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リエルネールの二人旅  作者: せきち
第4章 魔族の思惑編
61/63

57、アリラ籠城-リエルネール-

岩壁(エ・ラーネ)

「い゛ぃっ!」


リーラとレノフはそれぞれ左右に跳び、ディレンの岩壁をかわす。


でんぐり返しで体勢を立て直し、リーラは杖を構える。


詠唱。


光線(ラ・ルーシャ)

岩壁(エ・ラーネ)


ディレンの左の腕から生えた岩壁が、光線を妨げる。

魔力が霧散し、光線が消える。


「ちっ」


リーラが下手な舌打ちをする。


反対側にいるレノフも杖を構え、その先をディレンに向ける。


光線(ラ・ルーシャ)

「うっ」


ディレンは頭を斜めに傾けて光線を避ける。

額に浮かぶ冷や汗が地面に滴る。


もう、両者とも余裕がない。


消耗戦になったら、リーラとレノフに勝ち目はない。

だから、攻めろ。


リーラも残り魔力が三分の一ぐらいになってるし、レノフなんて見えない魔術2回使ってるからもう本当に残り少ない。


なるべく省エネしていかなくては。

ディレンが両手を前に出し、詠唱をする。


それと同時にリーラも杖を構える。


岩壁(エ・ラーネ)

光線(ラ・ルーシャ)


これは、魔術を貫通する光線。


それがディレンの左手の人差し指と中指を貫通し、魔力の供給が途切れ、岩壁が霧散する。


「ゔっ」


ディレンがうめきをあげながら右腕を下げ、右手を地面に当てる。


リーラは何を感じたのか後ろにいるレノフを手のひらで押し出す。


「レノフ!()が…」

岩壁(エ・ラーネ)


中から岩でできた棘が飛び出し、リーラの右のふくらはぎを貫通する。

骨ごと貫く。


「あ」


真っ赤な血が空を舞う。

レンガの破片があたりに散る。


一瞬遅れ、リーラの足に激痛が走る。


痛い、痛い、痛い!


「あ゛ぁぁぁあっ!」

爆発(ルク・セルク)!」


レノフの詠唱。


そして次の瞬間、リーラの脚に突き刺さる岩の棘が爆音と共に吹き飛ぶ。


しかしリーラの足は吹き飛ばずに残っている。

直撃した地面にも何の被害もない。



爆発。詠唱はルク・セルク。

火属性の魔術。


この魔術は性質上、魔術により生成されたものにしか効果がない。

しかも、固体限定。


水の魔術は硬化させることも出来るが、爆発は火属性なので消火されてしまいほとんど効果がない。


なので実質、この爆発は土魔術限定の魔術だ。

しかも、これが意外と魔力を食う。

非効率極まりない魔術なのだ。


あとこれが1番重要なのだが、この魔術は現在の魔術協会が有している基本魔術録には、掲載されていない。


基本魔術録と言うものは、全ての属性の、魔術の詠唱が全て詰め込められた厚い本のことである。


まぁ、簡単に言えば魔術の詠唱辞典。


それに掲載されていないと言うことは、この魔術は非公式の魔術。


つまるところ、爆発。

これはレノフのオリジナル魔術である。


火魔術の基礎、火球(ル・カム)と魔力を有したものにのみ効果のある魔術、溶解(ル・イザ)を組み合わせたものである。


まぁ、色々説明するのはめんどくさいんで省略するが、この爆発の魔術展開に詠唱を付け加え、爆発が完成したと言うわけ。


よし、説明終わり。


「は?」


ディレンはその、今まで見たことのない魔術を見て思考が一瞬停止する。


「ナイス!レノフ!」


その間に我に帰ったリーラが、自分の脚に手を当てて無詠唱の治癒で回復させる。


そして後ろに引きずられるように下がる。


レノフが前にいるリーラに話しかける。

その顔は少し青ざめていた。

魔力切れの初期症状である。


「一旦、逃げよう。俺もう魔力ない」

「…っ…わかった」


今ディレンを逃したら、きっと次はもっと苦戦する。

貫通する光線だって通用しないかもしれない。


…いや、レノフが死ぬほうが痛手だ。



リーラが杖を強く握り、後ろを振り向く。

レノフも後ろを向いて、走り出そうとする。


ディレンが我に帰り、二本の指を再生し、腕を二人に向ける。


リーラが後ろから魔力を感じ、走る速度を増す。


レノフも、リーラの前を走る。


「やばいやばい、どうするこれ!」

「師匠なんかやって!」


ディレンの詠唱。


岩壁(エ・ラーネ)

