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chapter4 箱と霧

 ヒーローになりたいと思う人はたくさんいる。でも、それの大半は日常を必死に生きているヒーローとは程遠い人々だ。だからそう思っているのだろう。

 そんな人がもし理想に近づける機会を手に入れたとしよう。

 努力するだろう、日常と同じように必死に。その姿は見てて応援したくなる。初めてのチャンスで頑張る姿は本当に健気なものだ。

 だがそれも大きな力の前では無力に近い。

 そして人は悟るのだ、経験や知識によって。自分のその経験が始まった瞬間の気持ちを忘れ、能力やルールの穴を探したり、人の粗を見つけようとする。

 敵を見誤っているのだ。

 それは、果たして人が求めていたヒーローなのだろうか?









「で、お前は書庫に入れてもらったと…」

 私は言われたとおりのいきさつを話した。

 読書用の本を忘れた私は書庫のことを伊高氏から聞き、鍵まで貸してもらいそのまま中に入った。そこで空前であった時秋さんと一緒に入り本を借りた。鍵をかけたのは夜に作業をしていた時葉さんだと伝えた。

 話はうまくできていて、伊高氏と時葉さんも了解してくれた。何故言わなかったのかと聞かれたがハッキリとした理由がないとしか言えなかった。

「面白そうな本でもあったか?二・三冊ぐらいなくなってた用だが」

「まだあまり読んでませんが、不思議な本でした。半分も理解できませんでしたが」

 本の内容は丸々英語で一ページにびっしりと収めれるだけの文字が詰め込まれていた。読めないことはなかったので読んでみると宇宙人だとか肺が破裂する程の高さまで人を持ち上げる化物とかが現れて、興味がなければ絶対に開かない本だろうとは理解した。

「読んでみますか?」

 そう言って本を勧めると、いつも決まって伯父はこう返すのだ。

「いいや、遠慮させてもらおうかな」

 そう決まり文句を付けると、一言付け足す。

「英語なんて久しぶりに見たからな」

 私より年上なのだから、もっとしっかりしてほしいものだ。探偵なのに面倒臭がりというのは即刻治すべきことだろうに。

 今は、晩餐も終わり各々自分に割り当てられた部屋に戻った後。現在、午後八時だ。肝心の誕生日は二日後らしくその日までにもうひとりの客人が来るらしい。

「じゃあ、今日は大人しくしていろ。俺はちょっと行くところがある」

「何処へ?」

「お前と一緒に入った時秋さんの部屋にだ、聞くだけだけどな…」

 部屋の扉が閉まる。伯父が部屋から出ていったのだ。しばらくこの部屋も静かになるだろう。

 明かりをつけて窓を塞いでいたカーテンを開く、昨日と変わらず薄暗くも淡く光る庭園が見える。窓の外が見えるベッドの上に座り本を開く。

 興味はなくとも、読めるものは読む。それだけだ。







「じゃあ、花音の言った事は正しいわけか。まぁ意味の無い嘘をつく娘じゃないからな」

 部屋には訪ねてきた木原、俺が呼んだ屋敷の主人である伊高氏、そして自分…卯月 時秋がいる。ここにいる中では一番話が通りそうな男たちだ。性別で差別しているわけではないが女性が怪我をするところを見るのは嫌なものだ。

「それで相談したいことというのは?木原さんにも言っていないのでしょう」

「えぇ…。書庫をなんとか出た時に見た人影の話なんですが」

「ホウさんではないのですか、その人影というのは」

「本人に聞いたのですが、どうやら違うようです」

 三人は互いに首をかしげる。

 その人影を見てから追い掛け回した事までを話すと、三人全員が適当に人の名前を揚げ始めた。

「お二人は二回に居たんですよね?」

「えぇ、伊高氏は自室に奥さんと。私は一階に降りるときに花音と会いました」

「じゃあ残っているのは時葉さんですかね」

「姉なら逃げるような事はしないですよ。絶対途中で腰抜かします」

 誰もいない…。そもそも追いつけないぐらい足が速かったぞ、あの人影は。女性ではないことはまず間違いないのだが、それ以外に男性はいない。

 何としても姉を傷つけるわけにはいかない。何としてもだ。

「では不審者…。でしょうか」

 消去法だが今までの話の中では一番信憑性がある、可能性は酷く低いだろうが。

 そんな不審者がいるとすればすぐにでも誰かに見つけられてしまっていることだろう、しかしまだ一回だけしか見つかっていないとすれば不審者はずっとどこかに隠れているというのが妥当だろう。

