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 結局、そのままお菓子片手にシュノーゲン大陸プチ講義になった。

 俺の感覚だと街並みとか服装とかまんま中世って感じなんだけど、実際の暮らしは結構便利なんだなぁって分かった。元の世界(あっち)で言うトコの掃除機とか冷蔵庫とかガスコンロみたいなモンがこっちにもあるのにまずびっくりだよ。

 なんでも、そういう家事が楽になるような生活に密着した道具を魔道具(…道具の上に『魔』がついてるってことは、魔力が電気代わりになってるってコト、かな? なんか微妙なネーミングだけど)、魔術師の補助になる杖だの水晶だのは魔法具って言って、どっちも魔術師の資格を持ってる人が作るモンらしい。あまり魔力が高くない魔術師の生業だったりすんだってさ。

 で、作る職人魔術師が少ないから、そもそもが魔道具は割と高めの値段らしくて、高級なものになればなるほど庶民には手が届かないらしい。んー、つまりライルんちって貧乏だったのかも? そんな感じもしなかったけど、あそこ魔道具の『ま』の字もなかったしなぁ。

 そんな感じで、ネレイドの教え方丁寧だし色々目新しい知識が増えて面白かったんだけど、最初に聞こうとしたこととずれてたな、と気づいたのは寝る寸前だった。

 まあいいか、また聞く機会もあんだろ、と呑気に構えて寝たんだけどさ……かえすがえすも甘かった。



 なんだこの揺れ具合。



 いや、馬車だって聞いてはいた、うん。馬じゃないから内臓でんぐり返し気分にはならないんだろうなぁって安心したもん。んで、昨日港町をちょっと歩いただけでも元の世界に比べたら道、よくねぇなぁって思ったのも確か。コンクリート舗装なんてやっぱないか、石畳だから結構揺れるんだろうなって。うん、『結構』くらいだったんだよ、今朝叩き起こされて乗らされた馬車が動き始めた時は。

 町を抜けてそれぞれの町や村を繋いでる街道を走り出した途端、尋常じゃなく馬車が揺れだしたんだ。町中に比べて道の状態があんま良くないのかもしんないし、明らかにスピードは上がってるし、その両方のせいなんだろうと思う。

 けどさ、とてもじゃねぇけど「馬車で良かった」なんて安心できる代物じゃ、ねぇぞこれっ! 馬車には他に誰も居ないから文句も言えねぇし、大体揺れすぎて何か言おうとしたらそのまま舌噛んで目的地あの世に変更しそうだし。

 だから馬車の中に横になって、流れて見える窓の外の景色を眺めながら酔いをごまかすのがせいぜいだった。ちっと、申し訳ねぇけど誰か襲ってきたら馬車停まるかなぁ、とか酔い最高潮の時は思ったよ。後で反省したけど。




 あー……もう限界………。


 そんな調子で四日経った夜。久しぶりにベッドに仰向けでぐったりしてた。走り出して初日はベッドで寝られたけど、残り二日は野宿だったもんな……だから、そんな初体験は要らねぇっつうのに。

 頭ん中でネレイドから聞いたシュノーゲンのキマラ(蝶々大陸の左翅)の地理を思い浮かべてみると…うあ、まだ目的地のローデン王都まで半分近く残ってる。俺、絶対無事に到着できない気がしてきた。折角のベッドだっていうのに、まだ胃が軋む気がするし。


「なんでなんかなー…俺、なんかしたのかな……」


 体調が悪ければ気分だってどん底になってくる。今は部屋に誰もいない。こんな時にネレイドが居てくれたら大分気持ちが楽になれたろうになって思うけど、それはないものねだりでしかない。何だか、胃だけじゃなくて手足まで重くてベッドの下から何かに引きずられてる変な感じすらした。

