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chapter6 屋敷

【今回は思いのほか早く執筆できました、お楽しみください】

【サブタイトルは名案が思い浮かばなかったのでざっくりしています】

 誰もいなく蝋燭の明かりだけのこの場所、埃は少し前に綺麗さっぱり取り除かれたはずだったのだが今はまた見る影もないぐらいにうっすらと埃が積もっている。

 ここにある本の半分は…実はとても貴重な魔術書なのだ。これは私の趣味ではなくもともとこの屋敷にあったもの。私が此処を買取りこの書庫の扉を開いた時、本棚の半分近くが空になっていた。

 元々そこにはどんな本が並べられていたのだろうか。今となっては知る余地もない。

 この屋敷と初めて出会ったのは私の趣味からだった。私は…私がまだ独り身だった頃、私は遠くの山中にある廃村へと向かった。あれは私が実業家として踏み出した頃でもある。

 廃村だけに限ったことではないが、実は私は薄気味悪いものに興味を持っていた。今は妻もいるので自重しているが、どうやらお義父さんとは気が合うようだ。時々そんな話を肴に酒を酌み交わす事もある。

 まぁ、そんなお酒は強くないんだけどね。

 あの廃村で、あの井戸の中を見なければ、あの変死体を発見しなければこんな事にはならなかったのだろう。だが、それでは彼女とも出会えなかったはずだ。彼らとも…。

 あれから彼らの話を聞いたことがないな、元気にしているだろうか。

 書庫に新しく入れられたのはお義父さんから送られてきた本、彼も妻に見つけられたくないらしい。

 あぁ、あの話はいつかするべきだろう。








「しっかし…、どこまで続いてるのかしらこの道」

 少し濡れた壁に手を当てながら道を進んでいく。道中、壁にかかっていた燭台を手にとって明かりを確保した。

 ぼんやりとした明かりの中で見えてきたのは何処まで行っても変わらない石レンガの道だった。だが少しずつ壁にヒビが入ってきたり、苔が生えているのが目立つようになってきた。