「この屋敷で隠れられそうな部屋はありますか?」

「えぇ、一回には骨董品などが収められた部屋があります。二階には現在使われていない息子達の部屋と物置部屋が、隠れるとしたらそのどこかしか」

 木原は椅子から立ち上がると背後に置いていたバックの中身をかき回し始めた。

「行きますか?」

「はい。できれば着いて来てもらいたい」

 伊高氏と俺は断る理由もなく賛同すると、必要そうな物を手に取り部屋を出た。ここは二階、一番近いのは伊高氏の息子達の部屋だ、少し早い足取りで向かい合い鍵を使い中に入る。

 まずは息子、伊高 大輔の部屋。

 ベッド・デスク・棚。棚には綺麗に並べられた有名なロボットアニメのプラモデルが飾られてある。机の下やベッドの隙間なども確認したが誰一人潜んでいなかった。

 次、娘の伊高 結城の部屋。

 と、部屋に入る前に伊高氏が軽い忠告。

「結城はちょっと特殊な趣味を持ってまして、気にしないでください」

 その忠告の意味を俺らはすぐに理解する。そこらじゅうが本棚で真ん中にハンモックが揺れている。

 ぎっしりと詰め込まれている本は書庫と比べると新しく大半がオカルト関連でまとめられている。

 そこらじゅうが本棚のせいか、探せる場所は少ない。

「あれは?」

 木原が天井を指差す、そこにはちっちゃな入り口が蓋をされていた。

 伊高氏が思い出したように説明をする。

「屋根裏への入り口だった気がします。ずっと前子供達が二人で壊したんですよ、懐かしいなぁ」

「屋根裏ですか。十分ありえますね」

 本棚を上手く使えば屋根裏には行けそうだ。掃除がこまめにされているので埃は積もっていない、行ってみるしかないか。

 だが物置や倉庫も気になる。どれも五分と言ったところか。

 時計に目をやるとあれから三十分。あまり夜に行動するのは避けたい、不審者が行動しているとすればよるだろう。うっかり遭遇してしまったらどうなるか見当もつかない。

「ここは三人でバラバラに見ませんか?」

 俺の提案に伊高氏はすぐに賛成する。深く考えていないようだ。

「そうだな…。女性陣を残して探すのも危険か」

 木原も自分で考えをまとめて三人バラバラで見ることになった。

 俺は一階の倉庫、伊高氏は隣の物置、木原は屋根裏をある程度見回す事になった。

 時間をかけないために急いで倉庫へ走り、伊高氏から貸してもらった鍵を使い中へ入る。

 中には古そうな甲冑が数騎並んでいて他には大きな木箱が積まれているだけだった。どこにも窓はなくドアに鍵をかけてしまえば密室になりそうだ。

 甲冑の持つ剣はどうやら本物らしく重い、これをまとえば大抵の衝撃なら大丈夫そうだ…絶対着ないけどな。

「どうすっかな、これ」

 残った木箱で手近にある木箱に近づく。中々大きく大人でも入り込めるだろう、木箱の蓋をずらすと中には梱包材が詰まっていた。

 ところで唐突なんだが、こういうのって実際にやってみると興味ってものが出ると思う。骨董品とか一度ハマると二度と出れない物だと思う。

 悪気があったわけじゃない。ただなんとなく梱包材を箱から出して中にあったものを取り出してみた。

 黒光りする…二十面体ぐらいの鉱石、いや金属で出来た箱だろうか。高そうだ、これ一つの為に木箱が埋まっていたのだから相当なものなのだろう。

「………カッカッカッ……」

「………ッ!?」

 何かの音。いや、声だ。