 ああ、ダメだ。今までの経験上、こんな重たい気持ちの時はロクなこと考えないんだよ。―――そして、最悪なことに、それが分かってても、止められないんだ。

 どうしてこんな風に連れまわされなきゃなんないんだろう、とか。

 どうしてネレイドも誰も俺がローデンに行く理由を教えてくれないんだろう、とか。

 どうしてライルは何も言わずに俺を放り出したんだろう、とか。

 誰も俺に何も言ってくれないのは俺が悪いのかなぁ、とか。

 そもそも、なんで俺この世界に来たんだろう、とか。

 俺、本当に、この世界から還れるのかな、とか。

 ――――――俺が還れる世界なんか、あるのかな、とか。


「あ゛ーーーーーーっっっっ! 止め止め! 辛気臭ぇぞ俺っ!」


 腹に力を込めて身体を浮かしながら大声で叫ぶと、胃液が逆流しそうでまたベッドに仰向けに倒れた。き、気合い入れるってしんどい。でも、大声だすとちょっと気持ち的に楽んなった、かも。

 そうだよ、大体俺がグダグダ考えたことって、全部俺が答え出せることじゃねぇじゃん。なのに、それ考えるのはまだしも悩むのなんざ、無駄だ、無駄。

 それにさ、『誰も俺に何も言ってくれない』ってさ、俺ちゃんと誰かに面と向かって『どうして俺を連れて行くのか』って聞いたことねぇし。それなら教えて貰えないのも当たり前じゃん、俺が悪いんだよ。

 ここから還れる還れないの件はなぁ……まぁ、いずれちゃんと考えないとだろうけど。今は自分が納得できることをするの優先した方がいいんじゃねぇかな。

 よし。

 こうと決まったらすぐ動くのが俺の長所(タミフルなんかは後先考えないって言ってたけど)。俺は「よしっ」と今度は声にも出して吐き気を気合いで押さえ、ベッドから降りた。善や急げとばかりに大股で歩いて扉を手前に思いっきり開いてそのまま勢いで隣の部屋に。


「―――――ぅえっ?」


 行こうとしたら…何かに衝突して目の前が真っ暗。何だなんかの罠?

 一歩下がってみると一面ダークグレー。見上げると無口男、ゼメキスが立ってた。思わず変な声も出る。


「…何をしている」

「いや、こっちの台詞だけど」


 人の部屋の前で何やってんだこいつ。聞き耳でも立ててた…割には堂々としてるよな。


「騒いでいたのはお前だろう。何かあったか」


 淡々とした低い声と無表情に、一瞬説教でもされてんのかと思ったけど、…言ってることは多分…心配、してんのかひょっとして…?

 自分の解釈が微妙に信じられなくてもう一度表情をよく見直そうと一歩後ろに下がる。今の距離じゃ近すぎて却って見づらい。

 ―――おい。なのになんで一歩前に出るんだって。しょうがないから後ろにもう一歩下がる。するとまた距離を詰めてきた。


「……つーか、何で前出てくんのアンタ」


 同じこともう三回繰り返したら、何だか聞くのもバカバカしいなぁ。つーか、マジで意味不明だこの米俵。


「招いていたのはお前だろう」


 米俵男の意外な答えに、思わず周りを見回せば確かに扉から離れて既に部屋の中。…えーとつまり、俺が下がって室内に入れって意思表示したと思った?


「そんな解釈するのはお前くらいだっっっ!!」


 うあ、ダメだ限界。体調無視して叫んだらめまいがしてきた。目の前に比喩でなく星が舞って、身体に力が入らない。床に倒れるかと思ったら、あったかい感触がして逆に身体が浮く感覚すらする。けど、まだ目の前がチカチカしてよく見えない。


「…―――ん」


 誰か、多分ゼメキスが何かを言ってるけど、聞き取れない。アイツ、ただでさえ言ってることワケわかんないのに欠片だけなら最早理解不能だって。そう思ってると背中にシーツの感触がして、ベッドに横になったんだなって分かった。離れようとする気配を感じて、視界不良のまま手を伸ばしたらどうにか何処かを掴めたらしい布地の感触。


「聞きたいこと、あんだから治るまでちょっと待ってろ」


 人の出鼻を挫いたのはそっちなんだから責任とりやがれ。

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