「あー、もう!火の渦(ル・ワーム)!」


リーラは一瞬後ろを向いて、詠唱をする。


この風は、水素。

火と交われば、必然、爆発が起きる。


爆音。爆発。

アリラの街に何度目かわからない爆音が響く。



リーラの髪が靡いて、後ろを全く見えずにいる。

悲鳴を上げる。


「馬鹿馬鹿馬鹿!」

「あ、ちょっとまずい!」


リーラとレノフはあまりの爆風で走る方向に仰向けで倒れる。

ごちんと、顎が地面に衝突する音が脳内に響く。


「痛っは!」


リーラは舌を軽く噛んでしまい、痛さに顔をしかめる。


レノフは先に立ち上がり、倒れているリーラに振り向く。


「立って!師匠!」

「わはっは!」


これは、わかったと言っている。

口の端から溢れる血を抑えながら、リーラは立ち上がり、杖を握りしめ走る。

そしてレノフを追いかける。


ディレンは自身の腕をやられ、もう片方の腕で魔術を出そうとしていた。


が、目の前の景色を見て立ち止まる。



リーラとレノフも、同時にそれを見て立ち止まった。


両者とも、ポツリと呟く。


「あれ、ベルか?」

「キラクト…か?」


そこではベルが倒れていて近くの建物にキラクトが磔の状態で気絶していた。


何となく、状態はわかった。

この二人は相打ちになったんだろう。


急がなくては。

ディレンもきっと、あの魔族を助けるだろうから、たぶん大丈夫。


リーラたちは叫びながら倒れているベルに近づく。

そして、ベルの足元にしゃがみ込む。


口から血が溢れてるし、なんか死人の顔してる。

念の為、叫ぶ。


「ベル!」

「大丈夫、まだ生きてる」


息が荒いレノフが目を瞑るベルの口元に手を当てて、リーラに言う。


不意に、リーラは後ろを振り向く。


ディレンが二人に向けて腕を構えながら気絶しているキラクトに向かっていた。


レノフに顔を向き直し、リーラは叫ぶ。


「多分、私の方が魔力多いから、レノフあいつ足止めして!一瞬で終わらせる」

「わかった師匠」

「死なない程度にね!」


何故、魔力が多いからと言ったのか。

それはもちろん治癒をするためだ。


レノフは立ち上がり、ディレンに向かって杖を構える。


それを見届けたリーラはベルの首の下あたりに手を当てて、魔力を込める。


治癒(ラ・レイ)


え、やばいこいつ、体の後ろの方だいたい骨折れてる。

内臓も凄いことになってるし、本当に死にかけだったかもしれない。


少しでも処置が遅れたたら、それこそ死んでいた。


ベルの身体が魔力をグングン食う。

まずい、これ私も魔力切れになるかも。


…まぁ、いいや。


こう言う場面で活躍するのは、魔術師じゃなくて剣士だ。


そして数秒後、治癒が完了する。


魔力切れ寸前でへろへろのリーラはベルの腹軽く殴り、ベルを起こす。


てかこいつ、腹硬いな。腹筋か?


「おい、起きろベル」

「…ん?」


ベルは上半身をすぐに起こし、辺りを見渡す。

何が何だか、いまいち理解していないみたいだ。


まぁ、とりあえず元気そうだ。

少し、気が抜けた。


「…良かったぁ」


それと同時に、リーラが地面に倒れる。

ベルは慌てて倒れるリーラの方を向く。


「え、リーラ?大丈夫?」

「…大丈夫、魔力切れ」


リーラは掠れ声でそう言って震える右腕を突き出し、グッドサインを掲げる。


「じゃあ、あと頑張れ」

「…もちろん」


ベルは剣を持って立ち上がる。


すごい。

折れていた骨も、内臓も完治している。

魔術ってすげぇ。


剣を空中で一振りして、リーラの方を向く。

何故か、笑ってる。


「多分俺、今強いよ」

「…そう」


リーラは青い空を見上げながら、そう呟く。

春っぽい、雲がまばらな空だった。


ベルは振り向き、ディレンに向かって走る。 


走れ。急げ。

借りは返さなければ。


ディレンは、あの水の魔族に向かっている。

レノフもそこにいた。


何となく、最初よりもディレンは弱っているように見えた。


ディレンがキラクトのところに行く足止めをしているようだ。


岩壁(エ・ラーネ)

防護(ラ・クト)


迫り来る岩壁を、ひたすら防護でかわしている。


防戦一方だ。

フラフラになっている様子を見ると、きっとレノフも魔力切れ寸前なんだろう。


急げ急げ、急げ!