 何処からか静かな声が聞こえる。廊下からは何かを引き吊る用な音も聞こえ始めた。近づいているのか、それよりもついに不審者が現れたのか。

 混乱しながらも静かにドアを閉める。鍵をかけるのを忘れ閉じたドアの鍵穴に目をくっつけて息を潜める。

 廊下の明かりが鍵穴から自分の目に差し込む。左手はドアに押し付け、右手は先ほどの箱を握りしめていた。

 音が近づいて、焦りは強くなる。何故だ、不審者なら殴ってでも黙らせてお縄にすればいいはずなのに、戦ってはいけないことをなぜか知っている。

 俺は相手の姿を知っていた。

 その影は俺のいる倉庫に入ってくることも知っていた。

 いや、正確には見たんだ。

 箱の中のその景色を、俺の姿とそこにいる人影の正体を。

 箱はその人影がここに向かって来ている事を写し、ドアに鍵をかけても破ってくることを俺に知らせた。

 急いで箱と共に梱包材の抜けた木箱の中に座り込むと蓋を閉めた。と同時にドアが静かに開いた音が静かな倉庫に響いた。

 木箱の隙間からは影が動いているのを確認できた。その影は庭園側の壁に向かって棒立ちすると、ゆっくりと体から黒い霧を床の中へと下ろし崩れ落ちた。

 無事だと悟った俺は木箱から出ると倒れている彼女へと歩み寄った。

「どうしてここに…、何故」

 気を失った彼女をおぶり、よたよたと部屋を出る。

 謎は残るが、箱を持ち出すわけにはいかない。最後にその中身の景色を見て木箱の中に戻した。

 明かり、明かりだ。唐突なイメージ、明るい部屋とその中にいる俺。

 なにもかもが食い合わさらない、一体何が起こっているのか。木箱の蓋を閉じて倉庫から同じ階にある彼女の部屋へと向かう。

「しかし、何故ここに…ホウ・レイさんが…」

 背中で気を失っている彼女を見ながら謎は深まっていった。






「懐かしいな」

 その頃伊高氏は物置の中を見回していた。そこらじゅうにある思い出の品を眺めながら不審者が隠れれる隙間や空間がないことを確認すると結城の部屋に戻り、屋根裏を探索している木原に話しかける。

「どうです?何かありましたか」

 屋根裏は広く中に入るとあまり自由に動けない構造になっている為、中に入らず懐中電灯で様子を見るだけだったが埃が積もっていたりで人の気配はまったくないようだと木原は判断した。

「何も。時秋さんは?」

「いえまだ来てませんね。あそこは色々な物がありますから」

 二人は伊高氏の部屋に戻りゆっくりと話をする事に決めた。

「一応聞いておきますが、明日くる客人というのは?」

「セーシルの父…私の上司にあたる人です。言っておきますが日本語はある程度しか」

 木原は悩んだ様子もなくメモ帳に書き込む。

 部屋はここを使うということ。その間伊高氏は仕事場である書斎に用意されている場所で眠ることを知らされた。

「それでは、また明日もよろしくお願いします」

 二人は別れ、伊高氏はそのままベッドへ、木原も一階の部屋へと戻った。






「よいしょ。これでいいだろ…」

 ホウを部屋のベッドに寝かせる。話は明日にでも聞くとしよう。

 部屋から廊下に出ようとすると、廊下の明かりは消えていて月明かりが窓ごとに差し込んでいるだけだった。

 さっきのイメージが気になる。明かりだ、暗いといえば暗いが月明かりのおかげで先が見えない程でもない。が、用心に越したことはないので懐中電灯を手に取り、部屋の明かりを消す。

