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第2話:“家族経営”のお蕎麦屋さん

「マコ、閉店の札を出してきてくださいね」

「はぁい!」

仕込んだ蕎麦はおおかた売れた。今日も[二八そば 聖]は大盛況だった。


お店を閉めて、片付けをして。

「山菜が少し残ってるわね」

貯蔵庫を開けながらジャスティナがそんなことを言ったから、ヒジリは嬉しそうに答える。

「じゃあ、まかないは山菜蕎麦にしましょうね」


ややあって、テーブル席に座るマコの前に、優しい香りの蕎麦が置かれた。



「お父さんのお蕎麦はおいしいなぁ……」

あたたかい出汁だしが、ひと仕事終えたあとの体に染み渡る。

仕事後のこの時間は、マコにとって何よりの楽しみだ。お父さんの蕎麦は本当に、本当においしいから。


「ほらジャスティナ。マコがまた褒めてくれましたよ。嬉しいですねえ。そうそう。マコは3日も働いてくれましたからね。これを食べ終わったらお給料を渡しましょうね」

遅れて席に着いたヒジリがニコニコとしながらそんなことを言ったから、マコは慌てて尋ねる。

「お給料って、そんなに早くもらえるものなの?」

「働いた成果はすぐに出たほうがいいでしょう?」

「買わなきゃいけないものとか、今のところないし……」


本来であれば、あれこれと買い物をしたい年頃だけど。

なにしろ、ほしいと思ったものは全部ヒジリが買ってくれるから、お財布を出すすきなんてない。

「たまには街にでも出て、好きなものを買ったらいいんですよ。特にないなら、貯金しておくといいでしょう」

「貯金かあ……」

「18歳にもなれば、なにかと入り用でしょうからね」



[二八にはちそば ひじり]のホール係として働くマコは、18歳になったばかりだ。

線が細く小柄で、顔立ちは少し幼い。いかにも日本風といった重たい色の黒髪はゆるい三つ編みに束ねて、大きなリボンをつけている。


この店の調理長ヒジリは壮年といった年頃の男性。細身だが高身長で、切れ長な瞳を持つ。短めに刈り揃えた髪は、輝くような銀色をしている。


そして料理番のジャスティナは、顔立ちも体つきもどうにも派手な見た目の女性だ。意志の強そうな瞳に軽くかかる金髪のロングヘアは、高い位置でまとめている。


ここは、“家族経営”の蕎麦屋だ。

しかし、はっきり言って、3人はまったく似ていない。


「お仕事には慣れてきた?」

隣で蕎麦を豪快にすすりながら、ジャスティナが問いかける。

「うん。お父さんやお母さんが、何でも助けてくれるから」

「当たり前よ。マコが困ってたら、私がすぐに助けるんだから」

「ああ、お父さんのほうがもっと先に助けますよ」


それでもマコとヒジリ、ジャスティナはたしかに家族なのだ。

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