現してもらいましたので読みやすいとは思います。

 それと次回作になるかもしれないセッションが行われました。New_chapterとかで続くかもしれません。

 長くなりましたが、また次章お会いしましょう…それでは。

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