05
そして再び、少しばかり長い眠りから目覚めた時、優花は、自分の視力が回復していることを知った。
重い瞼を、ゆっくりと数回瞬かせ、視界いっぱいに見えている白いものが、部屋の天上なのだとぼんやりと理解し始めたその時、
「よう、目が覚めたか、寝坊助!」
聞き覚えのあるやたらと明るい声と共に、不意に視野を埋め尽くした珍妙なモノに、一瞬、ギョッと目を見張った。
それこそ、目も覚めるような蛍光金色に、まだ冷めやらぬ脳細胞が一気に叩き起こされる。
御堂晃一郎。
我が、親愛なる幼なじみ殿に間違いはない。
でも、大きく変わった、というか物凄くヘンテコな個所が一つあった。
だから思わず第一声、
「……何、その派手な髪の毛?」と、つぶやいしまった。
ベッドを覗き込むようにしていた晃一郎の表情が、心配げな真面目くさったモノから、なんとも言えない脱力したモノに変化して、ついには、こらえきれないように笑いだした。
「え、何? 私、何か変なこと言った?」
「いや。やっぱり、優花なんだと思って。目覚めて最初にそこに関心がいくなんてさすがに優花だ」
語尾が微かに笑っている。
だって、金色頭って、明らかに変でしょうが?
バカにされている気がして、ぶすくれていたら、
「元気になって良かったな」
と、意外に優しい声音が降ってきて、おまけに、ポンポンと頭を叩かれ、ついでにほっぺをムギュとつかまれて、何だか妙に照れくさくなった優花は、
「う、うん、ありがとう」
とだけどうにか呟いた。
――なんだか、髪の色だけじゃなくて、いつもの晃ちゃんと違う気がする。
こう何というか、いつもより、フレンドリー?
それにしても、なぜ晃ちゃんがここに居るのだろう?
たぶんここは病院だと思うけど、普通こういう時は家族が最初に面会に来るものじゃ――。
そこまで考えを巡らせて、肝心なことを聞き忘れていたことに気付いて、ドキリとした。
聞くのが怖い。
でも、聞かない訳にはいかない、大切なこと。
晃一郎の手を借りて、ベッドの上に上体を起こした優花は、ギュッと唇をかみしめ、意を決して言葉を絞り出した。
「晃ちゃん……」
「うん?」
逸らしたくなるのを必死にこらえて、真っ直ぐ晃一郎の瞳を見据える。
「……お父さんと、お母さんは?」
何かを躊躇うように、微かに揺れる晃一郎の瞳。
答えの代わりに、残酷な沈黙が落ちた。
「まさか……」
最悪の結果が脳裏をよぎり、その先を言葉にすることができない。
「おじさんとおばさんの安否は、わからないんだ」
「……え?」
安否がわからない?
「俺がお前に呼ばれて事故現場に行ったとき、居たのは優花、お前だけだった」
「え?」
私が、晃ちゃんを、呼んだ?
確かに、晃ちゃんのことをチラッと思い出しはしたけど、呼んだっけ、私?
それに、SOSに飛んでくるスーパーマンじゃあるまいし、呼ばれたからって助けに来られるものなの?
そもそも『呼ばれてくる』って、意味が分からない。
「おじさんとおばさん、二人の行方が分からない、ってこの場合、たぶん行方不明なのはお前の方だけど」
「は?」
行方不明が、私?
私は、ここにおりますが?
もしかして、私は、頭を打ってどこか回線がうまく繋がっていないのかもしれない。
だって、晃ちゃんの言ってることが、全然、全くもって理解不能。
酸欠の金魚宜しく、点目で口をあんぐり明けていたら、さらに理解不能な言葉が追い打ちをかけた。
「落ち着いて聞いてくれ」
「う、うん……?」
「たぶん、お前はパラレル・スリップをしたんだと思う……」
パラレル、スリップ?
何か、滑ったんだろうか?
聞きなれない単語に眉を寄せている優花に、やはり同じように眉を寄せながら晃一郎は言葉を続ける。
「ここではたまにそういうことがあって、迷い込んできた人間を『イレギュラー』と呼んでいる」
イレギュラー?
そういえば、意識がもうろうとしていた時に、晃一郎がそんな言葉を言ってた気がする。
確か、『イレギュラーでもなんでも、間違いなく優花なんです!』とかなんとか。
英語だよね?
どんな意味だっけ?
レギュラーじゃない、って感じかな?
レギュラーって、正式とか正規とか言う意味だったから、イレギュラーは……。
なんて、呑気につらつらと考えていたら、晃一郎はこれでもかと、最終爆弾を投下した。
「ここは、お前が居た世界と似ているが、全く別の世界。つまり、パラレル・ワールドなんだ」
は……?
はいっっっ!?




