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第12話:収穫のお手伝い

「今日はずいぶん早く売り切れましたね」

夕刻と呼ぶにはまだ早い時間。仕込んでおいた蕎麦がなくなったから、[二八にはちそば ひじり]は早々と閉店することになった。


「まだ日も高いし、お天気もいいし。今日は蕎麦を収穫しておきましょうか」

まかないのざる蕎麦をおいしそうにすすりながら、ヒジリが言う。マコは首を傾げた。

「収穫?」


+++


ジャスティナは街場に買い出しに行くそうだ。マコは、ヒジリに「収穫を手伝ってください」と言われたから、動きやすい服に着替えたあと、畑についていくことになった。

店舗から蕎麦の畑までは歩いて5分ほど。お店のある街道沿いはそれなりににぎわっているけれど、裏手にしばらく行けばそこにはあまりにものどかな田園風景が広がっているのだ。

田や畑の広がる農耕のうこう地の一角に、赤い花と白い花が咲く風光明媚ふうこうめいびな区画がある。これがヒジリの蕎麦畑だ。


「この蕎麦畑は、花が時間差で咲くよう調整しています。だから、奥側は今ちょうど、花が終わって、蕎麦の実がついているんです」

畑の奥に向かって歩みながら、ヒジリが説明した。

「実……って?」

「収穫、手伝ってくださいね。まずは、刃の魔術で刈り取りをして……これを拾って荷車へ」

言いながら、ヒジリは短く詠唱した。乾燥した蕎麦の株がザッと断ち切られる。

マコは、言われた通り蕎麦の茎を荷車に乗せた。

「収穫した蕎麦は、魔術でカラカラに乾燥させます」


「お父さんは、魔法が上手ね」

荷車に乗せた株にゆっくり熱を入れていくヒジリを見ながら、感心したといった風にマコが言う。

「そうでもないんですよ。年を取って、魔力はずいぶん落ちました」

そう話すヒジリだけど、その声に残念そうな響きはなかった。

「そうなの?」

「ずうっとね、魔術を使って仕事をしてきたんですが、魔力が落ちたのを機に早期退職しました。でも、蕎麦粉の精製せいせいができるくらいの魔力はあるので、困ることはないです」

ヒジリがどんな人なのか、マコはまだまだ知らない。かつての仕事の話はとても興味深いと思った。


「それに、うちには魔術にひいでているジャスティナもいます。このお店の前は街と街をつなぐ大きな街道で、少しガラの悪い連中とか、血の気の多い冒険者なんかもいるんですけど、ジャスティナがいればたいがいの問題は解決します。頼りになるんですよ」

「お母さん、強いんだ」

ヒジリはその言葉を聞いて、クスクスと声を出して笑った。

「強いなんてものじゃない。彼女は最強ですよ」

「どれくらい強いの?」

よくぞ聞いてくれた、といった誇らしげな表情でヒジリは答える。

「ドラゴンを一刀両断いっとうりょうだんするくらいです」

「えぇ!?」

ジャスティナは、背丈こそマコより高いものの、ガッチリした体型というわけでもないし、戦士のように力強い雰囲気でもない。

ドラゴンを倒せるなんて、あの容貌ようぼうからは想像もつかない。


「さて、風術で茎から蕎麦の実を外して……あ、大きなザルを取ってくれますか?」

マコが荷車の端から竹のザルを取り出して渡すと、ヒジリは指先に軽く風をまとった。パラパラと、ザルの上に黒い種子が集まっていく。

「これが蕎麦の実」

ヒジリはザルを軽く振る。ザァッ、ザアッと海の波みたいないい音がする。

昔ながらの製法だと、ここからの工程は石臼いしうすで行うんですけど、私は魔術師なので」

そう言いながら、蕎麦の実を強い風であおった。

「マコだって、練習すればこれくらいの魔術は使えるようになりますよ。練習するならいつでも付き合います。元いた世界には魔術、なかったのでしょう?」

「うん」


ヒジリはマコの指に軽く触れた。

「じゃあ、指先をこうやって立てて、風をイメージしてみてください」


言われたとおりに、頭の中で指先に風を吹かせてみる。


ふわ、と空気が動いた感じがした。

「うん、上手です」

ヒジリが微笑んだ。

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