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【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~  作者: 水樹ゆう
第一章◆脱  出 《Escape》
7/37

06

「御堂ってば、齢十八にしてファッションに目覚めた?

 って、アレがおしゃれとは思えないし、コスプレ趣味はなかったはずだし、まさか高三のこの時期になって不良化? って、それよりもありそうなのは女にでも振られたショック? あのルックスだから、けっこうモテるけど、すぐ本性がバレて振られるんだよねー。って、それはいつもの事だから耐性があるか」

「うん、そうだね……」

「うん、そだねって、優花、そんな身もふたもない。愛しの幼なじみ君なんだから、せめてあんたくらい庇ってあげなきゃ気の毒じゃない」

「うん……って、ええっ!?」

 玲子の弾丸トークに反射的に相槌をうったら、とんでもないセリフが返ってきて、優花はギョッとする。

『イトシイ』なんて恥ずかしい単語を、さらりと言ってのけるのが『玲子ちゃん』クオリティ。

 ――だけど、リアルで聞くと、恥ずかしいどろじゃない、

 こっ恥ずかしいっ!

「べ、別にそんなんじゃないわよっ! 晃ちゃんは、ただの幼なじみ、腐れ縁だっていっつも言ってるじゃない!」

 しどろもどろに抵抗を試みる優花に、玲子は『はいはい』と苦笑を浮かべる。

「う~ん、やっぱり本人に聞くのが一番か。あ、きたきた、御堂くん!」

 晃一郎が教室に入ってきた瞬間、クラス中の視線が集まったけど、それは仕方がない。

 なにせあの頭だ。

「こっち、こっちー」

 玲子に手招きされて歩み寄ってきた晃一郎は、さぞかし山崎先生に絞られてヘコんでいるかと思いきや、そんなこともなく、サバサバとした表情で玲子のの質問攻撃を、『うん』とか『まあ』とか、適当すぎる返事でかわしている。

「それにしても、意外とあっさり解放してくれたね、仁王様。たっぷり絞られてくるかと思ったのに」

「まあ、日頃の行いが良いから、俺。『スミマセン、ほんの出来心です、月曜には元に戻しますー』、っつって、放免完了」

 皮肉交じりの玲子のセリフに対しても悪びれるふうもなく、いたずら盛りの少年のように、得意気にニカっと笑って言うその表情をみやり、優花は思わずため息を吐く。

 なんだか、それって、ものすごく。

「情けない……」

 玲子が優花の心を読んだみたいに、あきれたように呟いた。

「そんなにあっさり元に戻すくらいなら、最初から休みの日に染めればいいのに、御堂にしては要領が悪すぎない?」

 そうそう、私もそう思うよ。

 優花も、うんうん頷く。

 ごもっともな玲子の意見に、晃一郎は、

「まあ、俺にも色々事情というものがありまして。今日じゃないと駄目だったんだな、これが」と、少し困ったように鼻の頭をポリポリかいた。

 ――あれ?

 何気ないその仕草が、なぜか妙に引っかかった。

 前にも、こんなやり取りをした事が……、ある気がする。

 でも、いくら考えても、思い出せない。

「今日じゃないとダメ、ってどうして?」

 玲子の、シンプルかつストレートな質問にハッと我に返った優花が晃一郎の顔を見上げたら、視線がばっちりかちあった。

 うっ。

 こ、これよ、これ。

 家から学校までのさほど長くもない三十分の道のりで何度もあった、ふと気づくと、視線がかち合いドキッとするこのパターン。

 決まってその視線は真っ直ぐで、物言いたげで――。

 な、なんだろう?

 私、晃ちゃんに何かしただろうか?

 考えても、答えは出ることもなく。

「まあ、色々とね……」

 と言葉を濁して、晃一郎も、はっきりと答えてはくれない。

 晃一郎の挙動の不審さも去ることながら、胸の奥でモヤモヤっとした物がわだかまっていて、優花の心はすっきりとしなかった。

 たとえるなら、その答えを確実に知っているはずなのに思い出せない、『ど忘れ』のように。

 何か大切なことを忘れてしまっているような、見落としているような気がして、気持ち悪いことこの上ない。

 ――晃ちゃんなら、何か答えを知っている?

 脈絡もなく、そんな思いに駆られた。

 でも、質問しようにも、どう言葉にして良いのか分からない。

 それは、あくまで、漠然としたものでしかないのだ。

 ――ううっ。

 気持ち悪いったら、ないなぁ……。

 優花は、軽く眉間にシワを寄せながら、答えを求めるように、クラスメイトと髪色の変化について楽しげに会話する晃一郎の横顔を見上げた。

 その時。

 穏やかだった晃一郎の表情が、一瞬にしてガラリと険しいものに変わった。

 急に黙り込んだと思ったら、教壇がある方の、教室の出入り口のドア、そこに、まるで睨みつけるような鋭い視線を投げつけている。

 ――何?

 ドキン、と、鼓動が大きく一つ、乱れ打つ。

 わきあがるのは、たとえようもない不安感。

 ふだん目にしたことのない、晃一郎のその厳しい表情が、優花の胸の奥に生まれた不安の種を急激に膨らませていった。




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