 角、曲がり角が見えた。

 曲がってみて見えたのは今までの壁ではなく、酷く錆びた鉄格子が並ぶ光景だった。

 鉄格子の扉がプラプラと開いている物があったり、完璧に鍵までかけられているところがある。中には散らばった鎖が暗闇に少しだけ見えていた。

 それを見て私は嫌な想像をする。

「ぅ……、何よ此処。なんでこんな場所あるのよ…」

 並ぶ鉄格子、しかしその間に一つだけ重厚な鉄扉に閉ざされ、中を見ることも叶わないほどの違和感を発する場所を見つける。

 ドアノブに手をかけようとして、明かりに照らされたドアノブを見てしまった。

 ノブを気持ち悪いほど艶やかに照らしていたのは金属ではなく黒く粘りついたヘドロ…だろうか…それはドアノブから少しずつ床へ滴れ、床に黒い水たまりを作っていた。

 反射的に手を引いて背中を石レンガに叩きつけ、手に持っていた燭台を落としてしまう。その拍子に蝋燭の火は消え、あたりが再び暗闇に戻る。

 微かな明かりが鉄扉の隙間から漏れる。

 そしてその光が黒い水たまりを照らす。それを目で追うと今まで自分が通ってきた道を辿っていたことに気づく。

 ドアノブにまとわりついていたそれは鍵穴にまで入り込んで、詰め込まれたその粘液は見るに耐えないものだった。

 私は急いで先へ走る。すぐに見える曲がり角、そんなものは気にしない。

 走る、逃げる、逃げる、逃げる。息をすることを忘れる…という表現そのままに走り抜ける。

 自分の靴音があたりに反響する。いくつもの足音が聞こえる、私のものじゃないものまで聞こえてしまっている気になってくる。何に追いかけられているんだろう、私。

 階段が見え、全力で駆け上る。そのそばには梯子、そして木で出来た蓋のような扉。出口だ。

 梯子に手をかけ立ち止まる。少し手が震えている。

 深呼吸して、今一度通ってきた道を見てみる。それはただの闇だった、何も見えない闇。

 そして私はここからの脱出のために梯子を登り始めた。






「じゃあ、この本は何の本なんですか?」

「これはね…、海外の妖怪みたいなののお話ね」

「お話ですかー?面白そうですね」

 彼女は仕事真面目なお姉さんだが、どうやら甘えっぽいところがあるらしい。

 そして私も話し方がお医者様みたいだと言われ少し機嫌が良かったので、そこらにあった本を訳して読んでみていた。

 読み聞かせながら目を通してみると案外興味深いものもあったりする。

「………で、この潜水艦は沈んじゃった訳」

「? でも潜水艦て沈んでる物じゃないんですか?」

 気づけば一冊の内容まるっと話しそうになっていた。楽しい空気というのは怖い。

「そのあと、その人はどうなったんですか?」

「えっとね………、その直後に背中にあった井戸の蓋がゴトゴトと…」

 ゴドゴドゴドッ!と音を立てて…私の居た席の隣にあった机が揺れ始めた。

 驚いた私たち二人はすぐに席から離れてその揺れている場所を見つめた。

 机は壁にくっついているもので、揺れているのはその下の床のようだった。そしてちょっとするとそれはただ揺れているのではなくて下から叩かれたり何なり押されているのだと気づいた。

「どどどどどどうしましょう!お話にあった地底人とかだったら」

 時葉さんは仕事の時とは似つかず動揺している。私だって動揺したいがここで二人共怯え竦んだら後で伯父に笑われる、それは嫌だ。

 とにかく揺れの正体をと思った私は引け腰で床に手を付ける。その床は蓋のようになっていて、ボロボロになって出来た隙間からは少しだけその下のものが見えた。

 蓋は椅子に踏まれ開かないらしく、上の椅子を退かしてやると下の何者かが勢いよく殴りつけるのと同時に天井へ勢いよくぶつかった。

 さて、これからだ。

「…気をつけてください、例の不審者かもしれません」

 時葉さんに警戒を促し床に付けられた手を取り、覗き込む。

「あー…、もっと引っ張ってくれない?」

 そこに居たのは梯子に足をかけている玲さんだった。床に手をかけるのが限界らしく、下に見える足がぷるぷると震えていた。

 なぜそんなところにいるのかは兎も角、時葉さんを呼んで二人がかりで引き上げる。

 はしごの先も興味深いが、玲さんの靴や服装がいたるところ不自然に濡れている。地下に水が溜まっているのはあんまりおかしいことではない…不自然なのはその濡れている靴底にほんのちょっぴりだけ青黒いものがへばりついている事だ。

