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第11話:マコのお仕事着

ヒジリにうながされ、あらためて椅子に座る。

「ジャスティナくらい魔力の高い人なら、お風呂も1分ほどで作っちゃいますけどね」

そう言われて、マコは昼間のことを思い出した。ジャスティナは、瞬きするほどの短時間でお風呂を沸かしてみせたのだった。

「あれは普通の人には難しいです。それでも、この世界には魔法があって、この世界に来たばかりのマコだって、簡単な魔法ならすぐに使える。どうです、なんだか素敵でしょう」

そう説明して微笑むヒジリは、なんだか得意げだった。


「ほかには、どんな魔法が……」

勢い込んで尋ねてみた。

「指先に炎を出すとか、風を出すとか、軽く空に跳ね上がるとかね。ああ、室内では危ないから今は使わないでくださいね。また明日にでも、外でやってみましょうか。私はさっきみたいに、人のケガを治すような魔術を使いますが、治癒系魔術の使い手は少ないです。ほかにもいろいろ……」

説明しながら、ヒジリはふと手元に目をやる。


「ああ、少し変わったこともできますよ。今ね、縫い物をしていたんです。魔法の針があって、これに少しモーションをかけるというか……道具に自在な動きを足す、とでもいいましょうか。そうすると、衣類をきれいに縫い上げられる。それでね」

ヒジリはテーブルの上に無造作に置いてある布を「じゃーん」なんて言いながら掲げた。

「これ、マコのお仕事着です。街道のバザールに東方の衣類が大量に出ていたので、購入して軽く手を加えてみたんですけど……」


その衣服は、日本の和服に少し似ていた。襟元は左側を前にして合わせるようなスタイルで、袖口にはゆとりがある。さらに、プリーツのロングスカートがセットになっている。着物というよりは……。

「袴、みたいな。ああ……はいからさん、だ」

「こういうの、あまり好きでなかったら申し訳ないんですが……」

ヒジリがすまなそうに言うから、マコはぶんぶんと首を振った。

「ううん、かわいい。っていうか……かわいすぎちゃってる。かわいすぎて、私には、似合わないかも……」

「とんでもない!」

今度はヒジリがぶんぶんと首を振った。

「マコは何でも似合います!」

そんな風に言い切る。なんだか妙に照れてしまった。


「洗い替えで、あと3着くらいは作りたいと思っているんですけど。色違いでね、買い込んできたんです。小花柄が似合うでしょうかね。温かい色合いのものもいいでしょうね。ああ、髪につけるおリボンなんかも買ったんですよ」

その勢いに少したじろいだけれど。

「お父さんが作ってくれたんなら、着るのが楽しみだな……」

ふと、そんな言葉を漏らしてしまった。

ヒジリはいよいよ、嬉しくて仕方がないというようにぱあっと笑った。


それから、とりとめもない話を少しだけして。

「真夜中だし、あまり起きていてはいけませんね。私ももう寝ますから、マコも、ね」

ヒジリとの会話は楽しかったけれど、そう促されたから今日のところは引き上げることにした。


「おやすみ」

「おやすみなさい」

そう言い合って、階段を昇ろうとして、ふと思い出してヒジリに話しかける。

「そうだ。ねえ、お父さん。月が2つあった」

「それは不思議でしたねえ」

クスッと笑い声が聞こえた。



+++


そうやって、マコは家族の一員になり、お蕎麦屋さんの店員になった。


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