気配
その夜、ヤマトはキーザ、トリアの3人で、これからの方針について会議を開いていた。
「ザルツは……どうする?」
焚き火の明かりを背に、ヤマトの低い声が落ちる。
キーザは短く息を吐いた。
「軽率に動けば、私達もカランと同じ運命を辿ることになります」
それに対しトリアも呼応する。
「殺人鬼が潜んでいる以上、むやみに動くわけにもいかないしな」
その後少しの間、重い沈黙が続いた。
その時、見張りの一つの焚き木が消え、その方向からギガンの押し殺したような声が聞こえた。
「ヤマト、ちょっと来てくれ」
ギガンは体勢を低く保っていた。3人もそれに続く。
「川の向こう側に火が見える」
確かに川を越えた森の中で火が焚かれているのが分かった。
「誰だろう?……サマルか……フリザだろうか……?」
確かに姿を消した彼らなら火を焚いていてもおかしくはなかった。だが、次のギガンの一言で空気が一変した。
「火星人かもしれんぞ」
確かに現地人の可能性もあった。カランの命を奪った敵かもしれないのだ。
「どうします?」
キーザはヤマトに問いかけた。選択肢は大きく分けて2つ。暗闇に紛れて近寄り相手を確認するか、夜明けまで待つか。ただし夜明けまで待つと目印は消え移動される危険性もある。
「俺とトリアで行こう。キーザはここを頼む」
キーザは少し考えた後、こう言葉を続けた。
「2人だと何かあった時に危険ですね。あと3人は連れていってください」
ヤマト達はヤマト・トリア・ギガンにフレア・ダーツを加えた5人で行くことにした。
やがて一行は川岸にたどり着いた。丘から見えた焚き火も、ここでは木々に遮られその姿を隠している。
「近付くしかないか……まずは俺が行く」
ヤマトは声をひそめると、衣の裾を絞りながら水際に足を踏み入れた。夜に沈む川は想像以上に冷たく、足首から這い上がる冷気が身を刺す。ヤマトは息を整え、一歩ごとに水音を殺しながらゆっくりと進む。
川の流れは思いのほか穏やかだった。ざらつく石を足裏で確かめながら進み、やがて闇に溶け込むようにして対岸へ渡り切る。待機していた仲間に手信号で合図を送ると、残りの四人も次々に入水した。
その時――。
「……ブク……ブク、ブク……」
川上の暗闇から、水泡の弾ける音が届いた。四人は即座に足を止め、息を呑む。水に潜む何かの吐息か、ただの自然現象か。やがて泡立つ音は少しずつ遠ざかっていき、やっとのことで彼らは再び歩を進める。
水は体温を奪い続け、全身を重く沈ませる。だが誰も声を上げず、静まり返った川を慎重に渡り切った。
対岸に立った瞬間、全員が小さく肩で息をつく。背後では川面が不気味な黒光りを放ち、何かを隠しているかのように揺れていた。
ヤマト:日高国の一族の末裔で火星移住計画を立案した
キーザ:宇宙船の操縦士でヤマトの補佐役
トリア:ヤマトが信頼している人物の一人。冷静な判断ができる
ギガン:屈強な体躯を誇る大男。ユーモアで場を和ませようとする
フレア・ダーツ:偵察隊として帯同