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【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~  作者: 水樹ゆう
第一章◆脱  出 《Escape》
6/37

05

『晃ちゃん、大丈夫だろうか? まさか今のご時世に殴られたりしないよね?』

 などと、幼なじみの身を案じ、暗たんたる気持ちで教室に一歩足を踏み入れた途端、聞き覚えのある妙に明るい声が飛んできた。

「おっはよー、優花!」

 ――こ、この声は!

 条件反射で、ギクリと身を強張らせる。

「こっち、こっち」

 恐る恐る、

 声の主を求め、ざわめき溢れる教室の中に視線を巡らせると、窓枠に背を預けて立っている、スレンダーな女子生徒がおいでおいでと手招きしている。

 少し癖のあるセミロングの黒髪と、小麦色の肌。

 健康そうな肌の色は日に焼けているのではなく、おばあさんが外国の人で、その遺伝らしい。

 黒縁メガネの奥の意志の強そうな綺麗な二重の瞳は、いつも何かを追って生き生きと輝いていて、優柔不断な自分には到底真似できない、その行動力と判断力に、優花は密かに憧れていたりする。

 玲子ちゃんこと、むられい

 中学からの付き合いの、優花の一番気の置けない女友達。

 彼女は、もう引退したけれど、元文芸部の部長で作家志望。

 ミステリーやサスペンスを特に好み、事件やゴシップの陰に隠れている人間の『どろどろでろでろ』と、混沌とした内面を突き詰めていくことに、至上の喜びを感じるのだという。

 日頃、どちらかというとポーカーフェィスな玲子の、この満面の笑顔は、小説ネタ取材モード全開に見える。

 こ、これは、さっきの晃ちゃんの連行劇を見てたなぁ……。

「おはよー、玲子ちゃん」

 かなり引きつり気味に、それでも笑顔を浮かべて返事をし、イソイソと自分の席に座って荷物を整理しはじめる。

「いやぁ、すごかったね、今日の仁王様の雷は。まさか原因が御堂とは、びっくりだけど」

 玲子はそう言って、前の席のイスをくるりとこちらに向けて腰を下ろすと、豊かな胸の前で両腕を組んだ。

 これは、名探偵よろしく、考えごとをする時の玲子のポーズ。

 その顔には、『面白いものを見た』とばかりに楽しげなニヤニヤ笑顔が浮かんでいる。

 小説ネタ取材モード決定だ。

 ――玲子ちゃんは、なんとなく晃ちゃんに冷たい、と思うのは、私の気のせいだろうか?

 玲子は日頃から晃一郎のことを、『アレは、ただの女好き!』と公言してはばからない。

 まあもともと、どちらかというと、女子よりも男子に厳しいきらいはあるけれど。

 それを置いといても、晃一郎の件が、元文芸部の部長で作家志望の玲子の小説ネタ探知アンテナに引っかかるのは分かる気がする。

 文武両道な(一応)優等生の突然の変化。

 それもあんなに目立つ変化を、この手の事が三度の飯より大好きな玲子が、見逃すはずがない。

 その事象の奥に隠されている真実はなんなのか?

 様々なピースを繋ぎ合わせて、色々なパターンを想定して、その脳内では多様なストーリー展開が組み立てられているのだろう。

 好奇心旺盛を絵に書いたような嬉々とした瞳に見詰められて、優花は、浮かべた笑みが引きつった。

「で、あのヒヨコも真っ青な金色頭の原因はなんなの?」

 そんなことを自分に聞かれても、困ってしまう。

「何、なんだろうねぇ……」

 ――私の方が知りたいよ。

 何かあったと言えば、お祖父さんが亡くなったことくらいしか思い浮かばないけど、それが原因で、髪の毛染めちゃう?

 それも、あんなに思いっきり、金髪化しちゃう?

 おまけに、右耳には銀色のイヤー・カーフまでつけちゃって。

 いやぁ、さ。

 ちょっとは、カッコイイとか思っちゃったけど。

 でも、制服は着崩しているわけじゃなく、きっちりと規則通り。

 行動に脈絡がなさ過ぎて、どうも釈然としない。

 その上、今日の晃ちゃんは、いつもと違う。

 髪の色がどうとかじゃなく、こうハイテンションって言うか、底抜けって言うか。

 妙にかち合う視線が、物言いたげって言うか。

 かなり、変――。





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