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あの後は、穏やかなもんだった。
最初はまた何かあんのかなぁって戦々恐々としたもんだったけど、結局ガルツァも来なかったし天気も少し荒れた日もあったけど大体は晴天続きで、洗面器と友達にはならなくて済んだ。
俺はガルツァが来た日の甲板掃除から、艦長室から出ては掃除とかロープの管理とか料理の味見とか、色んなところの手伝いさせてもらってた(ちょろちょろ邪魔してた、なのかなぁ)。ご飯もみんなと食べるようになったし。
翌日から無口男のゼメキスは部屋に来ることもなくて、何処か別の部屋で寝てるらしかった。仕事とかもそっちでしてるっぽくて殆ど顔を合わせることもない。それなら最初っからさっさとそうしてろよ、とか思うんだけどさ。今は俺がこの船で一番広いらしい艦長室を独り占め状態。
………正直、あんまありがたくねぇんだけどなぁ。勿論ゼメキスにいて欲しいってんじゃなく(ここ外せないポイント)、クルーですらないのに部屋独占しちまってるって、状況がさ。ネレイドは『俺はお客様』って言ってたけど、みんなとバカ話しながらちょっとずつ聞いてみると、この船ってローデンの正規の軍船らしいんだよな(ローデンは基本的に内陸の国だから、船は少ないらしいけど)。
しっかし、そんな軍人さんらが、何で俺をお客様扱いして国に連れて行こうとするんだろう。考えてみたらえらい不思議。
異世界人が珍しいから見世物にしたいとか?(考えてげんなりした。勘弁してくれ)。
―――いやいや、現実的に考えようや俺。見世物にこんな丁重な扱いはしねぇだろ。
でもそれならなんだろ…俺に何かさせたいとか? でも寧ろこの世界の人間じゃないから知識かなり乏しいし出来ないことの方が多いぞ。まぁ、確かに俺には『壁』って力があるけど…、この世界には魔術師って存在がいるんだから、一般人には難しい大抵のことはそういう人がちゃちゃっとやってくれるんじゃねぇの?
「魔術師にも律があるんですよ、トシオ」
船を降りて陸路初日。親しくなったクルーのみんなは船の維持管理があるからってことで残念だけど港で別れ、ゼメキスやネレイドを含めた数名の騎士と一緒に宿屋に入った。
なんだか急に回りに人が少なくなったなぁって思ったけど、聞いてみたらここはまだローデン王国じゃないらしく(そういやローデン王国って、地図で見ると翅の斑点みたいに小さい内陸の国だったんだよな)、他国の軍隊が大勢で動くのも目立つし国交上良くないだろうなぁ、と納得。俺が逆にこの国(ヨハス王国、だっけ?)の権力者だったら痛くない腹でも探られてんのかなって思うもん。状況にもよるんだろうけど、拘束されて拷問とか、下手すりゃ戦争? てなってもおかしくないよな。
なんで、みんな町で見かけた一般人みたいな、っていうかそれより地味なアースカラーの服で、港町外れの清潔そうだけど目立たない感じの宿に移動になったワケ。
俺は久々の新鮮な材料を使ったおいしい食事の後に、これまた久しぶりに揺れないベッドの感触を跳びはねつつ満喫してたんだけど、そんな時にお茶セットをトレイに乗っけてネレイドが部屋を訪れたもんだから、バツが悪いのなんの。けど折角だからってんで、それをえいやっと無視して優雅な夜のティータイムになった。
ネレイドとゆっくり話すのも結構久しぶりかも、と思いながら思っていた疑問をぶつけてみるとそんな答えが返ってきたんだ。
「リツ?」
「ええ。魔術師は人よりも多くの力があります。ですから、人に自ら『力』で干渉することは律で制限されているんです。その魔術師の力が強ければ強いほど、その律には拘束力があります」
