プロローグ:看板娘マコ
[二八そば 聖 商い中]
マコはお店の扉に木の看板をかける。そうしてから、
「いらっしゃいませ!」
元気な声でお客さんを出迎えた。
この蕎麦屋で店員として働くマコは、袴風の少しレトロな衣装をまとっている。そして、ゆるく編んだ黒髪には大きなリボンをつけている。
お父さんお手製のかわいい制服は、マコのお気に入りだ。
「マコ、ざる蕎麦お待たせ」
「こっち、天ぷら揚がったよ」
厨房からかかった声に、マコは「はぁい!」と元気に返事をして、料理を運ぶ。
“家族経営”のお店だから、連携は抜群だ。
街道沿いに建つこの蕎麦屋は、「峠の茶屋」を思わせるような古き良き日本家屋風のお店。
茹で上げられる蕎麦の湯気に鰹だしの芳醇な香りが混じる店内は、ほんわかとあたたかい雰囲気に包まれている。
[二八そば 聖]は、日本国内のあちこちで見かけるような、“よくあるタイプ”のお蕎麦屋さん。
しかし……
実はここは、異世界だ。
賑やかな店内で絶品の蕎麦を味わっているのは騎士や冒険者、魔術師ばかりではない。ときにはエルフやドワーフなんてお客様もやってくる。店主のヒジリと料理番のジャスティナは、ときに魔法を使いながら手際よく料理を仕上げていく。
そして、お店の看板娘であるマコは、実は日本からの転生者だ。
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これは、素朴なお蕎麦屋さんにまつわる、とある家族の不思議であたたかくて、とびきり幸せな物語。