離反者たち
宇宙船が到着したのは、森の中だった。本来なら見晴らしの良い丘陵の上に降り立つはずだったが、想定外の事態に制御を失い、深い森の中に入り込んでしまっていた。幸いなことに、少しひらけた場所であったため、宇宙船の火災が燃え移ることもなかったようだ。
「これからどうしますか?」
声をかけてきたのは操縦士のキーザだった。その顔に疲労と不安が滲んでいた。彼は宇宙船の操縦を担っていた信頼のおける人物だ。地球を飛び立つ前にリーダーとなっていたヤマトは沈黙して皆を見渡した。炎に失われたものは数知れない。水も、食料も、ほとんど残っていない。だがここで迷えば仲間の命は尽きる。
「みんな聞いてくれ!」
ヤマトは意を決して声を張った。
「船の物資は燃えた。残る望みは、それぞれの手荷物に入っている分だけだ。まずは全部出して、皆で分け合おう。そうすれば、少しの間は生き延びられる」
ざわめきながらも、多くの人が荷を開き始めた。その時、鋭い声が割り込む。
「冗談じゃねぇ!」
声の主は中炎国の王子、サマルだった。傲慢な笑みを浮かべ、八人の従者を従えている。
「食料を持たなかった奴が悪いんだろ? なんで俺が分けてやらなきゃならない?もう帰る術はないんだ。お前らに従う義理なんかない」
「待て、サマル!」
ヤマトは必死に呼び止めたが、サマルは振り返りもせず、従者を連れて森の奥へと姿を消していった。
重い沈黙の後、ヤマトは拳を固く握り、残った仲間に向き直った。
「……仕切り直そう。持ち寄ってくれ。少なくとも皆で均等に分ける」
ヤマトはおおよそ等分になるように食糧と水を皆に分け与えた。
焚火のぱちぱちと弾ける音が、森の夜に溶け込んでいく。
西の空はすでに群青色に染まり、木々の影が濃く落ちていた。
「そろそろ夜になるな」
ヤマトは皆に向かって言った。「どんな獣がいるか分からない。火を絶やさず見張りを立てよう。三か所に分けて火を焚き、三時間ごとに交代だ。まずは、俺とキーザ、トリアがつく」
キーザとトリアは無言で頷いた。
「次に番ができる者は?」
ヤマトが問うと、英霊国の党首フリザが一歩前へ出た。
「俺たちが続こう。六人いる、三人ずつ交代すれば夜明けまで保てるはずだ」
ヤマトは感謝の意を込めて深く頷いた。小さくほっとした気配が周囲に広がる。
夜は静かに更けていった。森の奥から時折、獣の遠吠えのような響きが届くが、火の明かりの外に姿を現すものはない。三時間が過ぎ、ヤマトたちは慎重に交代を済ませ、疲れを抱えながらも仮眠に入った。
ヤマトは煙の匂いに目を覚ました。いや、煙はない。火が消え、冷たい灰だけが残っていたのだ。驚いて辺りを見回すと、三か所の焚火はどれも同じように燃え尽き、そしてフリザをはじめ六人の姿は、影も形もなかった。
足跡は、まるで意図的に消し去られたかのように見つからない。ただ、湿った土に、小さな擦れ跡だけが残っていた。
「……何があった?」
ヤマトは低く呟いた。仲間たちの間に不安のざわめきが広がり、森の静けさだけが彼らを取り囲んでいた。
ヤマト:日高国の一族の末裔で火星移住計画を立案した
キーザ:宇宙船の操縦士でヤマトの補佐役
トリア:ヤマトが信頼している人物の一人。冷静な判断ができる
サマル:中炎国の王子で従者を従えている
フリザ:英霊国の党首