 ホウの部屋を閉めた瞬間、その暗闇の隙間に何か不気味な物を見た気がした。

 急いで月光差し込む窓によりかかり懐中電灯を付けあたりを忙しなく照らす。辺りには気配だけで誰もいない。

 そこへ足跡が近づく。焦りつつもそちら側にある窓へ移り曲がり角から出てきた影に懐中電灯を向ける。

「お、おい。俺だ俺」

 その影は木原だった。木原も明かりを消しているが懐中電灯を持っていた。

「どうしたんだ。伊高さんはもう寝たぞ、二階にはいない」

「そうですか、一階はクロかもしれません。誰かいます」

 その言葉を聞いて木原も明かりを付けあたりを見回す。その間にホウ・レイの事を話す。

 木原は驚いた様子を隠せず、曲がり角に布陣した二人は話を続ける。

 勿論あの不思議な箱の事は話さなかった。アレは危険だが、魅惑がある。

 俺はあの中身を見た、確証はないがあれはきっと未来だったのだろう。あの箱はきっと何かに絡んでいる。

 そしてもう一つ話していない事がある、ホウにまとわりついていた謎の霧の事だ。あれは俺もわからない。

「それで、どんな奴がいたのか見たのか?」

「いいえ、見てません…」

 相手からは一向に近づいてくる様子がない。それどころか遠くからぼぉっと見ているような気がする。

 しかし何処に懐中電灯を向けても人どころか影もうつらない。

 どうすればいい…。動くなと何かが告げるまま、二人はそこで立ち尽くしているしかなかった。

「お前、腕に自信は?」

 木原が尋ねる。彼はおおよそ二手に分かれて部屋に篭る事を提案するつもりだろう。

「自信はあります。でも、相手がわからない」

「じゃあお前の部屋まで行こう、俺は…まぁなんとかする」

 好都合だ。彼と一緒ならどこかで気の立った不審者に襲いかかられても撃退することなら容易い、その案にのり階段の方へゆっくりと進んでいく。

 丁度階段を上り二階へたどり着いた時だった。

 何者かはぴったりと追いかけてきており、姿を見せずに何処かでこちらを見ているようだった。

 そいつは決して明かりには入ってこようとはしなかった。

 そして二階の階段から出た先は三方向に分かれている、庭園の上を通る道が増える為、一本道が増えるのだ。

 急いでそちらへ行こうと明かりを向け、一方が暗闇に包まれた。

 そんな短い一瞬でその気配は俺の背後まで詰め寄り、首筋に重くそしてほんのりと湿った太い縄のようなものを巻き付けようとした。

 予想外の力を持ったそれは俺の肩を押す。

「ッ!?」

 何もない。

 いや、軽い。一瞬前の感覚は消えた。

 それどころか廊下は明るかった。電灯のスイッチが付き、先程までの暗闇を余すところなく照らしていた。

「こ、これは?」

「どうやら誰かが二階の明かりを付けたようだな。懐中電灯はもういらん」

 木原は先程の気配に気づいていなかったのか、何事もなかったように懐中電灯の明かりを切った。

 どうやら、助かったらしい。






「あー、暇なんだぜ」

「…………」

 横で眠っている玲の顔を見る、ぐっすりだ、これじゃ話し相手にもなってくれないだろうな。

 喉が乾いた。そういうことにして部屋を出てなにかしに行こう、じゃないと身がもたない。

 静かにドアを開ける、部屋の外は暗がりに慣れていない目には真っ暗だ。月明かりも薄らとしか見えていない。

「キッチンは、一階だったな!よし」

 真っ暗の廊下をよたよたと進む。近かった端の通路を進んでいると何か足音が聞こえてくる、興味津々な私は小走りで足音が聞こえてきた階段へと近づき、ギリギリ見える曲がり角に背を当てた。

 明かり、ライトが二つ、逆光で何も見えない。影は三つ…二つかもしれないが階段を上がってきている。

 よく見えない、いらいらするのは嫌だ。少し慣れてきていた目も逆光のせいでクラクラする。壁を撫でながら廊下の明かりのスイッチを探す。そこで私の薄く閉じた目はそれらしきものを捉え、勢いよく押した。

 二階は急に明るくなり、急いで階段へと目をやる。

「木原さんに、弟君? 何やってんだぜ?」

 二人はやけに素早く私を見ると一瞬身構えた。すぐに姿勢を解くと木原さんが近寄ってくる。

「明かりをつけたのは、魔理さんで?」

 肯定する。正直は良いことだからな。

「気をつけてください、一階…近くに不審者がいるかもしれません。あと、明かりは私が消しますから」

「わかったんだぜ。おやすみだ」

 不審者は一階、キッチンに行ってココアでも飲もうかと思ったがやめよう。危ないからではなく、準備をしなくちゃいけないから。

 二人が何処かへ行って、一人森が怪しく見える廊下で呟く。

「楽しくなるかもしれないな。玲には悪いけど」

 そう言って私は部屋へ戻るため進む。腰に下げた物にずっと手を当てながら。

【それぞれの主な所持品】

【羽呉 玲『手錠・手袋・携帯電話・サングラス・メモとペン・ノートPC』】

   休日セットということであんまり特徴のあるものは持たせませんでした。

【霧斗 魔理『防刃チョッキ・S&W M3913と弾薬・携帯電話』】

   服やバッグなどは記載しません、ペットボトルとか補完できちゃう物も。

【木原 広『救急セット・携帯電話・十特ナイフ・工具・酒瓶』】

   この話で出た懐中電灯や雑誌は屋敷が用意した物です。

【通 花音『医療系の本・携帯電話・メモ帳・化粧品・救急セット』】

   今回紹介するのは主人公としている六人のみです。

【卯月 時秋『年代モノのカメラ・新しいカメラ・ノートPC・スタンガン』】

   今回も読んでいいただければありがたいです、お楽しみいただけたでしょうか?

【卯月 時葉『メイド服・携帯電話』】

   それでは貴方が楽しいTRPGライフを送れることをお祈りしています。

   ルールやモラルを守って楽しくプレイしましょう。

   次章でまた、お会いしましょう。

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