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【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~  作者: 水樹ゆう
第三章◆異 変 《Accident》
25/37

05


 晃一郎の活躍の成果で、Cチームは大差で圧勝した。

 次のチームが召集されるコートから、晃一郎と玲子が連れ立って戻ってくるのを、優花は仁王立ちで、今か今かと手ぐすねを引いて待っていた。

 隣には、そんな優花の内心を知ってか知らずか、リュウがニコニコと邪気のない笑顔をたたえて立っている。

『どうして根も葉もないすぐにばれる嘘をつくの!』

 優花は、幼なじみ殿の大活躍を賞賛するためではなく、メモの件を問い詰めるためのセリフを脳内リピートした。

 秋口とは言え、かなりの運動量に汗をかいたのだろう。歩み寄ってくる晃一郎は、顔をパタパタと手のひらで仰いでいる。

「おー、暑ぃ。さすがに連ちゃんはキツいなー」

「無闇に張り切るからでしょうが。タキモトくんを迎えての親睦ゲームなんだから、適当に楽しめばいいのよ。何、ムキになってるんだか」

 汗一つかいていなさそうな涼しげな表情で、玲子がチクリと言葉の棘を刺すが、晃一郎は気にするふうもない。

「なんでも手を抜かないのが、俺のポリシーなの」

「初めて聞いたわね、そんなポリシー。いっつもテキトーに手、抜きまくりで、そつなく流している気がするんだけど?」

「おっ、いいもの発見!」

 言外に不信感と疑惑の念を色濃くにじみ出させる玲子の値踏みするような視線を、僅かに肩を竦めただけで事もなげにスルーした晃一郎は、優花が握りしめていたスポーツ飲料のペットボトルをひょいと取り上げると、当たり前のようにごくごくと飲みだした。

「晃ちゃん……」

 ぴきり、と優花のこめかみに青筋が浮く。

 その無遠慮な態度が、ただでさえ切れかけていた優花の堪忍袋の緒に負荷をかけている。

「ん? ああ、ごちそうさん」

 ぽん、と一気に半分の重さになったペットボトルを手の平に戻された優花は、昂ぶった気持ちを抑えるために、一つ大きく息を吐きだした。

「晃ちゃん……どういうつもりなの?」

 本当は語気を荒げて問い詰めたいところだが、リュウと玲子がいる手前、そうもいかない。かなり引きつり気味の笑みを浮かべ、優花は努めて冷静に言葉を発した。

「いやー、喉が渇いて、ついデキゴコロデス、ゴメンナサイ」

「違うっ……」

「違うって? ってか、なんかその笑顔、怖いぞ、優花……?」

 へえ、怖いんですか。そうですか。

 それは、後暗いところがあるからじゃないんですか?

「どうして、リュウくんに嘘を教えるの?」

「へ……?」

 優花の怒気の原因が掴めない晃一郎は、要領を得ないように目を瞬かせる。

「現国の時のメモのこと」

 ぶすっと加えられた注釈にやっと合点がいったのか、晃一郎は優花の隣で邪気のない笑みをたたえているリュウにチラリと若干毒の含んだ視線を投げた。

『バラシタナコノヤロウ』

 そんな怒りのオーラをにじませて念波を送ってみるが、鉄壁とも思えるエンジェル・スマイルの前には歯が立たない。

「えーと、まあ、その、あんまり気持ちよさそうに寝てたから、邪魔したら悪るいかなーって」

 だからってなぜあの内容? 

 そうなら、ただ『寝かせてあげてほしい』って書けばすむことじゃないの?

「別に悪気ははないから、気にするな」

 一応の言い訳は聞いたものの、すっきりとしない優花は、むーっと眉根を寄せる。

 その様子を興味津々の体で傍観していた玲子が、ニッコリと本日一番の笑顔を浮かべた。

「えー、なになに? 嘘のメモって何? 何の話?」

 ゴロゴロと、まるで上機嫌の猫が喉を鳴らしているような声音に、優花はぎくりと全身をこわばらせる。

 しまった!

 と、思ったときには遅かった。

 冷静にと努めたつもりだったが、やはり怒りに我を忘れていたのだろう。

 猫にカツオブシ。

 優花は、玲子に絶好の小説ネタを提供してしまった己の愚行を、はっきりと悟った。

 


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