「助かった…助かったわ、ありがとう。本当に…」

 どうやら少し動揺しているらしい。玲さんは頭を抑えて小さな唸り声をあげる。

「大丈夫ですか?どうぞ」

 時葉さんは気を利かせて紅茶をコップへ注ぐ、それを玲さんはすぐに口へ運び落ち着きを取り戻しそうとする。

 どうやら地下を走ってきたらしく息が上がっているのも見て取れた。心と体の両面で疲労しているらしい、服も濡れてしまっている。

「一度…一度、玲さんの部屋に戻りましょう。立てます?」

「ちょっと…無理そうかな。部屋までじゃなくて広間ぐらいまでなら…頼める?」

 時葉さんと両脇を抑えて立ち上がる。ひどく疲れているようだったが重みは感じず、これならなるべく負担をかけずに休ませてあげられそうだと思う。

 そして広間についたら、何があったのかを聞こう。







「だ、誰もいない!」

 広間に入った私は唖然とした。さっきまで皆いたのに、今ここにはその誰一人もいないのだ。

 もしも玲が落ちた先で鉄球が転がってきたり針山の落とし穴があったりしたらアイツの命にかかわってしまう、一刻も早く助けを呼ばなくては。

 大親友のトラブルで異常にテンパっていた私はすぐさま広間を飛び出して玄関ホールに出る。当然そこにも誰一人としていない。

 その時、玄関の方から音が聞こえた。そしてすぐに玄関の扉が開く。

 そこにいたのは少々太ったダンディな外国人だった。

「この際誰でも構わない!手を貸してくれないか、友人がピンチなんだ!」

「?」

 そうだ、確か最後にここを訪れる客人は…セーシルさんのパパだったはず。当然面識はない、そして今のリアクションからするに日本語が通じていない。

 英語なんて必要最低限だけこなしてすぐに忘れてしまった私にとってはもう欠片も使えないもの、だがそんな私も友人のために無い脳みそを絞って出さなければいけないのだ。

「あ……あの…」

「?」

「ヘルプミー!」

 炸裂した…、言葉と私が…。首をかしげている…。

 もはや打つ手無し。がっくりと膝から崩れてふかふかの赤い絨毯に顔面を埋める。さらば玲、恨まないでくれ…。

「どうしました? そんなところで…あぁ!いらっしゃっていたんですね」

 後ろから声がする。伊高さんが部屋から戻ってきたのだ。その後ろにはいつの間にかいなくなっていた時秋君と木原さんも居た。

 伊高さんが慣れた英語で対応する。そして私は後ろにいた二人に話しかける。

「急なところすまないんだが、手を貸して欲しんだぜ」

「? どうしたんです?」

「玲が…」

「すみません、お出迎えできず。皆様お集まりになってどうしたんですか?」

 横から槍のように話を折られる。少しだけ憤慨して声のした方に目をやるとそこには時葉さんと花音ちゃん、そして支えられながら歩く玲の姿があった。よく見るとその後ろにホウさんも居る。

 ……なんで玲がそっちにいるんだ。私の焦りはなんだったんだ。 そんな目線を玲に送る。

 すぐさま玲からそっちがただテンパッてただけでしょと視線が帰ってくる。

「あの…ひとまず私たちは広間に…」

 花音ちゃんが玲を支えながらゆっくりと広間に向かう。時葉さんに変わって私がもう片方の肩を持っていく。後ろが少しだけ見えたが、わけもわからずぽかんとしている時秋君と木原さんが見えた、迷惑をかけてしまったようだ。

 隣に着くと玲が「平気平気、大丈夫よ」と語りかけてくる。どうせ強がりだとわかっているからいそいそと手前の椅子に座らせる。

 他人目から見ても明らかに玲は疲れているようだった。

「なぁ、何があったんだぜ?」

 どうも気になって何があったかを聞いてみる。

 玲の口から出たのはこの屋敷の隠された地下通路の話だった、地下牢があったり閉ざされた部屋があったりと中々ホラーな体験をしたようだった。それならこんなにぐったりしているのも頷ける、今日はゆっくり寝かしてやりたいな。

