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銀色の『壁』に包まれて、俺は中空から船めがけて墜ちてく。
雨も雷もまだ続いてる筈なのに、それを感じられない猛烈な、容赦ないって言えるくらいのスピードであっという間に甲板が目の前に近づいてくる。
ちょっと。
ちょっとまて。待った。
俺、高所恐怖症なんですけどーーーーーーっっっっ!!!
動揺して思わず丁寧語になるくらい、マジに怖い。上空で呑気にしがみついてるだけならまだしも、このスピード感が半端ない。何でこんなことしちまったんだって本気で死ぬほど後悔。でも、だってさ、どうしてもやだったんだもんよ!
大丈夫。
大丈夫、俺には『壁』がある。
俺にも船にも傷はつかない(多分)。
だから平気平気へいき……って、それでも怖いものは怖いんだっっっ!!
自分を落ち着かせるのに失敗して半泣きになりながら、いよいよぶつかるっていう瞬間俺は目をぎゅっと瞑った。
思ったよりは少ない衝撃。それでも声が出なくて、身体を硬くしたまま息を詰まらせる。い、生きてて良かった。
「………無茶をするな」
―――耳元に、低い声が届いた。触れてる箇所の、あったかい体温。誰のものか、なんてこの短い期間でわかっちまってる。それでも確認するために恐る恐る眼を開けた。―――って。
「またこのカッコかーーーっ!」
思わずがば、と身体を起こして全力で叫んだ。バランスが崩れてぐらりと揺れて慌ててしがみつき直すのがメチャメチャカッコ悪い。そして殆どアイツが動じてないのがまたムカつく。
……いや、だってさ。
眼を開けたらまた俺が米俵状態になってたらそう叫びたくもなるじゃん? いや、正確には全身密着の上両膝を裏から抱えられてるみたいで、米俵になる一歩手前みたいなカッコだったけど。
「仲いいねぇ」
ゼメキスが返事するつもりだったのかは謎だけど、俺が叫んだ直後笑み含みの声が上からかかってきた。何の嫌味だ一体。そう思いながら身体を捻って上空のガルツァを睨むと、くすりと笑いながらゆったりと重力を無視したスピードでガルツァが降りてきた。本当、ガルツァって何者なんだろうなぁ。魔術師とか誰かが言ってたみたいだけど、この世界の魔術師って万能すぎねぇ?
しかし、どうやら俺が多少叫ぶのに動こうが捻ろうが、無口男は俺を離すつもりがないらしい。なのに俺がスムーズに動けるように腕の位置とか微妙に動かしてる感じがした。
……変なの。
あ、いやおかげで米俵もどきより楽なカッコにはなれたけどさ。…なんかあれに似てる気がしてならない。言いたくねぇけど、曲げた腕に座った感じの、子供抱き? とかいうヤツ。ひょっとしてコイツの抱き方のポリシーって『相手の神経に障るように』ってモンなんだろか。
「退くか、ガルツァ」
「そうだねぇ…健気な子に感服。今日は退いとくよ。後おまけ、これ、使っときな」
俺を抱き上げたまま(いや、俺どう考えても軽くないんだけど。どんな筋肉してんだコイツ)のゼメキスが、空から降りてきて今は甲板に僅かに浮いているだけのガルツァに再び尋ねた。それに対して、ガルツァは呑気そうな返事と共に何かをこちらに向けて放り投げてきた。俺は片手を咄嗟に出してそれを受け取る。素材は上質そうだけど、やけに大きな白手袋。俺には大きそうだし、…多分ガルツァよりも大きいと思う。さっき俺をしっかり支えてはくれてたけど、それほど体格的に差はなかったし。
「―――そうか」
さっきまでの顔が嘘のように、淡々とゼメキスが返事をする。何か、俺の手の中にある手袋を見ただけで分かった感じだった。何だよこの以心伝心ぶり。疎外感たっぷりなんだけど。
そんな俺の心境も知らず、「じゃあねー」と最後までマイペースなままガルツァはまたふわりと浮いてそのまま何処かに飛んでいった。
それから、数時間。
ガルツァが去って直ぐ雨も雷も消えてまたピーカンに戻ったんだけど、船の上は雨で濡れてしっちゃかめっちゃかだった。なんで手の空いてる全員で甲板の掃除開始、俺も初めてそれに混ぜてもらった。ただお客様扱いっていうの慣れてねぇし、みんなが働いてるのに部屋でぼけっとしてるのも居たたまれなくなるじゃん? あ、いや、船酔いしちまってたらそれどこじゃなくなると思うけどさ。
で、それも終わってメシも皆で食べて、満腹状態で……やっぱり艦長室に戻ってベッドでまったり中(当然無口男は居なくて一人だ)。
でも、久々にこう、集団で身体動かすの楽しかったなぁ。一気に並んでモップがけー、みたいな感じ。何人かと、ちっとぎこちなかったけど会話できたし。なんか、白桜思い出してしみじみしちまった。…いや、まぁそんなに昔のことでもないんだけど。でもあっちの皆どうしてんだろうなぁ、俺いきなりこっち来ちまったから騒ぎになってるかな。結界解けたとか『魔』に消されたとか思われてんのかな……、弔い合戦なんて見当違いのとこにされたりしたら胃が痛みそうだ。
しっかし、本当いきなりこっち来ちまったもんな……変な夢見て起きたら目の前にタミフルそっくりのライルが居てさ。それっぽい兆候くらいあってもいいと思うんだけどなぁ、お陰で混乱してライルには変なこと言っちまうし恥ずかしいっつうの。例えばさ、眠る前に変なモノ見たとか、歪み見つけたとか、だとしたらあんなこと…。
……――――――あれ。
ベッドに横になりながら満腹になったせいで自然と眠りにつく間にぼんやりと考え事をしていたら、ふと違和感を感じた。
この世界に来る直前に見たのっぺらぼうの夢。それははっきり覚えてる。
けど、その前。夢を見る前のこと、眠りにつくまでの記憶が、酷く曖昧で―――違う―――記憶が……ない……? あれ―――俺、あの時…なに、して……誰と、…いたっけ…………?
そこまでが限界だった。
お腹一杯の時に考え事なんてするもんじゃない。結局、俺は眠気に全面降伏して寝ちまった。