剣を、構える。

ディレンの目線が不意にこっちに向く。


その顔はなんだか狼狽えているようだった。

まぁ当たり前か。

さっき自分が瀕死にした相手だし。


レノフも、何が起きているかわかってない顔をしている。


腕を掲げるディレンが声を発する。


「なんで、何でお前…」

「食らえや」


ベルはレノフの左を通過し、地面を大きく踏み込む。


そしてその勢いのまま、ベルはディレンに肉薄する。

剣先が、ブレる。


一閃。


ディレンの右腕は一瞬で切り伏せられた。

宙をまい、地面に音を立てて腕が血と共に着地する。


それを見たディレン。

思考が一瞬停止しているようだった。


「は?」


ベルの顔はディレンを凝視している。


その顔には、怒りなのか、喜びなのかわからない感情が浮かんでいた。


レノフが後ろから声をかける。


「ベル、ちょっと遅い」

「ごめんって」


ディレンはバックステップをして体勢を整える。

身体能力がすごいのか、2メートルぐらい下がってる。


「くっそが」


腕を再生するより前に、ベルにもう片方の腕を向ける。


岩壁(エ・ラーネ)

「なるほどっ?」


ベルはディレンの方向の横側を走り出す。

そしてその直後。


翻った自身の緑のローブが岩壁に擦れる。


真正面に、めちゃくちゃ速く岩壁を生成したのだ。

ベルを貫こうと。


だけど、上手(うわて)だったのはベル。


方向転換をして、ディレンに向かう。

剣を右手に構え、走る速さを増す。


「そうか」


ディレンは回復した腕を地面につける。

この感じ、また来るか?


詠唱。そして、ベルの視線がブレる。


岩壁(エ・ラーネ)

「おあぁぁぁぁぁぁああっ!」


まただ。

またやられた。

空に打ち上げられた。


足元から、岩壁を伸ばされた。

心なしか、さっきよりも標高が高い気がする。


でも、さっきよりあんまり怖くない。

一度飛んだからなのか、高所恐怖症を克服したのかはわからない。


まぁでも確かに、ある程度の高さから落下しても死なないってわかった。

それがでかい。


レノフが叫ぶ声が聞こえる。


「ベル!」

「大丈夫!」


ベルは叫んで、体勢を整える。


大丈夫。やれる。

ちょうどここは、ディレンの真上だ。


ない魔力は探知できない。


詰まるところ、剣士は潜伏に有利なのである。


剣を下に構え、レノフに目配せをする。


レノフは軽く瞬きをして返事をする。

そして、地上のディレンに向かい杖を構える。


「どうだ、もう剣士もいない。お前も死にかけだろう。無駄な殺傷はしたくない。どうだ、諦めないか?」

「………」


少しの間をあけて、レノフは鼻で笑う。


いくら相手に殺す気がなくても、相手は魔族。

しかもこいつは極悪人だ。いや、極悪魔族。


何を今更。


命の恩人の、リーセが死んだその時から、俺はずっと死ぬ気だ。

そして、死なない気だ。


死後の世界でリーセに顔向けできないような死に方はしたくない。


…今だ


大きく息を吸って、

レノフの詠唱。


光線(ラ・ルーシャ)!」

岩壁(エ・ラーネ)


ディレンは右腕から岩壁を伸ばし、光線を防ぐ。


しかし、すでにディレンはもう負けていた。

上から、ベルが落下してくるのを一瞬見る。


ポツリと、ディレンが呟いた。


「…詰みか」


轟音。

土煙が舞い、辺りが見えない。


レノフも少し後ろに後ずさる。


もう、風の渦を撃つ魔力もない。

ただ、ベルが勝ってると信じなくてはいけない。


そして、土煙が晴れる。


そこには、ベルの姿があった。

地面に倒れ伏しているディレンの首下に剣を突き立てるベルの姿が。


ディレンが、腕を動かし魔術を発動しようとする。

が、腕が動かない。


脳を打ったのだろうか、体が動かない。

もう、負けか。


ギリギリ動く口を回して、呟く。


「負けたのか…」

「あぁ、多分偶然だよ」


ディレンの口元は、震えていた。

ここの筋肉の制御が難しいのか、恐怖でなのかはわからない。


「どうした、さっさと殺せ」

「…ちょっと、聞きたい事があるんだけどさ」


ベルは姿勢を低くして、もう光が消えかけているディレンの目を見て尋ねる。


「リエルネールって、なんだ?」

「……は?」


再びディレンの思考が停止する。


そして、何を思ったのか、くっくっく、と笑い出した。

ベルが困惑する。


「…どうした」

「いや、そうか。人間は知らないのか」


ディレンは震える顔をベルに向けて、話しかける。


勇気なるもの、リエルネール。

それは、


「鳥の名前だよ。リエルネールは、ただの渡り鳥だ」


次回、最終章。


〈裏話〉

・リエルネール

今考えると、なんだかカモメ見たいな名前してるよね


・キラクト

ずっと気絶をしている。

ベルから不意に喰らった攻撃が相当効いたのだろうか。

それとも、今まで一度も気絶をしたことがないからなのか、わからない。

トマトを丸ごとかぶりつくのか最近できた夢。

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