あべこべの傘 〜いたずらっ子と、おちょこになった傘の秘密〜
キーンコーンカーンと下校の鐘が鳴って、子どもたちが次々と学校から出てきました。
ポカン、ポカン、と傘の花が咲きます。
今日は雨ふりなのです。
元気の良い男の子たちが駆け出してきました。
男の子たちは我先に傘を開いて、ブンッと勢いよく傘を振りました。
バサッと傘がひっくり返ります。
傘って普通はキノコのように丸い形をしているでしょう?
それが、勢いよく振ったものだから、風を受けて、まるでおちょこのように裏返ったわけです。
あべこべの傘です。
男の子たちはおもしろくて、おもしろくて、ワハハハと笑いながら、何度も何度も、傘をおちょこにしました。
「こらぁ、早く帰りなさぁい!」
担任の先生が、ちょっとだけ怖い顔をして、男の子たちに大きな声で言いました。
「はぁい」
男の子たちはつまらなそうに答えて、学校を出ました。
「じゃあな、カズオ。また明日」
「うん、また明日」
友だちとバイバイして、カズオは1人で歩きはじめました。
カズオの家は、みんなとは反対方向なんです。
ひとけのない道まで来たので、カズオはまたブンッと傘を勢いよく振りました。
するとーー。
「痛い!」
小さな声が聴こえました。
カズオは驚いてまわりを見回しましたが、誰もいません。
「え?だれ?」
カズオがそうつぶやくと、また声がしました。
「ここだ、ここだ。おまえが手で持っているだろう」
カズオは自分の手を見ました。
ーー傘?
「さっきから、ブンブン、ブンブン。痛いったらありゃしない」
ーー傘が、しゃべってる?
カズオはドキドキして傘の柄を強くにぎりしめました。
「そんなにギュウギュウ握らなくても逃げやしないったら。本当に、おまえは乱暴だな」
「・・・ごめん」
カズオは素直にあやまりました。
なんだか急に傘がかわいそうになったのです。
「傘、振ったら痛かった?」
「痛かった。骨が折れるかと思った」
「ごめん」
「これからは、あれはなしにして欲しいな」
「わかった」
「わかってくれたのなら、よろしい」
「うん」
カズオは傘の柄をギュウッとにぎりかけて、慌てて手の力をゆるめました。
家に帰ったカズオは、台所で晩ごはんの支度をしているお母さんの背中に「ただいま」と声をかけて、こっそりと部屋に傘を持っていきました。
そして、机の前に座って、しげしげと傘を眺めました。
「うん」と1つうなずいてから、カズオは机の引き出しをゴソゴソとかき回して、お気に入りのシールを取り出すと、ペタリ、と傘の柄にシールを貼りました。
この傘は、カズオだけの特別な傘です。




