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救出

夜が白み始める頃、ヤマトたちは拠点へと戻ってきた。冷たい空気に震える胸の鼓動を押し隠しながら、彼は仲間たち全員を集め、フレアがさらわれた顛末を語った。言葉を重ねるうちにも、彼女の呻き声が耳に残り、集まった仲間たちの視線には焦燥と恐怖が濃く宿っていった。


ヤマトたちは武器を整えた。槍を携えた前衛、弓を構える後衛。総勢十六人の大部隊が編成され、森へと乗り込む準備が整った。

「急がなきゃ……」

ヤマトの低い声に、誰一人反論はしない。ただ黙ってうなずき合い、皆が森を再び迎え撃つ覚悟を決めていた。


一夜明けた森は不気味なほど静まり返っていた。先ほどまで追跡の音で荒れ狂っていた気配は嘘のように消え、ただ木々が冷えた空気を湿らせている。川は依然透き通っており、大蛇の気配はなかった。川を渡り終え、足を忍ばせながら彼らは慎重に森の奥へ進んだ。


やがて木々の隙間を抜けた先に、異様な光景が広がっていた。

広場の中央に立つ粗末な杭。そこに両腕を縛られ、吊されるように固定されたフレアの姿があった。頭を垂れ、足は濡れている。遠目からでも意識を失っているのが分かった。

「フレア……!」

ヤマトは声を上げそうになったが、トリアが咄嗟に口を塞ぐ。敵の気配はない。しかし、それこそが逆に不穏だった。


ヤマトは指示を出し、弓兵隊をその場にとどめさせる。前方の槍兵をヤマトが率いて進んだ、その瞬間――。地面がわずかに沈む感触。次いで派手な音を立て、土が崩れ落ちた。

「ガラッ!」

突如現れたのは、鋭く削がれた杭が何本も立ち並ぶ落とし穴。

「くそっ!」

ヤマトは咄嗟に身を翻し、かろうじて回避する。辺りを見渡すと、杭や粗縄で覆われたいくつもの落とし穴が巧妙に偽装されているのが見える。まるで誰かが彼らを迎え撃つことを確信していたかのようだった。

「……完全に罠だな」

トリアが唇を噛み、低く吐き出す。だが仲間たちは退く気はない。


慎重に穴を飛び越え、槍を突いて仕掛けを確かめながら進む。息を詰めるような緊張の中、それでもついにヤマトはフレアの元へ辿り着いた。


杭に縄で縛られたフレアの顔は青白く、意識は朦朧としていた。それでもかすかに瞼が震え、彼女は仲間の気配を感じ取ったかのように微かに唇を動かす。

「……ヤマト……?」

掠れた声に応えるように、ヤマトは必死に縄を切り裂いた。


その時、ヤマトは違和感を感じた。

フレアの足に突き刺さっていたはずの矢はすでに抜かれており、傷口には粗末ながらも薬草が塗られ、化膿を防ぐ処置が施されていたのだ。

「……これは……?」

驚きに眉をひそめたヤマトに、トリアが険しい顔で小声を返す。

「敵がやった……のか?」

意図は分からない。だが確かなのは、そのおかげでフレアが命を繋ぎとめていたという事実だった。ヤマトは仲間たちへと合図し、ギガンはフレアを背負った。

一行は警戒を緩めることなく森を後にした。背後では風が木々を揺らし、草を擦る音だけが響いている。それはまるで、見えぬ誰かが森の中から彼らを見送っているかのようであった。






ヤマト:日高国の一族の末裔で火星移住計画を立案した

キーザ:宇宙船の操縦士でヤマトの補佐役

トリア:ヤマトが信頼している人物の一人。冷静な判断ができる

ギガン:屈強な体躯を誇る大男。ユーモアで場を和ませようとする

フレア:敵の捕虜になるも解放される

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