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第13話:蕎麦の製粉

「さて、風で蕎麦殻そばがらを外し、実を磨き上げました。あとはこれをお店に持ち帰って、粉にくだけです」

蕎麦の実が入ったザルを、ヒジリは「よいしょ」と持ち上げた。

からは捨てちゃうの?」

「蕎麦殻は、布に入れれば蕎麦殻(まくら)になります。あとは、布で作るぬいぐるみみたいなお人形の中に、ワタの代わりに入れることもあります。消臭作用があって、イヤな匂いとかを取ってくれるんですよ」

「へぇ」

そういえば、蕎麦殻の枕というのは聞いたことがあるかもしれない。

「街道沿いの雑貨のお店がそういうのを作ってるんで、蕎麦殻が溜まったら差し上げてるんですよ。そうするとたまに、妙な形のぬいぐるみを作って持ってきてくれるから、お店に飾ってます。……じゃあ、マコは集めておいた蕎麦殻を持ってくれますか?」

どうやら、お手伝いできることがあるらしい。

マコは張り切って、蕎麦殻の入った袋を持ち上げた。


+++


[二八そば 聖]の厨房には、大きな石臼が設置されている。

お店に戻ったヒジリは、収穫してきた蕎麦の実を石臼に注ぎ込むようにした。

「本当であれば、石臼を手動で回してゴリゴリ、ゴリゴリと一生懸命蕎麦をくんですけど、めちゃくちゃ大変なんですよ。それで……」

石臼を労わるように、ぽんぽんと撫でる。それだけの仕草だった。

石臼は、勝手に回り始めた。ゆっくり、ゆっくりと緩慢かんまんな動作で。


「先日見せた縫い物の魔術に近いでしょうか。魔術を使えば、任意の道具に任意のモーションを加えることができる。あとは、蕎麦の実を継ぎ足しながら、のんびり待つだけ」

「魔術って……便利なのね」

マコは感心する。

ひとりでに回る石臼はとても不思議だった。


「それにしても、マコに蕎麦のアレルギーがなくてよかったです」

石臼で製粉した蕎麦粉をまとめながら、ヒジリが笑った。

「アレルギー……ああ、あれ」

マコは客席の脇にある貼り紙を指さす。


【蕎麦アレルギーについて】

ごくまれに、蕎麦を食べて体調を崩す方がいます

ご気分が悪くなりましたら店主にお声がけください


「蕎麦のアレルギーは重めに出ますからね。今のところ、このお店で蕎麦アレルギーを発症した人はいないけれど、念のために貼り紙をしているんです」

「この世界にもアレルギーってあるのかあ……」

マコも、日本ではときどき蕎麦を食べることがあった。蕎麦に限らず、マコは食品のアレルギーを特に持っていなかったから、食事に気を使うこともなかった。


「もしも、お客さんになにか異変があったら、とにかく何をするより早く、私に声をかけてください」

「わかった」

マコは素直に頷いた。


話をしているうちに、蕎麦の粉はずいぶん溜まってきた。

「この粉は、今日のうちに打ってしまうの?」

蕎麦を打つ様子は、営業前に何度か見せてもらっている。だからマコには勝手が分かっていた。

粉を水で練って、まんまるのかたまりにしたあと、棒でグイグイと伸ばす。それを畳んだら、あとは刃の魔術でサッと切って仕上げる。

ヒジリは毎朝、そうやって蕎麦を仕込んでいるのだ。


「生地を作って一晩寝かせるという方法もありますけど、私は当日の蕎麦は当日打つようにしています。打ちたてはおいしいですからね」

どうやら、ヒジリなりのこだわりがあるらしい。


これだけ手間をかけ、こだわりを尽くした蕎麦だ。道理でおいしいわけだ。

マコは妙に納得してしまった。


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