あ、だめ。
「会いませんか」
DMが来た。
「何でもお好きなもの、ご馳走しますよ」
DMの主は何度か小説の感想を長文で綴ってくれた男で、自身も文章をたびたび公開していた。
私は人と会わない。
だけど…気になる。「あれ」を書くのは、どんな人間だろう。何を見て、何を食べ、何を感じて、生きているのだろう。
Twitter越しでも、小説越しでも、決して触れられない「生」のその男が、知りたかった。
「海鮮がいいです」
と、指が勝手に動いていた。
いつの間にか、待合せ場所が決まっていた。
****
呼び出された店は、案外煌々とした商店街の入り口から10歩も歩けば着く場所で、すぐそこの眩しすぎるセブンイレブンの明かりに、私はほう、と息をついた。
ブブ、と通知が鳴る。
「遅れます、先に中入っててください。」
親指の絵文字だけを送って、店に入る。
店内は、外の喧騒と切り離されたように静かで、板前の「いらっしゃい。お好きな席どうぞ」という無骨な声が響く。店内の入り口を埋め尽くす生け簀には、ブルーライトに照らされた沢山の海の生き物が蠢いている。沈んだままゆっくりと艶めく鰻、ガラスに張り付いて蠢く貝、狭い生け簀を悠々と泳ぐ、名前も知らない魚。
つゆん、と唾が出て、それが何故か恥ずかしくて、喉を鳴らさないよう、唾をこっそりと飲み込む。
幸い店は空いていて、私は奥座敷席の一番手前の席に腰を下ろした。いつでも逃げられるように、上座を空けて、下座に座る。壁にもたれて、やっとひと心地ついた。
メニューをパラパラとめくっていると、
「**さんですか?」
男が現れた。
黒のニットキャップにパーカー。すん、とした顔。何もかもがプレーンな男。この人が、あれを、書いていたのか。
男の文章が、脳内で蘇る。
「この店、活造りが美味しいんですよ。お嫌いじゃなかったら、何でも、好きなもの頼んでください」
ずらり、と並ぶメニュー。
「おすすめ、とかあります?」
「そうですね…海老、とか?」
「じゃあ、それを」
他愛もない話をして海老を待つ。
活造り、罪悪感とかないんですか?
かわいそうって、思います?
海老味噌、食べる人ですか?
出された海老は、脚がまだ微細に動いていて、皮を剥がれた白に近いピンクの生肌は、ひくりひくりと痙攣していた。
箸でつついてみると、うぞうぞと脚が暴れ、肉が強く痙攣する。
…美味しそう。
男は私を面白そうに眺めながら、海老の首を毟り、そのまま、じゅるじゅるじゅる!!と吸った。
(あ。)
だめだ、と思った。
生海老は、上の触角と下の触角を左右の手で持って上下に引けば、割れる。
そうして現れた味噌を、ゆっくりと舐め啜るものだ。
「本当にすみません、やっぱりかわいそうになってしまって…、これ、召し上がってください。気分すぐれなくなっちゃったので、今日は帰ります。これ、今日の代金です。」
私は、煌々としたセブンの明かりまで、逃げた。