あー、法律の律か。ネレイドの説明にようやっと漢字を当てはめて頷いた。
「例えば、我がローデンには宮廷魔術師が複数いますが、彼らの力はそれぞれ拮抗しています。ですからあまり律に縛られてはいません。ですが、彼らを上回るような『色位』の魔術師は確実に律で縛られます。彼らを止められるものが人の側にいないからです」
なんでも、シュノーゲンは神の手を離れた世界で、其を見守り支えるのは人であり人ではない四大魔術師なんだそうな(神様や天使がたっぷりいるのが当たり前の俺からしたらそれでやってけんのかなぁって思っちまうけど)。
この世界の人ってのは誰でもある程度の魔力を持ってるらしいんだけど、四大魔術師の創る理は魔力が強い人、えっとつまり魔術師として身を立ててる人により強く拘束力があるんだって。
それも破ろうと思えば破れる穴だらけの国の法律みたいんじゃなくて(逆にそんなに法律って穴ばっかなのかって思うけど)、例えば呪歌を歌おうとしたら声が出ない、みたいな律を犯そうとする魔術師の動きを制限しちまうもんらしい。
「ショクイって? …あれ、じゃあガルツァは? アイツ、宮廷魔術師なの?」
にわか講義に焼き菓子ほおばりながら頷いてたけど、また疑問がわいてきたから聞いてみた。ガルツァ、ガシガシ雷とか出して干渉しまくってたよなぁ。それが出来るってことは、宮廷魔術師レベルの魔術師(うわ、まわりくどっ)ってこと?
「名に色を冠することが許される魔術師を『色位の魔術師』と言います。『紫紺のガルツァ』は『黒のシャイア』がいない今、この世界でもっとも長寿の魔術師でしょうから、我が国の宮廷魔術師が束になっても太刀打ち出来ないでしょう。…今回の件は人に直接的害を与えたワケではないので、律の対象外でしょうが……どちらにしても『契約』をすれば話は別です」
ガルツァの名前を出したとき、ネレイドは深いため息をついた。ガルツァのこと、苦手なのかなぁ。あの時の硬い表情を思い出しながら話を聞く。
えーっと…シェインは確か前に「魔力が高ければ高いほど長生き」って言ってたから…つまりガルツァの魔力は相当高いってことか。…傍目からは全然長生きに見えなかったけどなぁ、アイツ。寧ろ外見的にはゼメキスとかのが年寄りじゃん? 眉間に皺とか出来てそうだし。って。
「『契約』?」
あの時ゼメキスとガルツァがそんなこと話してたような。そう思いながら冷め切る前にお茶を飲み干す。
この世界のお茶って、色は紅茶っぽいんだけど、味は緑茶っぽい雰囲気もするんだよなぁ。でも、焼き菓子に合うしあんま渋くなくて好き。それを知ってるネレイドは、丁寧にもう一杯注いでくれる。ちゃんともこもこのカバーで保温されてる焼き物のポットからお湯が注がれるのを眺めながら、彼の手は剣士って聞いてもちょっと信じられないくらい、男にしては細めで繊細だよなぁって思ったりした。うん、白桜だったら『聖母』のみたいな―――深窓の令息みたいな手。
でも、元の世界じゃ考えられない優雅なティータイムだ。あっちじゃ、自販機の紙コップがせいぜいだったもんな、自分で淹れたりするのはさすがに面倒だし。
「ええ、代償は様々ですが『契約』することによって『色位』の魔術師を使役することが出来ます。それも律の一部なのですが」
「……じゃあ、ガルツァは誰かと『契約』してあの時ゼメキスに何かさせようとしてたってこと?」
「―――さあ…それは、ガルツァ本人に聞いてみないと、分からないですね」
俺の質問に、ネレイドは初めて曖昧な笑みを見せた。確かに、それはそうなんだけどさ…そんな「どう言えばいいかなぁっ」って笑みするほどでも、ねぇと思うんだけど。




