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【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~  作者: 水樹ゆう
第一章◆脱  出 《Escape》
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02


 な、な、なんで、

 晃ちゃんが、ここにいるの!?

 脳内を、クエスチョン・マークが、団体さんで駆け抜けていく。

 晃一郎は、尚も硬直している優花の様子など微塵も気にとめる様子もなく、ふんふんふん♪ と、実にご機嫌さんで鼻歌を口ずさみながら、高校の制服であるグレーのスラックスに長い足を突っ込みベルトを締め、白Tシャツの上にワイシャツを着込んで首にエンジのネクタイをひっかけ、濃紺のブレザーに袖を通し、まだ乾ききらない髪を右手のタオルで拭き取りつつ、利き腕の左手だけで器用にブレザーのボタンをとめながら『お先ーっ』と入口に、つまりが、優花が突っ立っているドアの方に歩み寄ってくる。

「なっ――、なに、その髪の毛っ!?」

 ことここに至って、ようやく声帯が働き始めて第一声、

 優花の口から飛び出したのは、晃一郎がなぜ家のお風呂を使っているかではなく、明るいブラウンから明るすぎるゴールドに変色した、その頭髪についての疑問だった。

 ――だって、これじゃまるで『夢の中の晃ちゃん』みたいだ。

 あれは夢だから許容できる色合いであって、リアルにこの色の髪の毛はありえない。

「似合わないか? けっこう気に入ってるんだけど」

 すぐ目の前で、『うん?』と、形の良い瞳が悪戯っぽく細められる。

「に、似合うとか似合わないじゃなくって……」

 ち、近いよ顔っ!

 あまりの至近距離で視線がつかまり、思わずしどろもどろになっていると、優花たちの気配を察したのか、ダイニングの方から祖母の、のんびりとした声が飛んできた。

「優ちゃん起きたの? 今、お風呂は晃一郎君が使っているからねー」

 って、もう知ってるよ、おばあちゃん……。


 幼なじみのお隣さん。

 外見もイケメンの部類で、学業優秀、スポーツ万能。

 性格も、まあ申し分なし。

 これだけ好条件が揃っていたら、もっと色っぽい展開がありそうなものだけど、不思議なくらいその気配はない。

 なかった、はずだったのに……。

 あの夢のせいで、変に意識してしまう自分がいる。

 朝のダイニングキッチン。

 四人掛けのテーブルには、いつものように、祖父の隣に祖母。

 祖母の向かい側に、結局シャワーを浴びそこねた優花。

 その優花の左隣には小ざっぱりとした風情で、如月家定番の和風朝食を、モリモリと小気味よく胃袋に収めている晃一郎がいる。

 ああ、もう、緊張しちゃうなぁ。

 なんて、左半身に神経を集中させながら、祖母特製の甘いだし巻き卵を、おちょぼ口でモギュモギュ飲み込んでいたら、

「それにしても、急な事で大変ねぇ、晃一郎君……」と、

 食後のお茶の用意を始めた祖母が、気の毒そうに、ため息混じりのつぶやきを漏らした。


 晃一郎が今、こうして如月家で朝食を食べている理由。

 それは昨夜の夕方、晃一郎の父方の祖父、御堂家の本家のお祖父さんが、亡くなったから。

 末息子である晃一郎の父とその嫁である母は、取るものも取りあえず、夜のうちに三つばかり隣の県にある本家へ車で向かい、外孫である晃一郎は、金曜日の今日学校を終えてから明後日・葬儀当日に間に合うように、電車で後を追うことになっているのだとか。

 一緒に行った方が楽なんじゃないかと思って、優花が尋ねたら、晃一郎の祖父には七人の子供がいて、外孫まで一度に集結してしまうと収拾がつかなくなるので、後から一人で来られる年齢の孫たちは皆、置いてけぼりをくったのだと、晃一郎はカラカラと笑った。

 ちなみに如月家のシャワーを使っていたのは、親戚に不幸があったこととは関係なく、たまたま運悪く御堂家のボイラーが故障していたからだそうだ。

 困ったときのご近所さん。

 いきなりセミヌード攻撃は驚いたけれど、事情が事情なだけに、怒るわけにはいかない。

 自分が着替え中で晃一郎が後から入ってきたのだったらこんな悠長なことは言っていられないが。

 ――まあ、立場が反対じゃなかったことを神様に感謝しよう。




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