「そんなことが…この屋敷にそんな地下室があったなんて」

 一緒に聞いていた花音ちゃんもおんなじことを考えているようだ。

 そして玲は狂気が覚めたようにぼぅっと天井を眺めている。さっさとベッドに運んでやるべきだろう、そう花音ちゃんに提案する。

 彼女も疲れているのはわかっている。だから自分ひとりで連れて行くと言うと彼女は不安そうな顔をした。

「いいわ、魔理なら多分大丈夫。心配しないで…魔理、ごめんね」

「何言ってんだ、私がやるって言ったんだから心配しなくていいんだぜ?」

 花音ちゃんを背に玲をおぶって広間を出る。入れ違いになったホウさんに一言挨拶を交わし合い階段へ向かう。時秋さんが協力を申し出ようとしたが友情を察して引いてくれた。

 良くわかってるけど、ちょっと恥ずかしいな…こういうの。






「何があったんだ? 俺らがいないうちに…」

「わかりませんが、客人はこれで揃ったらしいですね」

 時秋と一緒に玄関ホールで立ち尽くす。広間に入るでもなく、ただつっ立っている。

「伊高さん、そちらは?」

「紹介します。彼はセーシルさんの父親、アレンさんです」

 コミュニケーションが取れないのは辛いが彼もまた仕事の相手になる。右手で握手を求めると何を喋ったかはわからなかったが温厚に返してくれた。

 どうやら落ち着いた正確らしい、伊高氏が取引または協力している会社のお偉いさんということは頭も働くに違いない。後で聞きたいこともある、花音を呼ぶとしよう。

「それでは私とアレンさんは個人的なお話があるので。また後ほど」

 二人が階段に足をかける。その背中に向かって話しかける。

「それなら、最後に一つ聞きたいのですが」

「なんでしょう」

「伊高氏のささやかなパーティーのことですが、客人が揃ったということは」

 何かを思い出したように伊高さんは時葉さんを呼んで話を続けた。

「すみませんね、お待たせして。今日にでも行いたいと思います。時葉さん、準備を」

「そうですか。それで、そのことなのですか…」

「なんでしょう」

 伊高さんは少し怪訝な表情をする。だが、どうしても気になることがあったのだ。

「アレン氏やホウさんはわかるのですが、他の招待客が気になるのです。警察官に従者の親族…伊高氏ほどの立場ならもっとしかるべき客を呼ぶのではと」

 伊高さんは怪しげな笑みのまま階段に立つ。アレンさんは不思議そうな表情をしたまま踊り場の壁に寄りかかっていた。

 時葉さんは厨房に駆け込み、時秋君は自分と共に伊高さんへと視界を向けているようだった。

「不思議…ですか」

「はい」

 伊高さんの表情から怪しさがふっと消えた。そしていつも通りの笑顔に戻ったように見えた。

「…僕には…これぐらいが良いんですよ…。なんてたって、こんな所ですからね…」

 そう言うと伊高さんは踊り場で待っていたアレンさんを連れて二階へと行ってしまった。

 こんな所? ここは彼の家でもあるお屋敷なのではないのか?

 もしかして先程横目で見た玲さんの事と何か関係があるのか? 何はともあれこの屋敷には自分のよく知らない謎らしきものがあるのは確かなようだった。

「木原さん。僕は準備を手伝ってきます」

 時秋君がそういって厨房へ向かう。しかしその途中、彼は立ち止まって背中で話す。

「記者として、手伝える事があったら言ってください」

 そして間を開けて彼は呟いた。

「僕らはもう厄介事に巻き込まれているようですから」

 振り返ると彼はもう厨房に向かっていてそこにはいなかった。

 俺は一人、階段の下に立ち尽くしていた。






 言うなと言われた事、それは絶対。

 私がこの屋敷に勤めてからそんなにたってはいない。そして勤めにきた当日にあの温厚そうな伊高氏が私にこう言った。

「この屋敷についていくつかの注意があります」

 屋敷に勤めるのは初めてではなく、そんな事を言われるのも初めてではなかった。

 でも受け入れにくかったのはその内容だった。

 一つ、書庫には鍵をかけたままにしておいてください。

 二つ、夜に見回りを行う時、書庫以外に入る影を見た場合速やかに報告してください。

 三つ、先程言った怪しい人影を見ても近づいてはいけません。

 ここまではよかった。人影だとかなんとかは気にしないことに決めていたし、何度か見かけた際もちゃんと言われた通りにした。

 四つ、マスターキー…鍵束を渡します。ですが、この鍵については誰にも明かさないでください。

 明かさないで? どういう事ですか。そう私は伊高氏に聞いた。

「見せてあげましょう。今後も幾つかあなたにお願いしたいことができるかもしれません。その時は頼みましたよ」

 そう言われて私は伊高氏と共にあの書庫に入り、あの隠し戸…あれも確か喋ってはいけないと言われていた…から地下に降りた。

 そこに広がっていた不気味な風景は忘れたことがない。だが、あそこにはもっとドス黒いものがあると伊高氏は言っていた。

 あの時見れなかったもの、それが全ての原因なのだろう。でも私は話せない。

「姉ちゃん、何か手伝える事ある?」

 でも、それでも。昔から押しが弱くて気弱だった私を何度も助けてくれた時秋なら、きっとコレの終わりにまでたどり着ける。

「うん。じゃあ一つお願いしようかな」

 私はそう信じて、初めて人を裏切る。

 この度『シェアファン』というファンタジー系(ソードワールドみたいな感じと思ってもらえれば)TRPG制作のボランティアアシスタントとなりました。

その為に次章投稿が遅れてしまうのではないかと思い、早めに投稿させてもらいました。

 それに従いツイッターなるものを初めてみました『卯月 木目丸』で出ると思います。

 読んでいただいた皆様に『クトゥルフ』と『シェアファン』に興味を持って頂ければ幸いです。まだ完結していませんが。

 それではまた次章にお会いいたしましょう。

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