58、天国への道
目を開く。
ディレンはその、黒に染まった目を開いた。
「…………?」
俺はさっき、リエルネールに殺されたはずだ。
あの剣士に首元を一閃され、死んだ。
辺りを見渡す。
景色が大きい。
そして、なんだか懐かしい。
暖かい。
ここは、…ベッドの上か?
俺は寝ていたのか?
不意に、扉が開く音がした。
そこから2人の魔族が出てきた。
「起きたか?」
「うん、起きてるねぇ」
声がする。
やはり懐かしい、そんな声だ。
「……………」
声のする方向を向く。
「お前、名はなんという?」
聞き覚えのある声。
こいつは、ネルフェスだ。
こちらに指を刺して、いかにも偉そうに尋ねてくる。
「落ち着いて、まだ目覚めたばかりだ。しかも子供だし。子供だし」
「黙れショタコン」
そしてその左にいるのは、水の魔族ヴァーテだ。
数年前会った時と何も変わらない、ヴァーテだった。
「………ぁ」
ヴァーテと、発音しようとしたが声には出なかった。
声の自由が効かない。
口が、呂律がうまく回らない。
あと、発した声が高かった。
俺が発してるのか?この声は。
いや待て、この状況、なんか見覚えあるぞ。
ネルフェスとヴァーテ。
この二人と初めて対峙したのは、500年前。
そうか、これは500年前の記憶だ。
俺の姿は子供なのだ。
これは、走馬灯か。
?
いや?走馬灯はこんな鮮明な記憶じゃない。
じゃあ、なんだこれは?
ネルフェスは困惑している俺を見て、もう一度尋ねた。
「名前はなんだ?」
「…ディレン」
「そうか」
ネルフェスはそれを聞くと立ち上がり、この寝室から出ようと扉を手にかけた。
その後ろ姿を見守るヴァーテ。
不審に思い、声をかける。
「?ネルフェス?何処行くの?この子は?」
「もう、いい。お前がそいつを預かれ」
「…なんで?」
ギギギと音を立てて扉が開かれる。
ネルフェスが廊下に出て扉が閉まる寸前に返事をした。
「俺は子供が苦手だからだ」
ーー
そして、子供の姿の俺はヴァーテと共に廊下に出た。
誰もいないこの屋敷に、二人の足跡がこだまする。
「さっきのナルシストキザゴミカス魔族が、ネルフェスって言って、私がヴァーテって言うんだ。よろしく」
「よろしく」
ちょっと高い声に慣れてきた。
曖昧な返事をして、足元を見つめながら思考をする。
なんだ?これは?
あの頃の状況があまり思い出せない。
俺はなんでここにいるんだ?
「ん?どうかしたの?」
ヴァーテが俺の困惑した顔に気づき、問うてきた。
わからない。全部わからない。
思い出せ、思い出せ。
思い…
「…やっぱり、500年前のことは思い出せないよねー」
右に、勢いよく振り向いた。
今から500年前、その状況を知っているのは俺だけのはず。
「久しぶりだね、ディレン」
「…ヴァーテ、なんでお前」
少し上半身を屈ませ、こちらに目線を合わせながらニコニコしているヴァーテが急に奇妙に見えた。
「なんでってそりゃ、ディレンが死んだからね。会いに来た」
「…死んだって、…まぁ…数年振りだからな」
「だね、あれなんか、背ぇ縮んだ?」
「黙れ」
右腕を掲げ、いつもの癖で土魔術を出そうとするが、発動しない。
「魔術は使えないよ。ディレンにはもう魔力がないからね」
「…そうか。死んだらそうなるよな」
少しずつ、状況が飲み込めてきた。
これは、記憶じゃない。走馬灯でもない。
ヴァーテが何かしらの力を使った、幻術みたいなものだ。
「ネルフェスはこの記憶知っているのか?」
「いや?あいつはまだ生きているからね」
どうやら、死んだ者でないとこの記憶はないらしい。
じゃあネルフェスは単純に子供が嫌いなのだろう。
「じゃあ、なんのために俺をここに連れてきた」
「ん?連れてきたのは私じゃない。ていうかここはまだ現実だよ」
「は?」
どういうことだ?ここが現実なら、今見ているものはなんなんだ?
じゃあ、誰がここに?
どうやって?
「ヒーメル山脈って知ってるよね、ディレンが拠点にしてた」
「あぁ、それはわかる。…え?ここが?」
「うん、ここがヒーメル山脈の頂点。詰まるところ、天国への道だよ」
「天国?本当かそれ」
「うん、死んだ当人の1番印象に強い場面が現れるんだって」
天国。
魔族が女神が住む天国に行けるとは思わない。
いったい、何故。
二人は廊下を歩き、突き当たりの扉の前についた。
そこで立ち止まってヴァーテがディレンに視線だけを向けて言う。
「ここから先は天国だよ」
「…なぁ、本当に天国なのか?」
「…呼び方はなんだっていい。死んだ魂が行くところは一つだけなんだから」
「…そうか、そうか」
いつの間にか、俺の姿は元のサイズに戻っていた。
声を低くなっている。
なんだか、新鮮。
「じゃ、私はここで」
「…あぁ、また何処か会えたら」
行くか。
ドアノブに手をかける。
最後に後ろを振り向いてヴァーテに話しかける。
「ちなみに、なんでお前はこの屋敷にいるんだ?」
「あぁ、本当に忘れちゃったんだね」
ヴァーテは反対側の壁に体重を乗せながら小さくつぶやいた。
扉のドアノブを下げ、扉をゆっくりと開く。
「そりゃ、私もネルフェスと同じ後継者だからだよ」
それを最後に、自分の目に映る景色は全て白く染まった。
もう、何も感じない。
何も感じれない。
これが、死か。
刹那、記憶が蘇る。
「…誰だ?」
最後に、一瞬誰かの顔を見た気がした。
思い出せない。
何処かで見たことがある。
感じたことがある。
だけど、何も感じれない。
それを最後に、ディレンの意識が途切れた。
〈裏話〉
・最近また描き始めた。
眠い。
・屋敷
この屋敷はアラグラテルのもの
何度も言います。暗記科目はクソです。
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